第80話 円陣組むとみんなの心が一つになるよね


 郊外の空き地には木材や注連縄、まだ乾ききっていない草? 藁? などが積み重ねられていた。

 そこかしこに作りかけのやぐらっぽいものや、お神輿っぽいものがあったりする。


 これって、あたし達のお祓いの為に用意してくれているんだっけ?

 ミカと皆が仲直りしたから、これって必要だったりするのかな?


 そう思って周囲を見てみると……


 …………


 ぽつんと一人佇むミカ。

 それを遠巻きにひそひそと注視する周りの面々。

 まるで忌み子をどこか怪訝そうに見られている感じだ。


 そうだよね。


 仲直り、なんて言われても、急になんて出来るわけがない。


「ね、ウカちゃん」

『何だ、ミヤコ?』

「ここにある資材って何なの?」

『ミヤコを戻す為の儀式用だな。具体的に言えば水気の多い藁で煙を出し、親父の八雲結界で権能を再封印してから穢れを払って理の捩れを戻す』

「ミカの力を弱めてから、こないだの時の様にするってこと?」

『そうだ。まぁ今となっては力を弱める必要は無い気もするが』

「ふぅん」


 思い出すのは、隣町の神社で夏越の祓えをしたときの事。

 まるでお祭りのように周囲には屋台が立っていた。


 たこやき、お好み焼き、焼きそば等ソースが焦げる香ばしい匂い。

 果実を閉じ込めた色とりどりのりんご飴やイチゴ飴は目にも鮮やかだ。

 チョコバナナや、やたら大きな焼き鳥なんかも忘れちゃいけない。

 わたがしなんかはくるくると作る所を見ているだけでも楽しくなる。


「それならさ、お祭りしようよ」

『祭り? 何の?』

「ミカの仲直り兼歓迎会!」

『えっ?』


 予想外という顔をするウカちゃん。


 あれ? 何か不都合あるのかな?

 元々これの準備をしてるのって祭りの準備っぽく見えたんだよね。


『おう、それはいいや! 祭りにしようぜ!』

『親父!』

「ウカパパさん!」


 破顔一笑、心底愉快そうな顔でウカパパさんが賛同してきた。


『普段顔を合わせない奴らも集まっているし、旧交を暖めるのも悪かねぇ。だろう?』


『『『『うおぉおぉおおおんっ!!!』』』』


 大地を揺るがさんばかりの歓声があがる。

 ミカはその光景にビクリと身を震わせる。


「ミカも手伝うんだよ?」

『え?』


 こうしてミカのお祭り準備の手伝いが始まった。




  ◇  ◇  ◇  ◇




 空き地の中央に一際目立つものがある。

 櫓のようにも見える、もはや建築物と言っても良いくらいのものだ。

 下の方なんて、石垣みたいなものでがっつりと基礎を作っている。


 あたしはビクついてるミカを晶と一緒に左右から手を引きながら、櫓を作っているところに向かった。

 その場に居た、集まっている人の中でも一番身体の大きな人に話しかけてみる。


「ねぇ、これは何作ってるの?」

『お、おぅ……そ、その……』


 身体は大きいのに肝は小さいのか、ミカの方を見ながらびくびくして、まともに答えれないみたいだ。

 ミカはどこかわかってたと言いたげな、悲しい顔を見せる。


『禊をして清めた藁を燃やして煙を出す為さ』

「えーと、あなたは確かタケさん」

『おうよ。タヂ、ビビッてんじゃねぇよ。カガ……じゃあねぇ、ミカか。可愛いもんじゃねぇか』

『そ、そうは言ってもよぅ……』


 要領を得ないタヂさんに代わり、ぬぅっと現れたレスラーみたいな大男のタケさんが答えた。

 ガハハと笑い、髪が乱れると嫌がるミカの頭を強引にぐりぐりとする。


『もっとも、煙を出す必要がなくなったから、ただのでっかい篝火にしかなんねぇけどな』

「てことはでっかいキャンプファイヤーみたいなもの?」

『そうだ』

「どうせなら祭りの目玉になるよう、おっきく派手にいきたいね」

『お! わかってんじゃねーか!』


 いえーいとばかりにタケさんとハイタッチ。

 このノリは嫌いじゃない。


 だけれども、タヂさんを初め、何だかあたしを恐れ知らずを見るような目をしている気がする。


 何故だろう?


「タケさんって嫌われてる? もしかして怖い人?」

『えっ?』

「フツさんだっけ? あの人以外とは距離が遠いっていうかさ」

『あー、いや、なんていうかな……』

「もう、お祭りなんだから無礼講でいかないと! ほら、みんな来て! 円陣を組もう!」

『え、円陣?』


「ミカも! あきらも!」

「え、ボクも?」

『ミカも?!』



 戸惑う晶やミカ、それにタヂさんを初め櫓の周囲に居た人たちを強引に連れてきては円陣を組ませる。


 うんうん。


 バスケの対外試合の時とかもそうだけど、円陣を組むと一体感が出るよね。


「でっかい櫓を作るぞー!」

『『『『お、おおー』』』』


「声が小さいぞーっ!」

『『『『おおおぉおおっ!』』』』


「もーいっかーいっ!!」

『『『『おおぉぉおおおおぉおおっー!』』』』


「最後はミカが掛け声で!」

『えっ!? え、えぇぇ……こ、この娘、一体何なんだーっ?!』

『『『『おおおおおぉぉおおおぉおぉおおおおぉおおっーーーーーッ!』』』』


 ちょっと!

 最後のそれで一番声が大きいとか酷くない?!


 晶? その慈しむ顔は何? さっきまでと意味合いが違うんだけど?!


「とにかく、あたし達も手伝うから。何をすればいい?」

『嬢ちゃん達に、ミカもか?』

『どうしてミカが……まぁいい、手を貸してもいい』


 そういって手を掲げ、星の光のような鈍い輝きを放つ。

 タケさん達が思わず身構え、緊張が走る。


 ぺしっ!


 だからあたしはミカの頭をはたいた。


「こら! 力は使っちゃダメ。みんな怖がってるでしょ?」

『ふ、ふんっ、何故ミカがキミの言うことを聞かな……』

「着替えたい?」

『わ、わかった!』

「ちゃんとズルしないか、あたしがすぐ近くで見て回るからね!」

『く、くぅ』


 うん、ミカってば案外素直じゃない。


 ウカパパさんも言ってたように、ミカは子供なのだ。

 今まで力を持て余して忌まわれていただけ。

 ちょっと捻くれていたけど、性根は結構優しそうってのがあたしの印象だ。


 みんなと一緒に同じ目標に向かって何かをすれば、きっと打ち解けるはず。


『嬢ちゃん、一体何をどうすればあんな……』

「え、なに?」

『ああ、いやいい』


 なんだか、周りだけじゃなく、タケさんまであたしを畏怖するかのような目で見てくる。

 あたしのような、か弱い乙女に向けていい眼差しではない。


 …………


 頭を叩いたからかな?

 罰当たりモノ! とか思われてる?


 う、う~ん。


 こ、困った時は晶に――


「みやこちゃん、ボクあっちで皆のお昼作る用意手伝ってくるから」


 に、逃げたな!

 あと、すごくいい笑顔してた!

 くっ、この!


 いいもんいいもん、こうなったら腹括ってやる!


「よーし、何でも手伝うから遠慮なく言って!」


 こうしてあたしはミカを道連れに、櫓作りに挑むのであった。


『え、道連れ?!』


 ミカが何か抗議しているけれど、気にしない。


 ……


 …………


 ………………………………


 あの、あたし唯の人間なので。


 普通の女子高生なんで。


 謙遜?


 いやいやいや、違う、違うから。


 だから、そんな丸太の原木一人で運ぶのとか無理だから。


 何本も抱えて運ぶタヂさんがおかしいから。


 むぅ、ミカ! 手伝って!


 そう。


 今だけ力使ってもいいから!


 あ、ウカちゃん!


 大丈夫、怖くないから。


 ミカも大人しく手伝ってるし。


 友達、そう友情。


 友情パワーを見せつけよ?


 フツさん?


 タケさんみたいにあたしを畏怖する目で見ないで?




  ◇  ◇  ◇  ◇




 西の空がすっかり茜色に染まる。

 長くなった3つの影を追いかけながら家路を歩く。

 今のあたし達は、夏の暑さと相まって、すっかり汗だくドロだらけだ。


『まったく、キミはとんでもないやつだ』

「え、どこが?」

『詳しく説明できる言葉がないだけに、何て言っていいかわからない』

「なにさ、それ。あきらわかる?」

「残念ながら、なんとなくわかっちゃう」


 晶とミカが、うんうんと頷きあう。

 なんだよぅ、仲良くなっちゃってさ。


 ミカが仲良くなったのは晶だけじゃない。

 櫓を一緒に作った面々ともある程度打ち解けられたと思う。

 最後の方は皆と一緒に奇異な目であたしを見ていた気がする。


 …………


 解せぬ。


 あたしが何をしたというのか。


「ま、明日から本番までの日まで、手伝いに行きましょ」

『ふ、ふん。キミも行くなら考える』

「よぉし、言ったね?」


 ま、いっか。

 ミカの雰囲気が随分柔らかくなっている。

 朝とは大違いだ。

 それだけ心境の変化があったのだろう。


「……きっと」

「あきら?」

「きっと、ボクもそうやって連れ出されたんだと思う」

「どういう事?」

「さぁてね」

「んぅ?」


 そう言って、あたしとミカを見つめる晶は一人したり顔だった。

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