第6話

 キングゴブリン。

 ゴブリンという通常種、そこから進化や派生した種の全てを束ねるゴブリンの頂点に立つもの。鍛え抜かれた肉体と人間と同レベルの知能を持つことから、ランクはBの中層あたり。

 ……と、コメント欄で教えてもらった。


「ほぇ〜、なんか、すごいゴブリンなんだね!」

『ゴブッゴブッ』


 威厳のある椅子に座るゴブリン……もとい、キングゴブリンは僕の言葉を理解しているように笑ってみせた。

 コメント欄は滝のように早く、目を通すのに精一杯だ。


:キングゴブリンむきむきやん……

:だが見ろ、あの顔は久々に家にやってきた孫をもてなすおじいちゃんの顔だぜ

:サクたん、恐ろしい子ッ!

:やーい魔物タラシー


「誰がタラシですかー?」


 ゴブリンたちからもてはやされて、一番偉いゴブリンからもなんか頭をなでなでされてる誰がタラシなのかな? 僕だな!

 そんなことは一旦さておき、単純に気になったことがある。


「そんなに強いならなんでEランのダンジョンにいるのかな?」


あまみやch:①イレギュラー個体②討伐されずに生きた歴戦個体③幻獣種の侵入によるダンジョン難易度の激増。……このくらいだと思うわ

:ふぁっ!?

:あまみやちゃんだ!

:いぇーい! またサクたんがやらかしました! 見ってるー?ww


「そうなんだ。あまみやさんありがとうございます! でもよくわかんないから意味なかったかも」


あまみやch:えっ

:草

:ご愁傷様ww

:心を抉るのが得意そうだな

:無慈悲w

:せっかく考えてくれたのにww

:しかも昨日の人とは気づいてなさそうだぞ

:不憫ですねw


 でも気になる単語があったなぁ……。幻獣、って何?

 そう思った時、この空間に轟音が響いた。何かが破壊されるような音が、壁の奥から聞こえてきたのだ。


『ゴブッ! ゴブゴブ!!』

『ゴブゥ!? ゴ、ゴブッゴブゥ!!!』


 何やらゴブリたちは慌てふためき始め、壁に立てかけられている武器などを手に持って一気に臨戦態勢となる。

 何が何だかわからないまま僕は辺りをキョロキョロしていたが、すぐにその音の正体を知ることとなった。


 ――バチッ、バチッ……バリバリバリッッ!!!!


 失明するのではと思えるほど眩い青の閃光と、激しい雷の音が耳に響く。ゆっくりと目を開けるとそこには……誰もいなくなっていた。


「え、あ、れ……? ゴブリンたちは……?」


 いたはずのゴブリンたちの場所からは、プシューッと煙を上げて、棍棒やボロボロの布が落ちているだけだ。

 いたるところから青い火花が散っており、身動きができない。


『――クルルルゥ?』

「ん?」


 何かの鳴き声が後ろから聞こえたので振り返ってみると、そこには車ほどの大きをした巨大な鳥が僕を見つめていた。

 青黒い羽毛に長い尾を持ち、漆黒のつぶらな瞳が僕を穿つ。


:なんか一瞬映像途切れたけどナニコレ!?

:ゴブリン全員素材化してるんですが……

:でかい鳥! なんだあれ!!?

:あの鳥がゴブリン全員やったの?

:この鳥ニュースで見たことあるっぴ……

:こーれもしかしてだけど?

あまみやch:それがよ!!!!


『クルルゥ、クルゥ?』

「え? よくわかんないけどヨシヨシ、ゴブリンはどこにやったのかな?」

『クルルクックー♪』


 僕が頭を撫でると、嬉しそうに目を閉じて甘い鳴き声を漏らす。

 しかし、撫でれば撫でるほどバチバチと僕に静電気が蓄積されているらしく、頭が大爆発していた。


「これやばいね……。金属触ったら普通に死ねる。あははっ! ブロッコリー!」


:ブロッコリーwwじゃねぇよ!

:呑気だなぁ

:命の危機だぞ!?w

:というかこの鳥は幻獣なんだよな?

:知らないな

:誰か解説クレメンス

:【幻獣:霹靂鳥ハタタドリ】。体内に発電器官・蓄電器官があり、青い稲妻を放出することが可能。『厄災を運ぶ青い鳥』とも呼ばれている。


「へぇー、厄災なんだ。こんなに可愛いのに、ねぇー?」

『ピー!』

「ほら! こんなに可愛い鳴き声ですよ!」


:可愛いけど、ねぇ?

:命の危険がありすぎる

あまみやch:私ももふもふしたい……

:あ、あまみやさん??w


 バサッと翼を広げたかと思えば、それで僕を包んで頬ずりをしてきた。バチバチと静電気が発生しているが、体に今の所異常はない。

 もし本気出したら、きっとさっきのゴブリンみたいになっちゃうんだろうねぇ……。


:そういえば中部地方のニュースで幻獣の飛来が確認されたって言ってたな

:ってか、ホワッツ幻獣。魔物とちゃうんか?

:魔物は大氾濫スタンピードの時しかダンジョンそとに出られんが、幻獣は自由に出入りできる。あとヤベー能力持ってるやつ

:それを手なずける男の娘、現る


「まぁ害はなさそうだしいっか。とりあえずお腹空いてきたから帰ります!」


:自由気ままやなぁw

:幻獣どうすんのよ

:ダンジョン出たら大騒ぎだぞ

:既にSNSが大盛り上がりでごぜぇやすww


 リスナーさんたちはこの鳥が付いてこないか心配しているみたいだけど、まぁ流石についてこないでしょ!

 根拠のない自信とケ・セラ・セラの精神を持ち合わせている僕は、鳥に別れを告げて踵を返して戻ることにした。

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