第25話 お茶会①
学校で親しくしている友人を招待したいと言ったらミヒャエルは涙目で喜び、屋敷中が大騒ぎになった。
ハルアカでは取り巻きはいても自邸に招くような仲の良い友人はひとりもいなかったドリスだ。友人を招待したいと言えばちょっとしたお祭り騒ぎになるだろうとは予想していた。
しかしミヒャエルの張り切りようは予想を遥かに上回った。
見栄えが良くなるよう庭と家を改装しようと言い始めたのだ。
さらには「いや、いっそ建て替えようか!」とわけのわからない空回りまでしはじめたところで「はしゃぎすぎです!」とオスカーに叱られていた。
そんなオスカーも妙に浮足立っていて気味が悪い。
「学生時代の友人は大事にしてください」
そんなことを言って、無駄に美しい顔をほころばせている。
大きく頷きながら、ちょっとからかってみた。
「それはアルトお兄様のことを言っているの?」
「あいつのことは呼び捨てでいいと何度言ったら……」
オスカーが笑顔をひっこめた。
アルトとはあれからも数回顔を合わせている。
その都度アルトがわたしに「婿になってもいいよ!」と言うのを、オスカーは快く思っていないらしい。
アルトのような裏表のある男になど絶対になびくものか。
それにアルトだって本気でそう言っているのではない。わたしを口説こうとするとするたびにオスカーが不機嫌そうになるのがおもしろいから、そう言っているだけだ。
3人のヒロインたちと過ごす時間はとても楽しい。
本音を言えば生涯仲の良い友人になれそうな気までしている。
とにかくオスカーは、3人の誰かとくっついて幸せになってくれたらいい。
だからこそヒロインたちを招待したのだから。
「バッタ探しをオスカーにも手伝ってもらうから!」
「かしこまりました」
あごをツンと上げてそう言い渡してもオスカーが口元に弧を描いて了承するものだから、思わずこっちがひるんでしまった。
「ねえ、わかってる? バッタよ?」
「もちろんです。子供の頃、庭で一緒に捕まえましたよね」
オスカーが懐かしむように目を細めて微笑む。
初耳だわ! そんな設定あったかしら。
幼い頃は年に数回ドリスとオスカーが会っていたことは知っているけど、まさかバッタを捕まえて遊んでいたっていうの!?
そして、それを懐かしんで上機嫌になっているオスカーの態度もわけがわからない。
波乱を予感させるお茶会がスタートした。
「素敵なお庭ね」
カタリナは目の前に並ぶスイーツよりも庭に興味があるようだ。
その隣でリリカはきゃわきゃわ言いながらクリームたっぷりのカップケーキを頬張っている。
良く晴れた休日の昼下がり。
爽やかな風がそよぐ中庭の木陰にテーブルセットを出してリリカ、カタリナ、アデルをもてなした。
ミヒャエルは朝から厨房を覗いたり、お天気は大丈夫かと何度も窓から空模様を気にしたりと落ち着かない様子でウロウロし続けて、またオスカーに「じっとしていてください!」と言われてシュンとなっていた。
そんな叱られたわんこのようなミヒャエルが、約束の時間に3人が到着した時にはエーレンベルク伯爵家の当主として堂々とした振る舞いで出迎えたのはさすがだ。
しかし堂々とした振る舞いはそこまでだった。
リリカに「パパさん、若い!」と言われると尻尾が揺れ始め、カタリナに「英雄殿にお会いできて光栄ですわ」と言われるとさらに大きく尻尾が揺れ、アデルに「ミヒャエル様に憧れて騎士を目指そうと思っているんです!」とキラキラした目で言われたところで、手に負えないほどグルングルン揺れる尻尾が見えた。
「ドリス、いい友人を持ったな」
ミヒャエルはすでに感極まって涙ぐんでいる。
まずい、このままじゃ感極まって3人のことを抱きしめてしまうんじゃないかしら!?
これはヤバいと思ったところで、同じくその空気を感じ取ったオスカーに連行されていくミヒャエルを苦笑とともに見送った。
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