第12話 空から屋上へ

「タッチャン、疲れたぁ……」

 秋以上夏未満と割り切るにはまだまだ蒸し暑い日暮れ時。

 かれこれ一〇分強。街の上空を飛び回ったかやは、さすがに体重六〇キロの高校男子荷物をぶら下げての飛行は堪えたようで、なおかつ追撃手から逃亡しつつともなれば、精神的な緊張感も重なり、疲労感は増す。

 一方で、辰流は知った我が町とはいえ、庶民真っ只中の家庭に生まれ育った辰流に豪華なフライトなどしたことはなく、上空から眺望の興奮と襲撃からの逃避だけでなく、自分を支えている少女がいつ力を失い、手を離してしまわないかの不安で何度絶叫をしそうになったことか。現にかやが辰流を掴む手がプルプルと小刻みに震え出していた。高さは四階教室どころの騒ぎではない。その数倍はあるのだ。落ちたらどうなるなど考えたくもなくなる。

 かろうじて叫びを押しとどめていたのは、衆人からの注目を引かないためというただ一つの抑制だけであり、至る所に記録装置があふれる昨今、スマホや街の監視カメラだけでなく、ドライブレコーダーなんかで撮影され、視聴者投稿がニュース番組だけでなく、無料動画で全世界的に広がることは避けなければならなかった。下手をしたら、人型UFO扱いされかねない。

「もう限界ぃ」

 かやがへたり込んだのは高層の建築物の平坦な屋上で、周辺を取り巻く危険防止の鉄柵以外に、物一つなく、陽に照らされ過ぎてコンクリートの色が鈍く変わっているだけである。

 辰流は既視感を覚え、辺りを眺めてみれば、

「学校じゃねえかよ。戻ってるぞ」

 彼の横のかやは膝に手を当てて肩で息をしていた。

「無様だな」

 音も疲労の様子もなくコスプレ女子が着地し、距離をつくって辰流とかやに対峙する。

「さあ、逃げられんぞ。いろいろと吐いてもらうから覚悟しろ」

 太刀の切っ先を辰流に向けてから

「まずは性根を正そう!」

 構え、そしてダッシュ。

 同時に、辰流たちの後方にあった屋上出入り口のドアが勢い良く開く音が響いた。

 ――挟み撃ち。仲間呼んでたのか

 疲労困憊のかやを抱えて、さらに一反木綿を武装化に構えようと左手を掲げた瞬間だった。

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