いはてよう

 あまりにもひどい言われようだった。人々から浴びせられる怒号から得られる情報。それはどうやら嫌われている、ということらしい。


「早く消えろ!」


 未だ周囲は声を荒げている。そしてその言葉からは、”本気マジ”が伝わってくる。


 なんやこれ…。ほんまにトリニティア公国かこれ?冗談、やんな?


 信じがたい事実から目を背ける様に、再び人々に声をかけようとする。


「お、おい!これはどうなっ…痛ッ!」


 その時。言葉だけでは足りなかったのか、周囲にいた民たちから、石を投げつけられる。我は反射的に顔を守るようにして物理防御魔術フィジック・プロテクトを無詠唱する。 しかし、投げつけられる石は止むことはなく、その勢いを増して降り注いでくる。


 かくして、首都バルトリアの大通りにて、一人の男に対して大衆が石を投げつける光景が繰り広げられる。はたから見るとただのいじめ現場であった。


 案の定、「何の騒ぎだ?」とその場を通りすがった人々が次第に集まる。しかし我を見るなり投擲に加勢する。


 この惨状を見てなんで加勢やねん。だれも止める気はないんか?おかしないか?我、世界を救った魔王やで?


 だんだんと投げられてくる石の数が増える。人が集まるたびに、虚しくも勢いは増していく。投じられた石は、目の前に展開している魔術に音を立てながら打ち付けられる。それらは、全てがはじかれているものの、確実に我に向かって投げれれているものであった。もはやそれは狂気だった。


 ……何かがおかしい。ほんまに異常事態や…。


 目の前で勢いを失い、墜落していく石。それを見て、我の気持ちも同様に沈んでいく。


 こりゃ、話すこともできんやろな…。でも、…なんでやねん。なんでこうなってん!それだけは知りたい!


 そう思い、気づけば物理防御魔術フィジック・プロテクトを解除していた。そして、投げつけられる数多の石を振り払いながら、民衆に声が届くところまで歩もうとする。これは元王としての行動だろうか。分からない。だが無意識にも、この現状について話し合いをしようとしていた。


 こうして民に近づいているうちも、投げつけられる石の威力が大きくなる。


 めちゃくちゃ痛い…。でも、こんなところで弱音を吐くきは無い。この現状を理解するまでは…!


 そしてようやく、声が届くところまで進む。すかさず大きく空気を吸い込み、周囲の人々の全ての耳に届かせる声量を発する。


「少し落ち着いて聞いてくれな―」

「喋りかけるな!」


 しかし返ってきたのは、またしても罵声。さらに今回は、投石つきだった。


「痛っ!お、おい!投げb」


 そして、見事に顔面に一発を食らってしまう。 そこでついに、我の心の奥底で何かがはちきれる音がした。


 あぁ…。何でこんな目に合わなあかんねん…。魔王やのに… 。一般民衆に… 。


 はぁ…。もうええわ…。どうせ、到底事情を聴いてもらえる状況ではなさそうやし…。しゃーない……。 そう、…しゃーないわ……。


 顔にできたかすり傷から流れる血液を感じながら、そう思う。顔の傷口を手で押さえながら、血液をお気に入りの真っ白い衣装にかからないようにする。


 そして周囲を再び見渡す。そこには、変わらず睨みをきかす人々。しかし、今はそれがものすごく恐怖に感じられる。


 …怖い。なんで…。…夢やろ、こんなん…。ははっ…。そうや、夢や…。


 その場で佇む我を、ただただ周囲は見つめている。その視線に耐えきれず、その場を走って後にする。一瞬、周囲がざわついたが、我が去った後は再び元に戻ってしまった。 念のため後ろを振り返ってみるが、民衆は深追いしないようだ。


「……。…なぁ、なんで…。…こうなったんや」


 大通りを走りながら、一人小さく呟いた。

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