テーマの提示(2-2)/へぇ、浮気かよ
「よく勘違いされるんだよね。まあぼくの外見が可愛いからしょうがないけどね」
「うっわ。ナチュラルに自分で可愛いとかいう奴初めて見たわ」
「真実だし? ボクが断言するんだから、間違いないね」
「二度も言ったぞ」
「どうせなら三度言おう。ぼくは可愛いよ」
にっこりと微笑んで、三本の指を立てる三菓。
「うーん。自信満々な顔してるが、実際顔とかがいいからなんとも言えないな」
「お前はフツメンだもんなー」
「高いか低いかどっちかというと高いと感じたい俺に辛辣過ぎない?」
「悪くはないが、めっちゃいいとは言えないからキャラが薄いよな、佑駆って」
「的確に心削るパンチはやめろ」
「アシスタントが書くようなモブ顔」
「悪くはないんだけどメインキャラではないよなーって意味かよ……辛いわ」
「仲がいいねー君たち。カップル?」
「「友達だよ」」
海璃は肩をすくめて、佑駆は当たり前のような顔で、同時に言った。
彼と彼女の関係は友達だ。
少なくとも今はまだ、友達だと言い張れる関係だ。
「へえ、変わってるね」
「そうか? 男女の友情は成立するだろ」
「ユニークってことさ――っ」
クスクスと笑っていた三菓の顔が、不意に真顔になる。
その視線の先を佑駆と海璃は見た。
「カトルカールがどうかしたか」
視線の先にあったのは魔法少女コーナーでも一番目立つ大きさのあるヒロインのグッズ。
魔法少女カトルカール。
この国で三本指に入る知名度を持つ魔法少女。
その不自然な態度に、海璃は少しだけ想像をめぐらせて。
「カトルカールが嫌いとか?」
「いや、好きだよ」
海璃の言葉に、三菓は軽く首を振った。
三歩歩み寄って、コーナーに一番うず高く積み上がったCDケースを手に取る。
通常版と書かれたCD、殆ど残っていない特典版と記載されたものとの高さを見た。
「知ってるかい? このCD、通常版と特典版には殆ど中身に差はないんだ」
「あーあれだろ。【握手券商法】」
「そう。それだけ、カトルカールのCDはよく売れてる。CDの売上ランキングも上位にランクインしてるし、ライブも大盛況だよ。大人気さ、ヒーローとしては成功してるって言っても過言ではない」
最初は勢いよく、最後にはどこか小さく。
一息で彼は述べて。
「だからその人気に直結しない
息を
「所詮は人気商売さ。握手券という彼女に出会える引換券がないCDには興味がなく、それだけ手に入れれば廃棄されるだけ。最近のニュースを見てる? ずらっとゴミ箱に溢れるカトルカールのCD、通常版は売れない。特典が入ってないからだ」
「……ヒーローも商売だからな」
「慈善事業じゃないさ」
海璃の言葉に、三菓はケースを掴んだまま頷いた。
このヒーローショップは、現代の
必要性はある。あるが、ただ戦ったり、救助するだけでは食べてはいけない。彼らが生きていく糧を与えるのは雇ってる政府であり、企業であり、それの運用資産を出すのは民衆の経済だ。
何もしなくても生きていける奴なんていない。
だから人気商売として、人気を稼ぐし、それを薦めるようにどんなヒーローもプロデュースされている。
見栄えがよく、顔と名前が売れて、それを応援することが心地よくする。
それだけにこの業界は動いている。
「だけどよ。俺はカトルカールの歌は好きだぜ」
佑駆がそう言った。
「お世辞はやめなよ。こんなキャラソン」
「だって普通に歌上手えじゃねえか。好きなのを好きだって言って何が悪いんだよ」
三菓の言葉に、小首を傾げながら
「さすがにフィギュアとか他のグッズとかは買うの恥ずかしいけど、歌だけならどこでも買いやすいし、聞いていてもおかしくないから買ってるぞ」
「まあねー。ボーカルレッスンもしてんだろうし、力入れてるところはガチウマだもんなー」
「そーそー。いい歌とか曲聞くと楽しいしな」
自然体に感想を告げて、佑駆は三度言った。
「目に見えなくても、誰かが喜んでくれるなら価値があると思うよ。俺もファンだしな」
「ライブにいくほどの勇気はないけどなー」
「お金と時間がないんですぅー!」
わちゃわちゃとノリツッコミを交わす二人に、三菓は少しだけ笑った。
「あ、やばい」
「どした」
「ごめん。用事があるの忘れてた、ぼくもういくよ」
取り出したスマホを見た三菓は、慌てて買い物かごを片手にレジへと歩いていく。
その途中で不意に立ち止まり、二人を見た。
「なんだかんだケチつけたけど。ぼくの最推しはカトルカールなんでヨロシク。ディスったら泣くんでー」
ピッと三本指を掲げて三菓は去った。
そして、残された佑駆と海璃は顔を見合わせて。
「佑駆。お前そんなカトル好きだったの? 最推しマイフェアレディだと思ってたわ」
「男はな、可愛くて美人で応援出来る娘なら誰でも好きなんだよ」
「ていっ」
佑駆はぐーで殴られた。
◆
買い物袋を片手に、階段を駆け下りる。
五段飛ばしに降りる着地を、クッションで打ち消しながら、手すりを滑り、壁を蹴り、ビル飛び出す。
風圧でズレたフードを直しながら、周囲を見渡して、見つけた黒塗りのリムジンへと駆け寄る。
「ごめん、おまたせ! 状況は?」
自動で開いた扉から高級感溢れる座席カバーに腰掛けて、丁寧に買い物袋を横の席に置く。
「現場は封鎖を完了、現在警官による避難誘導と現場入りのヒーローをまっている状態です」
急発進を起こす車両内、その運転席からかけられた声を聞きながら、三菓は椅子の下からクーラーボックスを取り出す。
其処から出てきた菓子類のパッケージを破り、ガリゴリと噛み始める。
そして、甘ったるいペットボトルジュースで流し込みながら、三菓は訪ねた。
「現場到着までどれぐらいだい?」
「3分で間に合わせます」
言葉を聞きながら、パーカーを脱ぐ。
その下にあったダブついたシャツも脱ぎ去り、その下につけていたビスチェ一枚に肌を晒す。
「サブはどうなってます?」
「マイナーヒーローが数名かけつけて、現場の封鎖と救助対象の捜索をしています」
言葉を聞きながら、ズボンを脱ぐ。
下に穿いていた白いスパッツ一枚になりながら、バックから取り出した軟膏を露出した肌に塗りたくっていく。
「OK。そのまま封鎖メインで。あとはぼくたちでやる」
「はい、こちらです」
肌着姿になりながら、彼は真っ白なタイツを履き、黒いアームガードを両手に嵌めていく。
「カメラの用意をしておいて」
ポシェットから取り出した口紅を塗る。
「既に済んでいます」
「OK、上出来♪」
「ずいぶんとご機嫌ですね」
「うん、まあね」
運転席からの声に、機嫌よく返事を返しながら、三菓は買い物袋を開ける。
取り出されたのは一つの人形。
時計を思わせる眼帯に、蒼いライダージャケットに身を包んだ。どこか出来の悪い安っぽい人形を指でなぞりながら。
「二つ、いいことがあったのさ」
嬉しげに微笑む。
喧騒が広がっていた。
怪塵騒ぎに、安全圏からひと目見ようと集う人混み。
そこに近づく一台のリムジンがあった。
現場近くに集まっている人混みを、警察官たちが掻き分ける。
警察官たちが招くように誘導灯を振るっている。
その誘導に導かれて、進んでいったリムジンが止まる。
ガチャリと音を立てて、扉が開く。
まず見えたのは真っ赤な安全靴だった。
ふわりと傘が開くように真っ黒なスカートが広がり、スリットからは真っ白なタイツが垣間見えて。
それから繋がるように漆黒の両腕がドアを掴んで、ゆっくりと現れて。
その髪は一流の飴細工職人が溶かしたような蜜色の髪をたなびかせていた。
「今日は3つ、良いことがあった」
口に咥えたロリキャップを揺らしながら、それは微笑んで、笑う。
「だから4つ目には不幸が起こる」
上機嫌に。
「ボクがここに来たってことだよ」
日本最強の魔法少女。
「――3分で終わらせてあげる」
その言葉は実現された。
怪塵は彼女一人に粉砕された。
そして。
超速ヒーロークロックは今日も現れなかった。
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