サブプロット(2)/ここにいた
怪塵は撃破された。
戦闘は終わった。
「ふぅ」
「はぁ」
二人揃って安堵の息を吐く。
「よかったよかった」
ジッターは抱えていたカトルカールを大きめの瓦礫の上に座らせる。
「それじゃ」
「……?」
「あ、もう通報してるからすぐ抗正が来るよ」
「は?」
「そんじゃ」
「あ゛?」
「Cu――離して?」
カットと唱えようとしたジッターの手が掴まれた。
その手を掴んでいるのは折れてないカトルカールの手。
「なんで?」
「え、もう終わったか」
「なんで?」
「いや言ったじゃん。もう通報したから、すぐに応援がく」
「ああー! ヴィランが逃げそう!!」
「なにっ?!」
目線を向けた先、拘束されているはずのウサギ男が逃げ出そうとしていた。
小さな火、瓦礫に背中をぶつけたりなどをして発火させたのか。
――
◆ ◇ ◇
時間を止める。
左手は掴まれているから、右手でポケットから小石を取り出す。
それを放った。
――
時間停止の硬直は生物から無機物の順に優先されて、解除される。
だけど意識的に場所を動かしてずらす、固定されないものを移動させて、配置をずらすこともある程度は出来る。
そして、それらは周りの停止に引きずられるようにまた停滞する。
故に、たった一秒程度だが、その場に放った石ころが空中で止まり。
――ねじ込むように押し込んだ。
◇ ◆ ◆
――能力解除――
「ごば!?」
真っ直ぐに推し飛んだ石が、ウサギ男の仮面に直撃。
ぐらりと揺れて、痛そうに倒れた。
当たりどころが悪ければ重傷だが、まあヴィランやってるんなら多少は鍛えてるだろうし、大丈夫だろう。うん。
それよりも。
「ふーん。目にも止まらない早投げって、こうやってたんだ」
カトルカールの手が、ジッターの腕を握ったままだった。
「あのすいません、離してくれませんか?」
「貴方、クロックでしょ」
「違います、あと手を離して」
「引退するっていってたけどやめたんだ。なにその名前、どういうことだよ? なんでぼくにも言わないの? 怒ってるぞ」
「いえ、ちが「クロックだろ、おい」きいておねがい」「いやです、いやだ」
何故に二重否定系……!?
美少女から見上げられるシチュというのは思春期男子羨望のシチュだが、なんか怖い。
「俺はクロックではない」
「じゃああんたは誰よ」
しかし、だ。ジッターにはこういう当然の言葉に対して最適の答えを用意してある!
「クロックは――死んだ。そう、俺はその力を受け継いごぼふぇ!?」
ジッターは腹パンされた。
美少女が繰り出していい威力ではないパンチだった。
「冗談はやめろ」
「すいません俺がクロックです、だけどジッターでおなしゃす」
折れてない腕を振り上げていて、時間停止をすれば逃げられると思ったがそしたら死ぬほどエグい目に合わされると恐怖したのだった。
「あ」
そのタイミングで突っ込んできた
アクトによる妨害と破壊に備えて内部から扉が勢いよく排出される様は、殻が割れるような光景だった。
その中から現れたのは複数の装甲服を着込んだ機動隊。
「
「カトルた~ん! 無事かー!!」
「野郎ぶっころしてやる!! こちらは射殺許可でてんだからよ!」
銃、剣、槍、盾、斧、対人戦闘から隊怪塵戦闘を想定した現代の騎士団。
「プルーフ来たぞ。押し、もう大丈夫――何故に足を踏んでいるので?」
「プルーフさーん! ボクは無事でーす☆」
「何故裾を掴んでいるので??」
「あと怪我してて病院行きたいので、この人と一緒に連れていってくれませんかー。あ、ヴィランはここにいまーす」
「え、あの」
「そこの不審者はヴィランじゃないのか?」
「いいえ、親切なぼくのヒーローです。関係者ですので、後で報告しますねー――おい、いくぞジッター」
「え」
「こいや」
「あの」
「痛くしないから」
「いやあああああああああ!!」
ジッターはお持ち帰りされた。
◆
≪いやあああああああああ!≫
くだらない叫び声が聞こえた。
それは丸い穴から響いていた。
遠い、目にも見えない距離からの声が聞こえていた。
「穴を埋めろ」
指を鳴らす。
そこで穴がひとりでに閉じ、音は閉じた。
「カトルカールは
「そのようだな」
薄暗がり。
放棄された廃ビルの中でオフィスデスクの残骸に腰掛けた仮面の男が答える。
「三人も揃って、一人のヒーローも倒せない。情けないウサ、ウサ♪」
「まったくだ。はした金とはいえ、無駄金になった」
「だめだめ、駄目だウサ~。あれは駄目なウサギうさ~」
「そうだな」
「ウサギは駄目じゃねえんだよ!!?」
「突然キレるな、躁鬱か」
ハイヒールを振り上げて、何度も何度も地団駄を踏むバニーガールが吼える。
「収穫はあった。カトルカールの
「魔女じゃないウサ?」
「ヘンゼルが魔女の家で魔法を覚えるという改稿がある。魔女本体ではない、だから焼き殺される運命になかった」
予定していたエンドシーンは撮れなかった。
金色の篭手を鳴らして、仮面の男は呟く。
「クロックが動くだろう。協力するか、それとも決裂するか、どちらにしろやつは動く」
「あいつはヒーロー辞めたって言ってるウサ?」
「
男が残骸に手をかけて立ち上がる。
その歩みに床がひび割れた。
「
「天気は荒れてきた。嵐が近い、びゅんびゅんびゅん、赤い靴の悪い魔女が死ぬ時だ♪」
くるくる、くるくる、奇っ怪な狂ったバニーガールが片足爪先を立てて回っている。
「舞台は整う、シーンは進む、時計のように止まらない、時間は進んでる、スケジュールが圧してる」
銀髪の、白と黒の女が、狂った動きで廻っている。
「だけど、一人わからない。誰も知らない、あいつの正体を知らない、アンサンブル~」
歌い、踊り、声をかける。
「演じきれるかな、キング」
「覚えておけ、時計兎」
貴金属の手を持つ男は、指を鳴らした。
「ネタバレはなければないほど新鮮に楽しめる」
人生に悲観したような声で、王と呼ばれた男は告げた。
「ここから回す舞台がどう転げ回るか、それだけが俺の楽しみだ」
そう告げる言葉に、震えるように声が響いていた。
無数の風の音が。
唸り声のように響いていた。
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