第14話 ミヒャエルと投資事業②
ゲームシナリオでは、ドリスの浪費癖がエーレンベルク伯爵家の破産の要因のひとつだった。
しかしそれは決定的な破産の原因ではない。実はミヒャエルの投資の大失敗が大きく関係しているのだ。
エーレンベルク伯爵家はもともと広大な領地を所有し、良好な領地経営で財を成していた。
家系的に短命で、ミヒャエルの父親は彼が18歳の時に亡くなり、夫の死に意気消沈した母親もその2年後に後を追うように亡くなった。
こうしてミヒャエルは若くしてエーレンベルク家の当主となる。
大陸中を巻き込む世紀の大戦争が勃発した時、ミヒャエルは情勢不安の中で身重の妻にローラに領地経営を任せるのは負担が大きいだろうと判断し、国へ領地を返納する代わりに毎年定額の支給金を受け取る手続きをして戦地に赴いた。
愛妻を亡くしてもミヒャエルは自暴自棄になるような人間ではなく、「英雄」の称号に恥じぬようにと自らを鼓舞し続けてここまで生きてきた。
娘が成長していくにつれ、亡き妻によく似た笑顔を見せてくれる――そこに隙が生まれたのかもしれない。
それとも愛娘にさらに莫大な資産を遺そうと野心を抱いてしまったのか。
元から蓄えはたっぷりあり、今後も国からの支給金がもらえる。安定収入がある上に、戦後に国王陛下から賜った報奨金もかなりの額だった。
ミヒャエルはその潤沢な資金を元手に、このあと積極的に様々な事業に投資するようになる。
投資事業は貴族の資産運用としてはポピュラーなものだが、ミヒャエルは頭脳派ではなくどちらかといえば脳筋だ。
しかも困っている人を助けずにはいられない英雄気質や、一度信用した人をとことん信じ切ってしまうという一本気な性格も災いした。
最初のうちはちょっとした儲けが出て、楽しくなってのめり込んでいく。
ほどなくしてエーレンベルク伯爵家の潤沢な資金に目を付けたハイエナのような輩が、媚びた笑顔や困窮しているというヘタな芝居で群がってくるようになった。
ミヒャエルは、信頼している自称「敏腕投資家」の男を顧問にして投資事業を続ける。
しかしそのエセ投資家がミヒャエルに見せていた取引報告書はデタラメで、大赤字をごまかした代物だった。
最終的には有り金を全てこの投資家に持ち逃げされて無一文になり、莫大な借金だけが残った。
そうなるまでミヒャエルは彼のことを信用し続けていたのだ。
この事実を知り、屋敷や家財、ドリスの所有する宝飾品やドレスを手放さなくてはならないと聞いて激高したドリスは、ミヒャエルに毒を盛り殺そうと画策する。
今こうしてゲームのシナリオを冷静に振り返ってみると、ひとつ疑問がある。
激高したからといって、ドリスが父親を殺そうとするだろうか。
財産全てを差し押さえられてもまだ尚残る借金を、自分で働いてこつこつ返済していく努力などできないドリスだ。
ミヒャエルが死んだからといって前世のような死亡保険金が出るわけでもない。
だとすれば、ミヒャエルとオスカーのふたりに労働してもらえばいいと考えるのが筋なんじゃないだろうか。
エーレンベルク伯爵家のこの破滅劇は、ハルアカの中では常にオスカー目線で語られている。
わたしはここに何か重要な見落としや抜け穴があるかもしれないと思っている。
ミヒャエルが病に倒れた前後に隣国との国境線で紛争が起き、オスカーは伯爵家を離れ騎士団の一員として戦地に赴いていた。
つまりオスカーは、ドリスとミヒャエルのやり取りをリアルタイムで目の当たりにはしていないのだ。
彼が断片的に目にしたこととミヒャエルの遺品整理をする中で気づいたこと、周囲の人間から聞いた話をつなぎ合わせて導き出したオスカー自身の主観でしか語られていない。
だったら「しかしそれはオスカーの勘違いで、事実は違っていた」という裏設定があるかもしれない。
ミヒャエルの死の真相がわかれば、破滅フラグを回避できる可能性も高くなる。
そのためには、わがままな振る舞いでミヒャエルを操るのではなく、ミヒャエルが胡散臭い「エセ投資家」をあてにしなくても済むようにわたしが指南役になろうではないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます