第25話:幼馴染の兄妹

「離れろ!」


 最初に叫んだのは多分私だ。


 磔刑のゼタの全身から幾条もの光が放たれたからだ。


 私たちは瓦礫の山に身を隠してその巨体を見上げる。崩壊していくゼタの全身から無数の光の玉が飛び出していく。あれは取り込まれた人たちの魂だろうかと思う。しかし、誰もその答えを知らない。


「やったの?」


 ジルが私の左手を握りながら尋ねてくる。


「たぶん」


 女神ソピア。結果的に倒したのはサイファーとイシュタル。ティルヴィングによって約束されたをその身に引き受けて、二人は女神と刺し違えた。


「アスタ……」


 視界が歪んだ。涙がこぼれる。


 イシュタルとサイファーは、私の幼馴染だった。まだ子どもだった頃、イシュタルは戦車にき殺された。その後――サイファーはイシュタルを再構築し、私の機体アスタルテに組み込んだ。


「サイファー、あんた、何も幸せなことなんてなかったじゃないか」


 あまつさえ、あんな最期を――。


「スカーレット」


 ジルが私を抱きしめる。折れた肋骨が鋭く痛む。私は構わずジルを抱きしめ返す。


「他人の幸せなんて、アタシたちにはわからないよ。幸せだったらいいな、悲しくなかったらいいな。そう祈ることしかできないんだ」

「でも、あんまりだ」


 ゼタはすっかり形を失った。周りには無数の光の球が踊っている。


「モード・創世ゲネシス。アスタはそう言っていた」

創世ゲネシス?」


 ジルは少し考え込んだ。しかしややしばらくの沈黙の末、肩をすくめてみせる。


「わかんないよ」

「わかんないか」

「うん。教えてくれそうな人はもうみーんないなくなっちゃった」


 メルタナーザさんも、サイファーも、アスタ……イシュタルも。


「だからきっと、アタシたちで考えるしかないんだ」

「うん」


 ふと、私の膝から力が抜けた。


「え、ちょ、スカーレット!?」

「ごめ、ん」


 私はそれだけ呟いて、意識を手放した。


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