第7話

 ――スタスタ。

 ――ノッシノッシ。


 僕がダンジョンから出ようと上を目指しているのだが、ピタリと僕のそばを離れずに歩いている幻獣の青い鳥。

 たまにゴブリンが現れたりもしたのだが、全てこの鳥が電撃を放出して一瞬で消す。

 これは……ちょっとまずいかな?


:どうすんのこれww

:元の場所に置いていきなさいっ!

:タラシがよォー

:責任とりなさい

:幻獣さいきょぉ〜!(現実逃避)

:ダンジョン機構も事例がないから困りそう

:幻獣は気まぐれだしなぁ……


 リスナーさんたちと悩みながら歩いていたら、すっかりダンジョンの入り口まで戻ってきてしまった。

 もちろん、ピタリと幻獣が付いてきている事実。


「さて、どーしよっかなー」


:ダンジョンギルド行っても何もできねぇ気がするぜ

:とりま保護って形でいんじゃないかな?

:幻獣って探せば案外地上にいるらしいしな

:見つけても絶対捕まえられないけどな……

:うるせェ! 飼おう!!!(ドンッ)

:判断はサクたんに任せるぜ


 例え幻獣が僕に付いてきても、それは犯罪に問われることはないらしい。いかんせん幻獣は気まぐれ、人に懐かない、海市蜃楼な存在。

 僕が幻獣に殺されようと自己責任。幻獣が暴走しても、彼らは気まぐれ故に批判はされることはないらしい。まぁ暴走させるつもりは毛頭ないけども……。


 一旦連れ帰って、と仲良くできそうだったら住まわせてあげよう。ダメそうだったらその時また考える。


「この子は連れ帰ろうと思います! 鳥の世話は孔雀とかハシビロコウで慣れてるから大丈夫だと思います」


:孔雀やハシビロコウだと……?

:動物園で働いてんのか?ww

:動物タラシェ……

:鳥ちゃんが幸せならいいと思う!

:ペット紹介配信とかもしてー

:俺も見たい

:世界初の幻獣テイマー爆誕の瞬間ですかw


 ダンジョンで配信だけじゃなく、家でペットたちを紹介する配信も需要があるみたいだ。それも今後考えていこう。


「それでは、今日の配信はこのくらいにしておきます。さよなら! ……ほら、鳥ちゃんも手振って」

『クルルァ? ピィ?』


 僕がダンジョン配信カメラに手を振り、幻獣にもこうするように促して片羽を振らせた。


:ン可愛いッ!!!(2人とも)

:幻獣賢っ

:男の娘の笑みはァ……効くぜェ……(吐血)

:おつ〜

:乙サク!

:次の配信はいつなんだァァ!!!

:失踪すんなよー!

:次回が待ちきれねぇな

:そういやあまみやちゃん消えてね?


 カメラを切り、一息吐く。

 バズり後の配信は、無事に終わらせることができたみたいだ。


「それじゃ、帰ろっか」

『ピー!』

「え、ちょ、わわっ!!?」


 鳥は僕の襟を嘴でつまみ、宙に放り投げて背中にダイブさせられる。

 『乗せていく』っていうことなのかな?


「家まで送ってくれるの?」


 コクコクと頷いたと思ったら羽ばたき始め、上空まで飛び上がる。振り落とされないように羽毛を鷲掴みしているが、痛くはなさそうだった。

 高速で飛ぶわけではなく、ゆっくりと遊覧飛行をしながら帰路についた。



###



 ――咲太が帰宅する数分前、ダンジョンギルドにて。


「Eランクダンジョンは隈なくチェックされて安全性が確保されたダンジョンだぞ!?」

「隠し通路なんか見つかるとは……」

「急遽、件のダンジョンに探索者を送りました」

「それよりも幻獣をどうするんです!!」

「事例がないから対処しようがないではないか!」

霹靂鳥ハタタドリは他国からも目をつけられていた幻獣だったから、一悶着が起きそうだな……」

「いかんせん、あの存在を手に入れたら国一つの電力を賄うなんて容易いですからね。ズズッ……」

「コーヒー飲んどる場合かァーーッ!!!」


 阿鼻叫喚。咲太の配信中に起こった事実は、国のダンジョンを管理するダンジョンギルドを混乱させるのに十分なほどだった。

 魔物の人間への協力、魔物とのコミュニケーションや秘密の共有、幻獣からの信頼・主従関係……。全てが異常事態であった。


「サクたん、と言ったか……。これから大変なことにに巻き込まれるだろうな……」

「ええ、他国からのスカウトや、幻獣の横取りを模索する刺客。他にも、特殊な体質故に利用目的で拉致される可能性があります」

「はぁぁぁ……。我々が関与するには少し時間がいるな。なんとも歯痒い」


 ……当の本人は、事の重大さをまだ知らない……。

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