テーマの提示(2-1)/へぇ、浮気かよ





 渡鳥海璃は一人のヒーローだけが好きだ。


 それ以外のヒーローに関してはなんとも思っていない。

 無価値というよりもふーんという感じだ。

 アクトを悪用するヴィランに関しては嫌いだ。死ねばいいと思ってる。

 怪塵アクター? 嫌悪するのは人間の義務でしょ。


 まあそういう感じだ。


 だからこういうヒーローショップに関しても常連じゃないし、見かけるヒーローたちに関してもなんとなくカッコいいかとか、可愛いかとか、そんな感じでしか思ってない。デテールがいいなとか、デザインがいいなとか、これジオラマにすると映えるなとか、そういうぐらいだ。

 それなのになんで来たかっていうと、理由はたった一つ。


 佑駆たすくがヒーローが好きだから。


 アイツは昔から悪い奴が好きじゃなくて、それ以上に誰かのために頑張っている人がかっこいいと思っている。

 ヒーローショップに通ったりするのそんな憧れで、頑張っているヒーローを応援したいと思っているからだ。あとエッチな格好をしているヒロイン系にちょっと思春期の性欲がありありなのを知っている。アイツの趣味は巨乳だ、間違いない。ぶっ飛ばしてやりてえ。

 まあそれは折を見ての機会に置いといて。


 バッシングを受けてメンタルめきょめきょの幼馴染佑駆が、少しでも気晴らし出来ればいいな。

 そう思っていたんだ。

 いたから――




「やっぱりマジバトはこのノーマル衣装が最高だって! 見ろよ、このゴスってる格好に全く似合わない安全靴。ガチだぞ!」


「いやいや、この七撃ちバージョンこそが最高でしょ。ポーズも完全再現だし、右手に二本、左手に二本、背中に一本、その上地面にめり込んだバットを踏み台に威勢を切る。最高だったね、あんなバエったシーンはなかった!」


「映えと言う意味だと確かにそうだけど、こっちはこんなポーズもいけるんだぞ!? しかもみろよ、この人殺ししてそうな目つき!」


「目つきは大事。あーなんでこっちのと互換性ないんだろう、おかしいよ」


「まるでマジバトがヒロインみてえだ」


「活躍してるけど、ヒロインではないよね。分類ヒーローじゃない?」


「わかるぅ~」


 めっちゃ落ち込んでたはずの幼馴染が、見知らぬイケメンショタっぽいのと一緒に和装ゴス殴打系ヒロインヴァジラントバッターフィギュア片手に盛り上がっていた。

 そういう意味で気晴らしするのは予想外だわぼけ!












「グループ系ならやっぱり<ブレーメン>がいいんだと思うんだよなぁ。全員個性あるし、キャラ被ってないし」

「おたく桃太郎に出てくるお供をキャラ被りとか扱うタイプ? 全員種族が違うじゃないか、一つの物語のやつに全部出てきたから同じ仲間なというぐらい強引は話だと思うんだよね」


「ところでみにくいアヒルの子はにわとりカウントでいいんだろうか」

「メインバッファーのウマだって、ライオンの召喚型スタント連れてるし」


「分身属性のわんたんとかもいるぞ! しかも可愛いし、能力アクトもえぐいし」

「リーダーの<ノブレス>ちゃんが一番じゃない? あのあざとい猫耳に、ブカブカの長靴。ガッポガッポさせながら歩いてるのを気取ってるけど、羞恥なの丸出しでキャラとして強いと思う~」


「ブレーメンの音楽隊とは戦隊モノだった?」

「いつかモチーフの俳優アクトレスが現れるかもしれないし、かっこ震えかっことじ」


「でも今更出てきて、私がブレーメンだとか言えるか?」

「所詮奴らはブレーメンに辿り着けていない順当リタイア組じゃけん」


 なんということでしょう。


「ちょっと目を離してた隙に、幼馴染が見知らぬショタメンとオタトークしていた件について」


「お、海璃。そっち用事終わったのか、こいつ三石みついし M・三菓みかっていうんだってさ。いいやつだよ」


「あ、どうも。三菓って呼んでくれ」


「まてまて、まって。野郎同士の意気投合速度理解できねーから」


 いぇーいと左右の手を突き上げる二人に、海璃は頭痛をこらえるように頭に手を当てた。


(同行の友に出会ったからっていうのかな。めっちゃ元気になってるし、それはそれでいいけどさ)


 いやまて。

 こめかみから手を離し、海璃は三菓と呼ばれた子の顔を見た。

 パッチリとした目つきに、名前からして外国の血が入っているのか濃い色の金髪で、海璃と同じぐらいの小柄な背丈もあって非常に可愛らしい。

 さぞかしおねショタが似合いそうな少年から+5ぐらいされたと言う感じの外見で。


「不躾ですが、男だよな?」


「おいおい、こんな外見偏差値高い奴が女の子なわけがないだろ。けっ」


「フィクションに使われそうな判断基準を持ち出すんじゃない」


 佑駆が冗談めかしながら言う言葉に、苦笑しながら海璃が相槌を打つ。





 三石 M・三菓はにこやかに言った。

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