第20話 コウガの話は分かりにくい

 辰流は話しを戻すことにした。

「それで何で俺が先輩たぶらかしたみたいになって、お前が襲ってきたんだよ」

「天女が羽衣を失くすなんてありえないからだ」

「それはわかった。で、なんでそれが俺絡みになってんだって聞いてんだよ」

「天女をたぶらかすのは下界の男に決まっている」

「思い込みもいいところだな」

 羽衣伝承が曲解とまではいかないまでもかなり意図を孕んでいた話しである以上、下界云々は先入観以外の何物でもないような気がした。それに、天の使いの役人に襲われた理由が、どこにでもありそうな男と女絡みだったとは、襲われた方としては嘆息してげんなりするしかなかった。それに優麻の話しからすれば、天界の作為的であっただけで、地上の一介の男が何かをしたかなどとはそれこそフィクションであろう。

「いいか、俺は羽衣など知らん。それにだ。こんな先輩が俺なんかにたぶらかされる訳がないだろ」

 言ってて、どこか腑に落ちない気分になりながらも、優麻が天女だと知ったことよりも明々白々な事実として純然たる先輩後輩の関係なわけだから、切に言わなければならない。

「それもそうだな」

 辰流の容貌をまじまじと見て、またしても名探偵ポーズを取ったかと思った次の瞬間に下した判定である。辰流はやはりどことなく釈然としなかったが、まだ聞きたいことがあるので横に置いた。

「話しは戻るが、なんで優麻先輩を連行して、その羽衣とやらを今になって持って帰んなきゃならんのだ」

「天の理由だと言っただろ。私の任務はあくまでお連れすることだ。そのような疑義を持つことさえ差し込む余地はない。元々天の使者であり、天の品。ならば、いつ帰還するなど、帰るべき時であるというのが何よりの理由になろう」

「勝手だな」

「何?」

 コウガは不快そうに頬を一瞬引きつらせた。

「優麻先輩の気持ちはどうなんだよ。帰るのを納得してんだったら、ここで茶など啜ってないだろ」

「一応理解はしているわ」

 優麻をフォローしているつもりが、本人からそう言われては立つ瀬がない。

「ともかく、私の最優先すべきは秩序だ。それ故の御帰還。その目的に変わりはない」

コウガの弁に辰流にはちっとも納得などできるわけがないのだ。

「私から問おう。八丘辰流。それはなんだ」

 コウガは鋭い眼光で、辰流の左手を見ていた。

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