第17話 コウガがやって来た理由
「女古家に継承されている羽衣を持って、女古優麻殿に御帰還いただきたいのだ」
非常に簡素な一文なのだが、辰流がその意味理解をできるはずはなかった。羽衣というワード。これは屋上でも出ていた。それに追加されて今は御帰還などというワードも登場。
思わず優麻の顔色を窺えば、いつもとまるで変わらない様子でストローから静かにコーヒーを啜っていた。当事者真っ只中なのに、まるで我関せずである。
「女古家は天女の家系だ」
コウガは補足説明をしたのだろうが、むしろ辰流には難解な暗号になってしまい、優麻を二度見することに。
「辰流。言いたいことがあるなら、率直になさい」
どうやら彼の仕草が気に入らなかったらしい。グラスの氷まで音を立てて辰流に異議申し立てをしている。
狼狽とまではいかないものの、うろたえるの半歩先くらいの戸惑いが辰流の視線を宙に泳がせて、ようやく出て来たのは、
「マジですか?」
単なる事実確認だけであった。
「良いか」
言って書き物を催促するような手の動きを見せたのはコウガであった。辰流は鞄から出したルーズリーフとシャープペンシルを渡す。コウガはそこへ流麗に「女古優麻」の字をしたためた。天界の某かが地上の文字を記載できることに、驚くとともに、さすがとばかりの感嘆を辰流は持ったが、優麻はそれをさも関心なさそうに横目で見るのみだった。
「字ぃ、うまいねぇ」
一方のかやは感心しきりである。
確かにかやの評する通り、書道教室の先生レベルの達筆だが、よく見知った先輩の名を改めて書かれても、提示した疑問の答えとどう関係しているのか、辰流には見当もつかない。
「これをこうするとどうだ」
コウガは優麻の名の下に、「麻姑」と書いた。
「というわけだ」
さも説明終了の顔つきを辰流に見せるが、彼は全く理解できない。
「いや、わかんねえよ」
「お前は勉学に勤しんでいるのではないか?」
確かに高校生の本分は学習であろうが、かと言って何でもかんでも知っているわけではない。むしろ、知らないからこそ知るための努力をしているのであり、何でも知っているのであれば、図工部での彼の課題はとっくに完成されている。
「そうか。ならば説明してやろう。麻姑というのは天女の一族の名だ」
「いやいや、それってこじつけだろ。漢字なんて天界にねえだろ」
名前をいじくったとしか辰流には思えなかった。
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