第22話 かやの件
「そうか。それならば、後は……」
妖怪話をすんなりと納得したコウガは、鋭い視線を今度はかやに向けた。
「ん? 何ぃ?」
向けられた本人は、まったく意に介していない様子。
「どういうことだ、八丘辰流」
かやからの説明は心もとないと感じられたのか、保護者となっている辰流に振るものの、
「俺が説明できると思うか?」
ちらりと優麻に一瞥を送って、
「放課後、部室行ったらいたんだ」
と、発端を述べるに留めるしかなかった。自分の襟首掴んで飛翔した、会って日の浅いというには時間の経っていない子の説明をせよと言われても、言葉が無いのは当然である。
「その子からは風を感じる」
優麻がインチキ霊能力者の遠隔視みたいなことを言い始めたが、それは決してまがい物ではないのは辰流は知っている。
「風ってもな」
とはいえあまりにも抽象的なため、コウガ以上に素性を推し量れない。
「人ならざる存在。動植物でもない。不可視的な存在が具現化した存在。この星の息吹の一部である。そんなように私には感じられるが」
コウガがそんなことを言うものだから、妖怪がいて、天界の使者がいて、天女の末裔がいて、それらのコメントを頭の中で煮込んでみると、
「精霊とかって、ことか?」
辰流はかやをまじまじと見た。かやは正解とも不正解とも答えずに、ただニコニコとしていた。だとすれば、次に見るのは優麻だが、その優麻も答えようとせずに、しずかにグラスを持ち上げていた。けれども、それが何よりも雄弁に語っていた。だから、
「だから、どういうことだと聞いているのだ、八丘辰流」
コウガは、なぜかいらだたしげに辰流への語気が強まっていた。
「精霊っつっても……」
頭を掻きながらかやを見つめてみた。妖怪が一反木綿だけでないように、精霊にもいくつかの分類があるのだろう。優麻を頼るなら、かやは風の精霊ということになり、風ならば空を飛ぶのはいささかも無理なことではなかろうとは、得心は出来た。当の本人はにっこりとして
「タッチャン」
などと小首を傾げて、まるで話題の中心人物としての自覚を欠いてはいるが、
「別にいてもいいだろ」
辰流にはそれがいささかも不愉快ではなかった。
一反木綿がいる。天女の末裔がいる。天の使者がいる。ならば、妖精だか精霊がいてもおかしくはないだろと。
「だから、なぜ顕現化しているかと聞いているのだ」
「意味わかんねえよ」
コウガと辰流の間には共通の素地がないようだ。それを見かねたのは優麻だった。
「精霊という存在はこのようにはっきりとは見えないものよ。ましてや人の似姿でこうしてコミュニケーションを図っている。それは特別な原因があるはず、というのをコウガは聞きたいらしいのよ」
「さすがは優麻先輩。非常にわかりやすい」
自分ではわかっていても、相手にわからせることのできない典型的なコウガ。精霊の生態を辰流が詳細に知っているとでも思っているのだろうか。
そこで辰流はかやと出会った時のことをかいつまんで話をした。
「あれ? で、だとすると、なんでかやはこうして来てるんだ」
話しながら何となくコウガが聞きたがっていたことの端くらいはわかるような気がした。
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