第13話 現れたのは
かやの身を庇うように覆っていた辰流とコスプレ女子の間に、彼女が立っていた。
「!……。優麻……先輩……?」
その突出に留まった喉からわずかに絞り出した。その声にかやも辰流の腕の中から優麻を見つめた。
図工部部長にして辰流の先輩、校内では魔女とあだ名されるほど秀才奇才の女古優麻が、果敢にコスプレ襲撃手に立ちはだかったのだった。
しかも、その様相は平素と著しく異なっていた。いつもは艶やかにして長い黒髪が透き通った白銀色になって優雅に中空を踊っているし、
「それ以上やったらどうなるか考えなさい」
声色は背筋を震わせるほど冷ややかで、感情らしさが音域のどこからも伝わってこない。
そもそも優麻は、コスプレ女子が猛然としてきたあの太刀の突きを右手一本で制止させていた。しかもよく見れば、手の平を広げ、水平に上げた優麻の手に、あのどでかい太刀が刺さったわけでもなく、数センチをあけて、それ以上進行不能な状態で止まっていた。見えないバリアがあるように。
コスプレ女子が決して手を抜いていないのはその険しい表情からも容易にわかり、優麻の声を聞いて辰流たちに対していた時の余裕さは消え、どことなく引きつっていた。
これ以上の力勝負に分がないと踏んだのか、コスプレ女子は剣を力なく収めた。その髪の中にというのは言うまでもない。そして、戻した手には閉じた扇子が握られており、それを懐に仕舞ってから、
「私としては必要なことかと」
言い訳じみた言葉を優麻に漏らした。
宙を遊んでいた優麻の髪は音もなくまとまり、銀色の髪は辰流が見知った光沢の黒色へと戻った。睨み合い、というより正当な言い訳を後ろ盾に尋問に答える生徒と、容赦ない教師の関係のようだった。
だとすれば、それは少なからず優麻が、この異人の素性を知っているということでもあり、
「あの……優麻先輩……」
事情を聞こうとしたのだが、言うが早いか、辰流の頭の中を懸案事項が右往左往し始めた。
まずはかやのことである。道下には優麻の縁者だと嘘を言った挙句、まだ素性も知らない見た目が小学高学年女児を庇っているとはいえ、他者には抱き寄せているようにしか見えない、その言い訳。
次に、掲げた左腕。剣を振るう相手に手を上げる。これを斬ってくれと差し出すなんてことをする若人が、人気のない夕刻の屋上にまさかいるわけがなく、明らかに迎撃するための何かしらの行為と受け止められるだろう。しかも、慌てて引っ込めてしまったから隠そうとしたのは、C級のミステリーよりもバレバレである。
テンパると人は思考が飛躍どころか、
「優麻先輩。これは俺が新しく作った映写機から飛び出て来たキャラクターです」
宇宙旅行レベルにおかしくなるようである。
それを聞いて、優麻の口角が緩やかに上った。それこそ、そんなものを作った日には、魔女扱いされている優麻以上の発明品を生み出したことになる。あるいはそういうものを、後輩に作らせるまでに至った優麻の能力への賞賛がまさしく飛躍的に急上昇するかであろう。
「安心しなさい。驚かないから」
いつもの涼しげな声色の優麻がそこにいた。
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