第一ターニング・ポイント(4)/夢のヒーロー
会場から脱出したあと、スマホから電話をかけた。
『佑駆? ライブ終わったのか「カトルカールが拉致された」 はぁ!?』
「岳流いるか? 詳細はチャットで送る!」
応答してくれた海璃の返事をまたずに息を吸う。
「
――
◆ ◇ ◇
能力を発動。
周囲が停止する、その時間停止中に触れているスマホの時間は当然解除される。
限定的にネットの電波は拾えなくなるが、起動中のチャットアプリは動いてる。
息を止められる数十秒の間に文面を入力。
[[チーム三羽烏]]
●今日
ライブ会場
カトルカールが拉致された
敵は三体
ウサギ仮面 日本刀マン 包帯な女が布被せたら消えた
今会場外
さgしに逝く
◇ ◆ ◆
――能力解除――
息を吸う。
すぐさまスマホが震えた。
[[チーム三羽烏]]
●今日
ライブ会場 ――・既読
カトルカールが拉致された ――・既読
敵は三体 ――・既読
ウサギ仮面 日本刀マン 包帯な女が布被せたら消えた ――・既読
今会場外 ――・既読
さgしに逝く ――・既読
理解した(椅子マン)
位置情報をONしろ!(椅子レディ)
三十秒よこせ(椅子マン)
拉致ったヴィランの情報くれ!(椅子レディ)
能力を使用し、思いつく限りの情報を打ち込む。
メモ帳にボールペンで描いた絵を画像で取り込めば、絵でもイメージを共有出来る。
ヒーローをやっていた時から変わらない連携。
それらを駆使して情報を送り、返事が帰ってきたのは付近にあったコインロッカーを開けたところだった。
[[チーム三羽烏]]
●今日
ヴィランの正体はダルマ女だ(椅子マン)
人食い試着室ってやつな!(椅子レディ)
おそらく地下を通って人間を移動させる(椅子レディ)
{{画像ファイル}}(椅子マン)
もしもカトルカールが抵抗してるならどこかで動きがあるはずだ(椅子マン)
怪しいポイントをいくつかあたしが当たりをつけた(椅子レディ)
撮影カメラはあるか?(椅子レディ)
上からとるから解析たnむ
そこまで返信し、リュックから取り出したウインドパーカーを羽織る。
続いて取り出したカメラパーツを
使うのも久しぶりだが、まだ身体が憶えている。
(拾った石は六個、足りなけりゃあ小銭使うしか無いか)
走る最中に拾った小石の数をいれたポケットの中で数えて、顔をしかめる。
財布から取り出した小銭を見て……こんな時に限って、五十円やら百円玉が多い。
それでも全部取り出して、ジッパー付きのポケットに全て放り込む。
使う道具だけ残して全部コインロッカーに放り込んで、最後にニット帽を被った。
[[チーム三羽烏]]
●今日
ここから行ける高層ビルはここだ(椅子マン)
{{画像ファイル}}(椅子マン)
いけるか、ヒーロー?(椅子レディ)
「当たり前だろ」
息を吸い、周囲に目を向ける――自分を見ている目線がない。
遠くから聞こえてきた
佑駆は告げた。
「
自分の
――
時間が停止する。
そして、握るのは掌一杯の小石と小銭。
それを投げ上げて――彼は跳んだ。
彼は、空を
◆
カトルカールを発見した。
ちょっと空跳んで高いところから画像を撮ってたら見つけたのだ。立ち上る煙が。
燃え上がる煙に、燃え上がる火があった。
その中にいた彼女を見て、一瞬我を忘れかけた。
『さすが十京最秀の魔法少女。余裕のヒーローっぷりだな』
ワイヤレスイヤホンから聞こえた声に、気を取り直した。
(そうだ。カトルカールは強い)
遠目から見える彼女は既に三体のヴィランを拘束して転がしていた。
ライブの直後だったから心配していたが、心配するほどでもなかったな。
「二人共現在地に通報を頼む。抗正も近くにいるはずだ、すぐに来ると思う」
『あいよー。さっさと保護してもらったほうがいいしな』
カメラモードにしているスマフォから見ている海璃の声。
グループ通話にしているから声が入り交じる。
『しかし。結果的に介入しなくてすんだけどよ、お前一応引退宣言中だろ。もしもヤバかった時はどうするつもりだったんだ?』
「ふふふ。俺が何も考えずに飛び込んだと思ってるのか?」
『思ってる』
『そういう奴だろ』
「ちげーし! ちゃんと手は考えてあったんだよ、最高のアイデアがな……いいか、聞いたらびっく――!?」
反論を途中で切って、佑駆は跳んだ。
「
――
◆ ◇ ◆ ◇
時間停止、その
否、正確には最初に覚えた能力の使い方。時間を止めきれずに、ただ遅れて流れるだけの世界。
あえて時間を凍結しきらずに、相対的に速度だけを上げる。
時間停止ならぬ超加速。
ビルから飛び、水のように柔らかな空気抵抗の中を潜り降りる。
黄金のような時砂をかき分けて、走る。
時間停止と違ってこちらのほうが維持時間が長い、距離も稼げる。
だけど、時間はゆっくりと流れる。
(間に合え)
遠目に見えるカトルカールの姿を見ていた。
その後ろから噴出する粉塵も。
そこから出てきた怪物のような怪塵も。
それに殴り飛ばされるところも。
(間に合え!)
地面を蹴り飛ばす、水の中で泳ぐように、逆風に逆らうように走る。
――彼女ならなんとかするだろうと、苦しくなる呼吸が叫ぶ。
――カトルカールなら勝つさ、ヒーローだしさと考える自分がいる。
――お前はもうヒーローじゃないだろうと、冷静な自分が言う。
――助けたところで 誰かが言う。
誰も感謝しないと、
――また悪評が、 と言う声が聞こえる。
弾劾が積み重なる
(それが、人を助けちゃいけねえ理由になるかよ!!!)
命は尊いのだ。
失われたら戻らないのだ。
助かるか助からないかなんて、助けた後に考えればいい。
時間は巻き戻らない、世界に演り直しは効かない。
だから彼は。
あの
「IN」
手を伸ばす。
眼の前には踏み潰されそうな少女。
ゆっくりと流れる時間にこのままでは間に合わないとわかる。
――能力解除――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「
――
だから!
◆ ◇ ◇
瞬きほどの加速と停止の
自分を縛り付ける鉛のような空気の壁を押しのけて踏み込む。
がむしゃらにすくい上げて、飛び退く。
――能力解除――
◇ ◆ ◆
「「「そこまでだ、悪党ども」」」
破壊された粉塵と瓦礫から小さな彼女を庇いながら距離を取って彼は告げた。
自分が正しかったと祈るように。
明確な悪意に向けて自分を正すように。
火に震えていた小さな子供に、目を向けられないように。
「誰だてめえ、ヒーローか!?」
明後日の方角を見ていたウサギマスクのヴィランが、佑駆に向けて叫んだ。
その言葉を聞いて、確信する。
考えていたアイデアを使う時だ。
「俺は……ヒーローじゃない」
そう、佑駆はもはやヒーローじゃない。
「ジッター……
超速ヒーロー(自称)ではなく。
「ジッター?」
「そう。俺の名はジッター」
佑駆――ジッターは堂々と告げた。
「超大型新人新速ヴィジランテ――クロックV2ことジッターだ! 覚えておけ!」
引退したクロックの意思を継ぐ――
『はあ???』
何故か困惑された。
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