第23話 かやが語る
三人の視線がかやに集中する。
「ん? ここにいる理由と来た理由ぅ?」
辰流はそれを聞いた気もするのだが、ここに至って更なる情報を求めて頷いた。
「タッチャンが精気をくれたからだよぉ。それにタッチャンの匂いを辿ったんだよぉ。言ったでしょぉ」
辰流の期待通りにはいかなかった。付加された情報はなく、さらには道下が混乱したフレーズまで言ってのけてしまった。それを優麻とコウガが聞けば、
「辰流」
優麻から名を呼ばれて背筋が寒くなった経験は、辰流にはこれまでにはない。
「かやが言ったことは本当なの?」
と尋ねられても、記憶にも事実にも優麻が人として先輩として諌めるであろう不純異性的行為を及んだことはなく、身の潔白をいかにして証明するかなのだが、純粋無垢と形容して過不足のないかやの言いを頭ごなしに否定するのは憚られた。
「安心なさい」
辰流の暗澹な沈黙に助け舟を出したのは他ならぬ優麻だった。
「この子の言う精気と言うのはね、気のことよ」
「キ?」
恐る恐るな聞き方になる。どこで梯子を外されて自白させられるか。
「あなた漫画を読むでしょ。気功……『気を感じる』とかセリフない? それよ」
「気ですね。気……生体エネルギーのようなヤツですよね……」
だとしても、それをかやに分け与えられる術を知りもしない辰流は言い淀みが残る。
「あなたが考えているような性行為とは違うわよ」
ずばりと言われてしまい、居心地が悪くなった。顔が熱くなりいたたまれない。思春期男子は女子の前ではナイーブになる。
ふとコウガがこれまで何も言ってきていないことに気付き、顔を上げてみると、
「なんだ? 不埒なことを考えているようだな、八丘辰流」
コウガが蔑むような視線を送っていた。広げた扇子で口元を隠していた。嘲笑をしていたのかもしれない。自分はかやのフレーズを誤解することなく理解していたとでも言わんばかりだ。
つまりは、この中であの単語から例の行為を連想していたのは辰流だけということになる。
「どうしたのぉ、タッチャン」
かやの素朴な言い方がなおさらに辰流にはダメージになる。
「思春期男子ということで、スルーしていただきたい」
女性二人に顔向けできず、床とご対面しながら小声で言った。黒歴史の一コマになってしまったようである。
「そうだよ! 俺は精……気を分ける方法なんて知らないぞ。なんで?」
これまでの形勢を振り払う如くに声を張るが、どうにもある単語だけが言い淀んでしまう。
視線が合ったかやはきょとんと、
「なんか、変なのぉ?」
首を傾げるのみだった。
「過程は不明にしろ、妖怪とともにいるのだ。人としての気の使い方が通常とは違うのであろう。それくらいの説明なら合点がいく」
いとも簡単にコウガは納得した。天には天の理屈があり、それは辰流たちが学んでいる現代の知識とは異なるであろうことは、これまでの話しからもわかることであり、それをして追及されなければ、それで辰流もほっとするというものである。
「あのねぇ」
質問を受けてないのに口を開いたかやに三人の関心が向く。
「タッチャンはかやを見つけてくれたぁ。この姿に成れたから、タッチャンに会いたかったんだぁ。また、会えたらぁ、お話ししてくれるかなぁ、遊んでくれるかなって思ってぇ。
私は、飛びながら地上を眺めるのが好きぃ。人とまた話をしたいと思っていたぁ。どんなふうに空を見上げているのか、そんなことを話したいと思っていたぁ。ずっと思っていたぁ。でも話せなかったぁ。だから今タッチャンと話せてうれしいんだぁ」
かやの思いを聞いて、辰流は
「そうか」
とだけ言った。その声、
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