第14話 これからの方針
森の第二層に踏み込んだリュカ達は、まずは中枢を目指して進む。
そのリュカ達を出迎えるように、何体もの瘴獣達が出現した。
「ルリ、今のリュカは左腕が使えない。しっかりと援護を頼むよ」
「はい!」
リュカが突撃し、ミケが攪乱し、ルリが矢を放つ。三人の息のあった連携に、瘴獣達は瞬く間に全滅した。
「……問題なさそうだね」
リュカの戦いを見ながらミケは呟く。
「うん。これが初めてって訳じゃないからな。片腕だけで戦うのも慣れてる」
「ん。それならいいんだ」
そういって、ミケは先に進む。
それから、幾度となく瘴獣達の襲撃があった。
その瘴獣達を片っ端から蹴散らして進むリュカ達であったが、予想以上の襲撃頻度に思ったよりも先に進むことが出来なかった。
そしてもう何度目になるか判らない瘴獣達の襲撃を切り抜けた時、僅かに差し込んでいた日の光も消え去り、森の中はすっかり暗くなっていた。
「……もう日が落ちてる。今日はこの辺で休もうか」
そういうとミケとリュカは、食料を集めることにした。塩漬けの肉や砂糖漬けした果物などの保存食は持ち込んできたのだが、あくまでそれは食料が手に入らなかった場合の非常食であり、食料が手に入る内はそちらの方を優先する。
リュカは片手で器用に木に登って果物を集め、ミケは霞鹿を狩って来た。森に生息している中では小型な方だったが、食べ盛りの子供たち三人でも食べきれない程の肉が採れた。結局、残った肉はリュカが採ってきた塩の実を使って塩漬けにすることにした。
「明日から、この肉をちょっとずつ食べていこうか」
「そうですね」
リュカが採ってきた塩の実は一抱えもあるほどの大きさの実で、この中に霞鹿の肉を詰めてある。念のためにと用意しておいた予備の革袋に放り込んで、ルリが持つことにした。
「さて、これからの方針を確認しとこうか」
食事が終わった後、ミケが取り出した地図を三人で囲む。
「まずアタシ達が目指すのは南の森の中枢。ここにある大瘴霊石を破壊するのが当面の目的だね」
ミケはカザリナから真っ直ぐ南へ下った森の中央を指差す。
「大瘴霊石は瘴獣をどんどん生みまくるから、これを破壊しないと色々と面倒な事になる」
「あ、あの」
ルリが手を上げて質問する。
「その大瘴霊石を避けて進むのは、駄目ですか?」
そう言って、ルリが示したのはカザリナから南東の方角だ。真っ直ぐ進んだときと同様に、この方角で進んで森を抜けた先にも村がある。
だがミケは首を振る。
「駄目だね。危険すぎる」
「危険、ですか?」
「ああ。ここから真っ直ぐ南の進路なら、町の人達がちょくちょく討伐してるのもあって、瘴獣達の数はそんなに多くない。けど、ルリの方角に進むと、必ず途中で手付かずの森に踏み込むことになる。当然、瘴獣達の数も多いし、共食いして強くなってる連中もわんさかいる」
「ミケは、先生と共食いした瘴獣達、どっちの方が面倒なんだ?」
リュカの言葉に、ミケは腕組みをして唸る。
「……正直な話をすると、命の危険がないぶん先生の方がまだマシだよ。ルリが送り返される問題はあるけれど、それは先生を説得しない限りはその問題はずっと付き纏うからね」
それを聞いてルリは少し考える。
「あの、それじゃあ町で、その先生を待つのはどうなんでしょうか? わたしが言うのもなんですけど、結局説得しなければいけないのなら無理に進む必要はないんじゃ?」
ルリの意見に、二人は渋面する。
「ミケ、どう思う?」
「無理だね。先生の立場上はルリを送り返さないといけないし、性格を考えると町で説得できるとは思えない。あの人はそんなつまらない方法を取ったら問答無用で送り返すよ」
「それ以外なら説得できるんですか?」
ルリの疑問に、ミケは頷く。
「一度でも先生を出し抜くなりしてご機嫌を取れれば、ルリが勇者と共に帰還するまでは見逃してくれる可能性が出てくる。先生、身内に結構甘いからね」
「問題はどうやってご機嫌を取るか、だよなぁ」
「一番の方法は、森を抜けるまで一度も遭遇しないことだね」
その言葉の意味に気付いて、リュカは問いかける。
「……ミケ、もしかして」
「ああ、そうだよ」
ミケは頷いて、二人に向かって告げる。
「さっきから、森の奥が静かすぎる。多分、瘴獣達すら息を潜める怪物がいるんだと思う。となれば、そんなのは先生しかいない」
リュカの表情が引き締まった。どうやら何かの覚悟を決めたようだ。
「師匠、やっぱり来てるんだ」
「それなら、やはり迂回した方がいいんじゃ?」
ルリの言葉に、やはりミケは首を振る。
「多分、明日にでも第三層に入るからそこでわかると思うけど、三層以降の瘴獣達は相当手強いんだ。迂回すれば、それこそ遭遇する頻度は高くなる。それなら多少の無茶をしてでも直進して、大瘴霊石を破壊して瘴獣が発生しない状況を作り出した方がいい。それに……」
「それに?」
「……多分、そっちの方は東の森からやって来た知恵持つ獣達の縄張りになってる」
「どのくらい、危険なんですか?」
その問いにミケは「んー」と顎に手を当てて考える。
「危険度はピンからキリまでだけど……そうだね、一層と二層の境目で戦ったあの瘴獣がいるだろう?」
それを引き合いに出されて、ルリは表情を硬くする。
「アレが二桁いても余裕で返り討ちに出来るくらいというか、まるで相手にならない位の怪物が彷徨いている可能性がある」
「そ、そんなに危険な敵が出てくるんですか……」
ミケは頷いて、地図に視線を戻す。
「ああ。だからわざわざ迂回して、森を抜けるまでずっとヤバイ敵と遭遇する危険は残したくない。それにね」
チラリ、と革袋を見る。
「アタシ達が持ち込んできた食料は、三層の調査分だけだ。深層になると食料の調達が難しくなる。アタシの見立てだと、順調に進んでも中枢に到達したあたりで食料が尽きる。一日二日程度なら、水だけでも大丈夫だけど、空腹で力が出ない状態で深層の瘴獣達を相手にするのは避けたい。途中で食料を調達するにしても、瘴気と瘴獣を生み出す大瘴霊石がなくなれば大分調達が楽になるからね」
納得したとばかりにルリは頷く。
「リュカ、左腕の方はどうだい?」
水を向けられてリュカはチラリと左腕を見る。
リュカの左腕は、本人の申告通り少しずつ再生していた。二の腕まで失った左腕は、現在では肘まで再生している。
「形だけならそこそこ出来てるけど、中身がまだ駄目だ。完全に治るのにはあと十日はかかりそう」
「了解。それじゃ、今日はこれ位にしてそろそろ寝ようか」
そう言ってミケは周囲の木を見回し、その内の一本に向かう。
そして、短剣を取り出すと何やら木に短剣を突き立てて傷を付け始めた。
「何をしてるんですか?」
「獣避けの結界を張るんだよ。幸い、大森林の中は霊素が溢れてるから、それを利用する奴を知ってる。……これから先の敵を考えれば、ちゃんと寝て万全の状態で挑みたいからね」
そうしてミケは傷を付け終えると、次の木へと移動する。
ルリが先程ミケが傷を付けた木を見れば、何やら紋様の様な、或いは未知の文字の様なものが彫られていた。
そうして四方の木に傷を付け終えると、ミケは何やらブツブツと呟く。
呪文を唱えているのだと、ルリは直感的に理解した。
「展開!」
ミケがそう叫ぶと同時に、周囲の空間に不思議な力が満たされる。
効果の程を確認してから、ふぅ、と息を吐いてミケが周囲を見回す。
「起動は成功っと。あとは周囲の霊素を使って維持出来るから、もう大丈夫だよ」
不思議なものを見るような目で、ルリは周囲を眺めていた。
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