第13話: vs ドラゴン
なるほど、確かにドラゴンだ。
物語のドラゴンが具体的にどんな姿をしているのかは知らなかったが、これがドラゴンだと言われればしっくり来る。
全身を赤い巨大な鱗で覆い、長い首に尻尾、ご丁寧に骨ばった翼まである。翼に実用性はなさそうだが、それでも威嚇効果は十分だった。頭の先から尻尾の先まで、一体どの程度の大きさなのだろう。首をもたげたその高さは、サレイが縦に三人積み上がったほどくらいもある。ゼタ特有の黒い霧に覆われたその巨躯は、到底人間では
「こりゃぁ、相当でかい金塊を残してもらわねぇと割に合わねぇなぁ」
サレイが言うや否や、ドラゴンは熱線を吐いてきた。喰らえば一発エンドだと本能が警告してくる。直撃を受けた地面が溶けている。
それにしてもこんなに巨大な空洞があるなんて。
ドラゴンが暴れ回ってもなお余裕のある空間だ。上の階層は落盤に気を付けなければならないだろう。
ドラゴンは見た目に反して機動力が高く、巧妙に距離を開けては熱線を放ってくる。近付くのも難しい。
「はっ!」
ジルの雷撃の魔法がドラゴンの頭部に命中する。が、なにか見えないフィールドで雲散霧消してしまう。
「魔法防御高っ! こんなゼタ見たことない!」
「だろうね」
私もこんな巨大なゼタは見たことがない。サレイにしても同様で、攻めあぐねている。私は左手に短剣、右手にアスタを乗り移らせた長剣を持ち、ドラゴンの背中側に回る。
「あぶね!」
振り回される尻尾を転がって回避し、すぐに跳ね起きてまた大きく飛び
人間の頭以上の大きさの石がいくつも落下してくる。
「危ない!」
ジルの雷撃の魔法が私に直撃しそうになった石を破壊する。
「ぶふぇっ」
砂埃を大量に浴び、ついでに放電しながら私はその場を避難する。
「助かった!」
「魔法防御も信用し過ぎないで!」
「わかった」
その間、サレイがドラゴンとの間合いを詰めている。が、その盾もドラゴンの鉤爪を受ければふっ飛ばされかねない。
「サレイ!」
「俺の武器じゃ歯が立たねぇ!」
「なんだって!?」
サレイの斬撃はいくらかはドラゴンの腕や鼻面に直撃している。しかしそれにも関わらずドラゴンは意にも介していない。全く通用していないと見るべきだった。
「アスタ、やれる?」
『わっかりませーん』
「この野郎」
おどける
「あんたが通用しなかったら、私たち全滅しておしまいだ」
『はいはい、がんばりますー』
「……あんたね」
私はジルを見た。ジルは頷くと特大の雷撃をドラゴンに浴びせかける。予想通り、ダメージは与えられない。
私はその閃光を盾にしてドラゴンに肉薄する。こちらが本命だ。
ドラゴンの右脇腹に剣を叩きつける。
ガキン、という鋭い音とともに弾かれる。鱗が堅牢すぎる。
「アスタ、あんた本気出せよ!」
『本気だってば! このゼタ、バリカタ!』
「
ドラゴンが私の方へ頭を向ける。口が開き始め、その奥で赤金色のエネルギーが溜まり始める。
「クッソ!」
熱線が来る。私はドラゴンの後ろに逃げる。ドラゴンは首を巡らせて私を射程に捉えようとする。ガンガンと音が響くのは、サレイの剣が叩きつけられているからだ。
「ジル! あいつの口に電撃ぶち込め!」
「やってみる!」
ジルは後方に下がりつつ何事かを唱え始める。しかしドラゴンがそれに気付いてしまう。ジルに顔を向けて、その口を大きく開く。
「ジル! 逃げて!」
叫ぶが間に合わない! サレイの位置からも間に合わない――間に合ったところで
「スカーレット! 鱗!」
ジルが叫ぶ。
鱗?
『首の鱗が浮いてる!』
アスタが気が付いた。確かに鱗が徐々に開いている。
「排熱機構か!」
排熱機構なんて熟語は記憶にはなかったが、私には何故かそうだとわかった。
「間に合え!」
私は長剣を投げ捨て短剣を抜き、アスタを乗り移らせてから、それを思い切り首の付け根、鱗の隙間に向けて
くるくると回転して飛んでいったその短剣が深々と首に突き刺さる。
「アスタ、戻れ!」
長剣を拾い上げて私は命じる。瞬間的にアスタの力が長剣に宿る。
ドラゴンは私の方へ首を巡らせる。熱線準備完了した状態で。
「ジル、首元の短剣に電撃!」
「わかってますって!」
特大の雷撃がジルが突き出した両手から放たれる。それは迷いなく短剣に吸い込まれていく。あまりの眩しさに私は目を覆う。これが効かなければ私は熱線に焼かれておしまいだ。
「サレイ、離れて!」
「とっくに離れてらぁ」
よかった、あっちは無事だ。
ドラゴンは動きを止めていた。ダメージが許容量を超えたのか、完全にフリーズしている状態だ。生物であれば内部から焼かれているも同然なので今ので絶対に絶命している。しかしゼタはその耐久力を削りきらない限り油断はできない。
私は開いたままの首の鱗に長剣を突き入れる。
「アスタ!」
『しばらくあたし使えなくなるけど良いの?』
「構わない。この状況を打破するのが最優先だ」
『ういす。んじゃ、やりますか』
アスタの力が剣の中で膨れ上がる。やがて刃が白熱し、バラバラに砕け散った。
それと同時に、龍の首の根本が派手に爆発を引き起こす。
『離れて』
そう言われて、私は剣を棄ててドラゴンに背を向けてジルの方へと走った。サレイも同じように駆け出している。
「ジル、とどめを!」
「うぃっす!」
ジルの雷撃がドラゴンの頭部に直撃し、そのまま薙ぐようにして首の根元へと
ドラゴンは声もなくもんどりうって倒れた。
首と胴体が分断されていた。首の根元は人一人分ほどの長さが完全に消滅していた。短剣がころりと転がり落ちた。
「やるじゃん、アスタも」
『疲れたからしばらく休む』
爆発の瞬間に、アスタはこの
「精霊さん、だいじょうぶ?」
「こいつは性悪だから大丈夫だよ」
「助けてもらったんだから、もっと感謝しないとだめだよぉ」
ジルの正論に私はぐうの音も出ない。
「それにしてもなんだったんだ、こいつ。ドラゴンだなんて」
消えつつあるドラゴンを見ながら私は呻く。こんなのが何体も出てきたらさすがに対応不可能だ。まるで力試しか何かのようにぽつんと配置されたドラゴン。うーん……。
「おーい、お二人さん、朗報だ」
サレイがドラゴンの亡骸があった場所に近付きながら声をかけてくる。
「こいつぁ、すげぇ収入になるぜ」
落ちていたそれは、人の頭ほどもありそうな
「お金持ちだ!」
ジルがサレイとハイタッチしている。そして私を抱きしめた。
「憧れの武具が一気に近付いたよぉ」
「ほんと!?」
「こんな大きな
そんなにか! いや、確かに
「いやしかし、今日はお前さんとその精霊とかいうのに助けられたな。今度
「アタシだって活躍したじゃん」
「そうだな、違いねぇ。トドメ刺したのもジルだもんな。ま、ラメルがいねぇのは可愛そうだから、お前らまとめて奢ってやるよ」
「やった!」
私とジルは手をつないで笑い合う。食べ物を奢ってくれる人はみんな良い人なのだ。まんまと餌付けされる私たち――という自覚はあったが、それで良いと思った。
「このドラゴンも、
「だねぇ」
「メビウス?」
サレイが首を突っ込んでくる。
「なんでお前らがメビウスを知ってるんだよ?」
「はい?」
私たちの声が揃う。いや、むしろなんでサレイが知ってるんだって話なんだけど。そう思いつつも、私は答える。
「ちょうどジルと出会ってからくらいかな。なんかそのメビウスっていうのがやたら夢に出てくるんだわ」
「いいなぁ、アタシまだ夢で見たことない。けど、スカーレットは毎日だもんね?」
「うん。ほとんど毎日見るよ。内容は……あんまり覚えてないけど。起きてる時でもスパッと差し挟まれてくる事がある。白昼夢っていうのかな」
私が言うと、サレイは「ふーむ」と考え込んでしまった。
「俺もよく覚えてねぇんだけど」
帰路につきながらサレイは言う。
「まぁ、なんつかオカルトだわな。だけどまぁ、ゼタみてぇなのがいる以上、オカルトもさもありなん、か」
「だよね」
私はそれに同意する。しかし私はもう、メビウスの存在を完全に信じていた。
おそらくこのドラゴンを倒したことで、私の記憶はまた一つ埋まるはずだ。はずだ、が、トドメ刺したのはジルだけど、それはどうなのかな――などと一抹の不安も覚えなくもない。
しかし気になるのは何故ここにこのタイミングでこんな
誰かが
「それってさぁ」
ジルが私の右腕を抱きかかえるようにして言った。
「考えても答えは出ないよ、スカーレット」
「う、うん?」
「考えがすっごい顔に出ちゃうんだよ、キミはさぁ」
ジルには
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