夫と私とレズ風俗

@age_zangi

夫と私とレズ風俗

ある時、夫から不意に「レズビアン風俗に行ってみたら?」と言われた。

今度久々にデートに行こうという話をしている最中だった。


私は子どもが二人いる、結婚もしている世間的に見ればヘテロセクシュアルの女性に見える存在だ。

しかし、実際には女性性を自分の中では納得できない、更にむしろ今まで好きになった人は女性の方が多いバイセクシャルである。


小学生の頃、初恋の女の子が進学する学校を中学受験して、同じ学校に通った。

初恋は全くかなわなかったが、中学~高校では何人かの彼女とも交際することになった。


中学生の頃は自分をレズビアンだと思っていたが、どうやら何かが違う。

女性であることに違和感があることに気が付いたのだ。

ならば男性なのだろうか?

高校生になると自分は男性なのだと思い込んでいた。

当時の自分はジェンダーとは「男性」か「女性」しかないものだと認識していたため、女性ではない自分は必然的に男性になるものだと思っていた。


大学生になると、男性と関わることも多くなる中で、どうやら自分は男性になりたいわけではないのではないか、と思い始める。

彼らと同じになりたいわけではなかった。

男性的な振る舞いをしたいわけでも、男性器を欲しているわけでもなかったのだ。

しかし、それでも自分は女性ではなかった。

ならば私は一体何なのだろうか。


大学生活を送る中で、男性との交際をする機会もあった。

片思いの相手が男性になることもあった。

その時、私は世間の言うレズビアンではなくバイセクシャルというやつだと知った。

なるほど。

どちらの性も好きになる私は、もしかしたらどちらの性でもあることもあるのかもしれない。

そこで唐突に私の中の葛藤が晴れたような気がする。


20代後半にさしかかり、紆余曲折あって夫と結婚することになった。

2か月以上人と交際したことのなかった私にとっては、ほとんど初めての恋人と言えるかもしれない。

私がこれほど信頼した人は多分他に居ないと思う。


結婚してから、夫には自分のセクシャリティや過去の自分の葛藤について洗いざらい話した。

きっと私のことや考えを全て知りたいと思ってくれているこのパートナーには、1つたりとも残さず隠し事をしたくないと考えたからだ。


包み隠さずすべてを語った後、私は一つ思い残していることがあることに気が付いた。

私は、女性との交際経験はあるが、性交渉の経験がなかった。

どうでも良いことのように思えるこの些末な事実が、私の心のどこかに滓のように積もっていたのだ。

交際相手とどうしても性的なことに至りたいと思っていたわけではない。

それでも、私が過去にあったかもしれない、結婚によって永劫かなわないことかもしれない、と思うたびに少しずつ滓の嵩は増えていった。


なぜそう思ってしまったのだろうか。

正直な話、「処女を捨てる」「童貞を捨てる」という言葉には私も違和感があった。

にもかかわらず、私はおそらく、この「童貞を捨て」られていないと思っていたのだと思う。

こんな些細などうでもいいことが気になって、私はこのまま夫婦生活を続けることすら困難になるのではないかと考えることすらあった。


そんなことを夫に話した後、話は冒頭に戻る。

「レズビアン風俗に行ってみたら?」

夫の言葉に少し戸惑った。

風俗店というものに関する女性性の搾取構造や、そもそもそれは浮気ではないか、私のエゴで夫にいらぬ負担をかけるのではないか…

様々な思いがあったからだ。

しかし、彼がそれらを考えたかどうかは分からないが、それ以上に夫は目の前の問題を解決しなければならないと思ったに違いない。

私もかつて性風俗産業に携わっていた身としては、何となくそれが最適解のように感じた。

都合のいい話だ。


結局、夫が近くに居るという条件で私はレズビアン風俗を利用することにした。

夫の知らないところで情事が行われるのは何か後ろめたさを感じたのだ。

そうして、様々な店舗をネットで検索し、こちらの要望をきちんと聞き入れてくれそうな、そして、せめてもの償いの気持ちでなるべく単価の高い店舗を選び予約の電話を入れたのだった。

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