テーマの提示(1-2)/へぇ、デートかよ





 ヒーローショップ。

 怪塵災害が始まって30年。


 ヒーロー・ヒロインと怪塵の戦いが日常茶飯事となった今の世の中、人気のあるヒーローにはグッズなどが販売されている。

 公的な立場と契約をしているメジャーヒーローの公式グッズなどはちょっと大きいデパートなどでも手に入るが、あまり有名ではないヒーローたちのグッズはここでしか手に入らない。


 いわゆる政府ではなく保険会社、警備会社などと契約している、対怪塵保険として出撃するローカルヒーローや。

 政府との直接契約はしてないが、要請に応じて出てくる新人やマイナーなヒーローなどのグッズだ。


 ちなみに超速ヒーロー・クロックは全部自称と名付けられた二つ名だ。

 (自称)クロック、通称超速ヒーローと言う奴である。


「ふふ、だよなー」


 そんでもってヒーローショップにて佑駆は煤けていた。

 クロックのグッズがおいてあった箇所はがら空きだった。

 バッシングの影響で撤去されたか、その前から置かなくなったのかは判断がつかない。

 元からそんな人気はなかったとはいえ、クロックグッズがあったのはたった一箇所の小さなスペースだったからだ。


「マジむかつく。ちょっと店員に在庫あるか聞いてみる?」


「やめて心が死んじゃう」


 海璃が出す助け舟に、佑駆は首を振る。

 店員に聞く勇気はなかった。

 はは、あれ人気なくて撤廃したんですよとか言われたら致命傷になってしまう。


(いや、そうだよな。俺の許可取って作られたグッズじゃねえし、幾ら買われても制作会社とかが儲かるだけだし、抱きまくらカバーとかネット限定で出たけど一瞬でかき消えたもんなー……あれは絶対ネタだと思うけど)


 きっと今頃はテンバイヤーを苦しめる不良在庫になって苦しめてるんだ。

 そうに違いない。


「そうに違いない」


「今あたしが横にいるからいーけどよ。往来でやったら正体モロバレだからやめてよ?」


 ずりずりと海璃に引きずられて、二人で移動する。

 ヒーローショップには色々なものがある。

 怪塵アクター事件で失われた街の再建されたフィルムブックや、伝説的なヒーローたちのフィギュア。

 スポンサーになってる保険・警備会社の出しているキャラグッズに、そのヒーローたちがCMや宣伝を行っている商品など。

 思い入れがあるヒーローに関するものなら見ているだけで飽きなかったし、くちさがない人なら大体アイドルグッズみたいなもんだろうと言う。

 そんな店内を二人で冷やかしながら、佑駆には本命があった。


「おし、今日は海璃がいるからあっちいけるな」


「ま~だ一人で行くの恥ずかしがってんのか。そんな大したもんじゃないじゃん」


「いやきついって」


 ヒロインコーナー、そう呼ばれるスペース。

 具体的に言えば女性のヒーローのグッズコーナー。

 もっと詳細に語るならば可愛い女の子と美しい女性がボインボインな感じのグッズコーナーである。


 ここを男一人で向かうのには難易度が高い。

 ちなみに佑駆はこのショップに入るちょっと前に上着を羽織った。サングラスもつけようとして、海璃に頭を叩かれた。


 最初に向かったのはこのコーナーでも二番目に目立つエリア。

 <マイフェアレディ>のコーナーだ。

 マイフェアレディは赤い腰上まで伸ばしたサラサラの髪に、切れ長の瞳と少し怒ったような目つきにチャーミングな犬歯が特徴的な美少女で、そしてなによりもスタイルがいいヒロインだ。

 しかもコスチュームは体のシルエットが判るボディスーツや、ちょっと野暮ったいのが逆に人間味を出す作業服に、一度緊急出撃の時に目撃された芋ジャージ姿ただし上と下がムチムチしてるせいで普通にエッチに思えるわ、とまあバージョン違いが複数ある。


「相変わらずの恵体だわ。あたしより年下なのに、何食ったらこうなんだ?」


 箱に入れられたフィギュアを見ながら小首をかしげる海璃。


「わからん。人間には個人差があるというしか……」


「そこであたしを見る辺り、他の女だったらぶっ飛ばされてんぞ」


「海璃さんは心が広いな~」


「感謝しろ感謝~」


「ははぁー」


「佑駆は買わないのか? 個人的にこのメーカーのフィギュア、出来いいぜー」


「買わん買わん」


 男子高校生の部屋に、こんなあからさまに美少女なフィギュアは飾るのは恥ずかしいのだ!

 同メーカーの芋ジャージバージョンはケースにいれて大切に飾ってあるが!


 それはそれとして今日は買う予定ではない……後日でも買う予定は今のところないが。

 毎度恐ろしい誘惑をしてくるボディスーツの誘惑を振り切り、横に積まれた箱を手に取る。


「今日の目的はこっちだ」


「おぉーもう出てたのか、機士形態マイ・ウェア・ナイト


 マイフェアレディの能力発動バージョンだ。

 全身紫色の水晶に覆われた人型の造形、メカチックに展開された姿はテレビでも現場でも見た彼女の能力。


 灰被りの基準シンデレラ・スケール


 その触媒と童話のシンデレラが穿いていたガラスの靴が由来となって名付けられたもの。

 ガラスめいた水晶を纏い、戦い踊る。

 ぶっちゃけていうとカッコいい。男子高校生の部屋に飾っていてもなんもおかしくないスタイリッシュさだ。

 しかもこの販売している造形師はメカ系で有名な造形で、めちゃくちゃクオリティが高い。


「お、新しいジオラマパーツ出てるやん。買ってこっと」


 おすすめと横に置かれているジオラマパーツを、海璃がひょいひょいと手に持ってるカゴに入れる。

 佑駆は精々部屋に人形を飾るぐらいだが、海璃はジオラマまで用意する本格派だ。

 ヒーローをやっていた時はその趣味もあり、色々と助けられた。


「俺が言えた義理じゃねえけど、海璃も結構好きだよな。こういうの」


「かっこよさは正義。うぅじゃ~ん?」


「違いない」


 世の真理を二人で再確認しながら、「んじゃ次いこっか」 と言い出した海璃に続いて歩き出す。


「おーおー、揃ってる揃ってる」


「……」


 楽しげにコーナーを物色する海璃と正反対に、佑駆は沈黙していた。

 現代、俳優アクトレスが怪塵と治安維持に貢献する社会。

 男女ともに多種多様なのが存在するが、明確に多いのがある。


 女性の俳優アクトレス、すなわちヒロインと呼ばれる変身型キャスティング基軸の女性俳優。

 通称変身ヒロイン、あるいは魔法少女マジシャンガールと呼ばれる存在。


 そんな魔法少女マジシャンガールコーナーの規模はマイフェアレディの非ではない。

 というのも変身願望の有無が関係してるのか、姿形の変身に、特殊能力を搭載した複合型のヒロインが多く、有名どころからマイナーな能力者までメジャーなので十名近く。マイナーなのを含めればその三・四倍になる。


 それら過半数だけでもフォローするとしたら当然コーナーは大型化するし、範囲も広い。


 あんまり多すぎて戦隊モノよろしくユニット組んでたり、二人組で白と黒してたり、巨大使い魔を操る自分がマスコットになることだ! みたいな魔法少女まで個性化を狙った売り込みなどが日夜繰り広げられており、いわゆる魔法少女戦国時代なのである。


 日曜日の朝にはモデルになった魔法少女のアニメがやってたりするし、深夜には別の意味でモデルになった番組とかもやってたりする時代だ。

 だがしかし、そういうのに憧れるのは基本的に女児であり、求めるとしたら大きいお兄さんたちなわけで。


(き、きっつい!)


 そのどちらにも属さない佑駆にとっては場違いだった。

 女の子である海璃にとっては大したことはないだろうが、むず痒さにも似たいたたまれなさがある。

 結果、なにか一つジーと見ていてもそれに興味があるように思われるし、キョロキョロ見るにしてもあまり顔を動かしたくない。嫌だ。


「かいりー、ちょっとブラブラしてるぞ」


「迷子になんなよー。うぅむ、実在ヒーローは大体スパッツだから困る」


 残念な行動をしている残念な幼馴染をおいて、佑駆はコーナーを歩き回ることにした。


(しっかし本当に種類多いなぁ。魔法少女系)


 あるわあるわ、沢山の魔法少女のグッズが。

 魔法少女の人気的な意味での生き残り合戦に多種多様なグッズが作られているが、こういうヒロイングッズが所属してる政府や、スポンサーになる警備・保険会社の利益になるというのは昔共闘したゴス打撲音系魔法少女の証言だったか。


 ――給料も上がるし、背負う看板の重さが女の格を高めんだよ。


 みたいな鉄バット片手に怪塵殴り倒していた元スケバン上がりの彼女は尊敬出来るプロ根性をしていたと思う。


「ん?」


 そんな最凶ガールの思い出にひたりながら歩いていると、ふと佑駆は目についたものに何気なく手を伸ばした。


 柔らかな感触。


「え」


 硬質なCDケースを掴もうとした手が、違うものを握りしめていた。

 小さく細い手、その指先から腕を辿って振り返ると同じように手を伸ばしていた顔があった。


「あ、すいません」


 慌てて手を離して距離を取る。

 謝罪する佑駆に対してペコリと返したのは小柄な男の子だった。

 黄色いフード付きのパーカーに、膝下までのパンツに、不釣り合いな真っ赤な安全靴を履いている。

 麦色のショートカットの彼の顔に、佑駆は思わず声を上げた。


「あ」


 佑駆の声に、男の子は顔を隠すように手を上げて。


「くそ、イケメンか」

「え――ぁあん?」


 めちゃくちゃ顔のいい彼に、自他ともに認めるモブ顔――平均的な佑駆は打ちひしがれていた。


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