第19話 優麻先輩の創造力ときたら

「屋上といえば、優麻先輩絶妙なタイミングで現れましたね」

「コウガは先日から私に接触してきていたから。放課後になって、どうもコウガの気配が散漫に感じられてね」

 解説になっているのかなっていないのか、はっきりしないが、かやがしきりに匂いがどうのと言っている、そのような感覚なのだろうか。

「それで校内に置いてある映像視認記録装置や」

「待ってください。今言ったのって、監視装置なんじゃ?」

「映像視認記録装置のこと? 何かおかしくって? 校長にもPTA会長にも許可をもらっているわよ。学校の治安維持に役立つと言って」

 もはや、

「そうなんですか」

 としか言いようがない。「いや、それって監視カメラって言わないかな」とは決して言えるような状況ではなかった。

とはいえ、そこで折れるわけにはいかない辰流は、

「よもやそれも作ったんですか?」

 と言って一人置いてけぼりにされないよう毅然とするよう詳細な聴取を試みたのだが、

「当たり前でしょ」

 優麻の平然とした反応には、

「そうなんですか」

 やはりそれしか言えなかった。それでも引き下がれない辰流。まだ訊くことがあるのだ。

「さっき記録装置『や』って言いましたよね」

「ええ、特殊音声収集装置とか」

「それって盗聴……」

 まで言ったところで、

「違法なことはしていないわよ」

 辰流の言葉を手の平で遮った。コウガの等身大の太刀を制した手の平である。辰流も自重しなければならない。どこに設置されているか訊いて答えてくれなかったら、校内中を探し回らなければならない。別に良からぬことを企てているわけではないが、確認して安心を得るのと得ないのとでは心情的に雲泥の差がある。発見したら他の人に言うべきだろうかなどという思案は今している場合でもない。

「てことは、その映像……装置やら特殊音声……とやらでコウガの様子を窺って……」

 言いながら辰流の眉がひそむ。

「どしたの、タッチャン。顔がおかしいことになってるよぉ」

 ケタケタとしながらかやが喜んでいる。が、辰流は喜んではいられない。なぜなら、

「あの、優麻先輩。俺とかや、そしてコウガは街中を旋回する羽目になって、かやが疲労の末、学校の屋上に戻って来たんですけど」

 どこに着地するかなど校内だけの装置だけでは決して追跡できないはずだからである。しかも、屋上にいた辰流たちの危機を屋上出入り口から飛び出してきたということは、その近辺にいたことになり、瞬間移動でもしない限り容易には間に合うはずがない。

「だって、小型のカメラを飛ばしてたから」

 ほら。と言わんばかりに鞄から蠅としか思えない物体を出した。蓋をしたシャーレを取り出してテーブルの上に置いた。優麻曰く、カメラだそうだ。これで辰流たちの追跡ができたまではわかった。

 まだ問題が残っている。辰流たちがこのルートだと屋上に来そうだなと推測し、駆け上がった。しかし、校舎を過ぎてしまうかもしれないし、校舎よりも広い所に不時着するかもしれない。ルート分析だけであのタイミングにはなれないはずである。

「誘導したのよ」

「……あー。そうですか」

 もう今日は納得するしか他はないようである。「どうやって?」の問いは辰流の口を避けたようだ。

「あー、やっぱりそうなんだぁ」

 手法を聞くまいとしていたのに、かやが思い出したようだ。

「なんかね、匂いがしたんだよぉ。懐かしいようなぁ、癒されるようなぁ。あ、タッチャンの匂いもしたぁ」

「またそれか……。ん? 俺はお前に首根っこ持たれていたんだが。他にどこに俺の匂いがあったって?」

「あの降りたとこぉ。屋上っていうだよねぇ。ふわっとね、匂いがしたんだぁ」

 優麻を見るしかなかった。

「まだ開発中なんだけど。そのカメラ、簡易型アロマ発生装置を改良したの」

「ヘエー。ソウナンデスカ……」

 カメラとアロマテラピーを融合させて商品化したとて需要があるのだろうかと思い、えらく棒読みになっているきらいもあるが、

「ちょっと待ってください、優麻先輩。かやが俺の傍にいるの、どっから知ってるですか?」

 香りをルアーにしたということは、かやがその匂いに寄って来るということをなぜ知っていたのだろう。

「部室の最初から」

 ならば、かやが辰流の匂いを辿ることは容易に推測できる。

「じゃあ、あのメールは?」

 辰流に送られてきた、部活無しを告げた優麻のメール。

「私が出て行くと、ややこしい話になりそうだったから」

 現に今ややこしい話になっているから、優麻の考えは正しかったことになる。改めて優麻の明晰な頭脳を痛感する辰流。たとえ優麻が天女の子孫だとしても、この素養は女古優麻という個人が修養していなければ、できないことである。

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