第26話:光に背を向けて
誰もいない、暗い空間。何もない世界。宇宙の
「ここはどこだ?」
陳腐なセリフを口にしてみるが、私の声はどこにも響かない。
しばらく闇の中を漂っていると、なにかに身体が引き寄せられる感触を覚えた。
「ん?」
「見つけた!」
愛しい声と共に、柔らかな感触が私の左手に触れる。
「ジル……」
「この世界ではセブンス、かもしれないけど、ジルでいいよ」
闇が深すぎて、隣にいるジルの顔すら見えない。自分の手さえ見えないのだから当然だ。
「この世界って……メビウス?」
「正確には新しいメビウス」
「どういう意味だ?」
「メビウスっていうのは、魂の居場所なんだ。それはそれは巨大な、ね」
しばらくすると小さな光の点が見えてきた。五等星程度の小さな点が、見る間に巨大な輝きに変わる。
「壊れたメビウスから
「うん……」
「でも、宇宙のスケールが違いすぎて、あの宇宙ではゼタの全てを収容することなんできやしない」
宇宙規模の話だもんなぁと私はどこか
「そこで出てきたのが神殺しにしか使えない技、義務と責任という話」
「義務と責任?」
「魂の救済」
「ゼタたちを全部あるべき場所に戻すっていう話?」
「イエス」
ジルは頷いた、ように思う。
「そのための受け皿として、新たなメビウスを創ったっていうわけ」
「そんな力、私にあるとは思えないんだけど」
「神殺しだからね。キミが、というかジーナが壊した
「ああ、そういうこと」
「軽いね」
「いや、スケールがよくわかんなくて」
「まぁね」
ジルはクックッと喉を鳴らして笑った。
「ねぇ、ジル。新たなメビウスを創ったとして……」
「選ぶ権利はキミにあるよ」
「選ぶ?」
「荒廃してしまったあの小さな宇宙で生きるか。それとも、新しい
なんていう話だ。
開いた口が
「創世からやり直すなら、アタシとキミは二人で楽園を謳歌することもできる。何しろ自由だからね」
「うーん……」
私は少し考える。
「創世っていうか、メビウス自体はもう出来上がってるんだよね」
「うん。ゼタになるはずだった魂もみーんな吸収できたと思うよ」
「だったら、サレイたちのいる世界には、もうゼタは湧かない?」
「湧かない」
明快に断定されて、私はゆっくりと息を吐いた。
「あの世界、居心地はそんなに悪くないんだ、私には」
「うん」
ジルも同意したようだ。
「それじゃ、
「うん。帰ろう、ジル」
私たちは手を繋いで、光に背を向けた。
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