第21話 辰流の左腕の件

「ほ、包帯だ。怪我してるから包帯ぐらいしてもおかしくないだろ」

「地上の包帯というのは性能が優れているのだな。自分の意のままに伸縮し」

 閉じた扇子で辰流の左手をさしながら、随分と嫌味な言い方をするものだった。ソファに背中を預け、腕組みをする。取調室の事情聴取のような感じを辰流は受けた。そして、それをいかにしてはねのけようかと思いあぐねていると、

「私の、天の剣を受け止める生地が地上にあるのだな」

 とっさだったとはいえ、言い逃れができない状況証拠を思い出させる。この窮地で、このコウガを納得させるほどの理由が出てくるかと、大脳に緊急救出信号を送っているのだが、まるで返答がない。

「私がな」

 ソファから背中を剥がし、身を乗り出して辰流に問う。

「私が気になっているのは、それが天の物の気配、匂いと言った方がいいかもしれないが、それを感じたからだ」

「天にこんなもんがあんのかよ?」

 布地が巻かれた左腕をコウガの目線に上げる。逆ギレもいい所だったが、

「いや、天にはこのような物はない」

 居住まいを正そうとしたコウガに、

「確証のない物を没収する気?」

 辰流の援護としてはこれほど心強い存在はない。優麻の一言に、

「いえ、ただ確認をしたいだけで」

 と形勢が悪くなったと判断したのか、コウガは一転して包帯を解き始めた。

「痛ッ」

 辰流の苦痛に満ちた表情、そして包帯の端からは貫通の縁が見えていた。

「すまん」

 今度こそ、おずおずと居住まいを正した。

「いや、わかってもらえればいい」

 辰流は右手で包帯を巻き直した。

 いかにも痛そうな傷跡に、かやは半涙目でおろおろしていた。

 もうここでは話すしかなさそうだった。

「これは妖怪、一反木綿だ」

 致し方なく妖怪と共生する羽目になった経緯やそれから何ができるようになったかをざっと話した。

「空飛ぶ妖怪なんだから、天とやらに近づいて、それこそ匂いでも染みついたんじゃねえのか、布だけに」

 ほぼやけっぱちだが、それくらいしか補足説明できることはない。とはいえ、天がどういう所なのか辰流は知らないわけだから、これはかなり適当と言えば適当である。

「私の太刀筋を止めたぐらいだからな」

 しかし、その天の使いはあっさりと納得してしまった。妖怪の力が、あの戦闘に置いて何よりの証左になったからだろう。

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