エリア2


 サファイアの案内の元、ステージ1にやって来た勇者。

 エリア1と同じようにステージに繋がる井戸があり、二人揃って中を覗き込む。


「それでは勇者さま行きましょうか……と言いたいところですが」


 ギロリと井戸を、正確にはその奥にいるであろう魔王軍を睨みつけるサファイア。


「……どうやら転送機能を弄っているようで、一人だけしか入れないみたいです。ですので、私は此処でオペレーターとしてサポートします」


 その説明を聞いて勇者は仕方ないか、と思い……だったらルビーは着いて来ることができたんじゃないか? と思った。

 ルビーの行動に疑問を思いながらも、勇者はいつもの様に井戸の縁に立つ。


「……?」

「……どうかされましたか勇者さま?」


 不思議そうに振り返る勇者に、こちらも不思議そうな表情を浮かべて問いかけるサファイア。

 勇者はえ? 背中押してくれないの? と言った。

 いつもルビーは背中を押してくれて、この深く暗い井戸に落としてくれていたのである。


「……あの子そんな事してたの!?」


 妹と特殊なプレイをしていた事に、そして妹が遠い存在になっていた事にショックを受けるサファイア。多分誤解です。……嬉々として行っていたので誤解ではないのかもしれない。


 してくれないのか、とションボリしている勇者を見て、サファイアは慌てて言った。


「……ゆ、勇者さまが望まれるならします!」


 そう叫んでサファイアはドンっと強く彼の背中を押した。ただ、力が強すぎたのだろう。勇者は顎を井戸の縁に打ち付け、さらに転送されるまでの間に壁にガンガンと体を受け付けながら光となって消えていった。

 サファイアはその光景を穴から覗き込みながら。


「なんというハードプレイ……」


 ルビー、勇者さまとこんな事していたんだ……と、ゴクリと生唾を飲み込み顔が赤くなる。

 しかし、ちょっとだけ良いかも……とも思っていた。

 勇者が被虐性癖を持っていても支えていくと覚悟を決めたサファイアだが、それが誤解である事を知るのは、かなり先の未来の話。



 ◆



 転送中に態勢が崩れてしまった為、頭から落ちた勇者。

 大きなたん瘤を摩りながら立ち上がり、急に優しくなって怖いと思っていたら、やっぱり普通に怖いことをして来たサファイアに、当初の三倍くらい警戒心が強くなった勇者。


『……無事に転送されたようですね』


 何処を見てそう言っているんだろ……とサファイアが怖い勇者はその事にについて何も言えず、立ち上がる。

 そしてすぐに驚くこととなった。目の前に広がる光景は彼にとって見慣れたものだったからだ。


 大きな河川敷で分断された市街地。ここはメタルクラッシュオンラインのステージの一つだ。

 メタルクラッシュオンラインではプレイヤーはステージ上にランダムに転送される。その後に合流をするのも良し、ステルス状態になって近くの敵に奇襲を仕掛けるのも良しなゲームだった。

 そしてこのステージは河川敷でステージが半分に分断されている為、転送運によっては有利不利が生じるステージだった。

 そんなステージがなぜ魔王軍の基地に……? 


『どうやら再現されているようですね……そしておそらくこの先に居るのは──』


 サファイアが分析し、そして敵勢力の予測をしその見解を伝えようとした矢先──。


「敵、発見!」

「──!」


 勇者が経っていたビルの屋上に、下から誰かが駆け上がって来た。

 振り返るとシューターの鋼鉄ボディを纏った女の子……に擬態した何かだった。

 感じるプレッシャーから今まで倒した魔王軍と同じ輩と判断し、こちらに向かってばら撒いてく弾丸を避けて、そのまま斬り裂いた。


『ヤラレター』


 パシュンッと弾けて消えるのを見届けた後に、勇者はギアにアレは何だったのかと尋ねる。


『あれは魔王軍精鋭部隊の者ですね。知能が高く手先が器用な為、マスター達とほぼ同じ人類の姿になり、メタルクラッシュギアを扱う事ができます』

『……元々私たち地球人も魔王軍も同じ種族から派生した種族ですからね』


 サファイアの追加情報を聞きながら、勇者は屋上からステージを見渡す。あらゆる場所に発電機みたいなのがあり、尤も離れた場所にはいつものスイッチがあった。バリアに守られているが。


『ステージ情報の分析完了。どうやら各所のエネルギー供給拠点の破壊を行う必要があります』

『……精鋭個体が防衛についていますが、勇者さまなら楽勝ですね』


 サファイアの無限な信頼が怖い勇者。

 それはともかく。

 今までのアスレチックなステージよりも、今回のステージの方が簡単だと彼は思った。


 対人戦は彼の得意分野だ。無駄に謎解きをせずに良くて倒すだけで良いのなら──このステージはさっさとクリアしてしまおう。

 勇者は甲冑の中の瞳を光らせて──屋上から飛び降りた。


「……!」


 キラリと遠方にて輝く光を視認した勇者は手に持った剣を振るった。するとガンッと音が響き、剣に持った腕に衝撃を感じる。


『当然の様に狙撃を弾きますね……』


 ギアからの呆れた声を聞き流しながら、勇者は連続して放たれる狙撃の弾丸の数々を弾きながら地面に着地する。そして最も近いエネルギー供給拠点に向かって駆けだした。


「ナンダコイツ!」

「狙撃サレテピンピンシテヤガル!」


 落下中の隙だらけな所を難なく潜り抜けた勇者にドン引きしながら、魔王軍精鋭部隊は迎撃態勢に入る。それぞれアタッカーやシューターの鋼鉄ボディを展開しようとし──。


「──!」

「ナッ、ハヤ──」


 しかしその前に勇者は精鋭個体を斬り裂き、そのままリタイアさせる。


「ヤ、ヤラレ──」

「ハヤスギ──」


 断末魔を無視し、勇者はエネルギー供給装置を破壊する。

 こちらも剣で一刀両断だ。バキンッと音を立てて崩壊し、光を失った。

 勇者は次のエネルギー供給拠点に向かって走り出し、そんな彼の姿を見たサファイアは一言。


『流石です勇者さま……♡』


 明らかに人智を超えている動きをしているが、彼女はその事に全く疑問を抱いていないようであった。

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