第79話 人生はすなわちこれ抹茶
街の郊外、遺構近くの休耕地。
お揃いのはっぴを来た集団が、一様に皆正座をしてあたし達を囲んでいた。
うん、シュールだ。
何か勢いで突っ走ちゃったけど、今更引き返すことも出来ない。
すぐ傍に居るミカがこれからどうなるのか不安そうな目で見ている。
…………
そう、この苦い出来事は抹茶だ。
きっと数年後くらいに思い出すと悶えちゃうような黒歴史になってしまうに違いない。
だけど、きっとあたしの人生を豊かにしてくれるはずだ。
そう信じないと正気に戻った時に耐えられないっ!
「とにかく! ミカがこうまで敵視されるには理由があるんでしょ? 一体何をやらかしたわけ?」
『べ、別にミカは何も。良いことをしただけだし……』
「本当に良いことしただけならこうはならないでしょ?」
『あ、あいつらが勝手にっ』
「はいはい、ならまずは相手の言い分を聞く。ウカちゃん、誰か説明できる人いる?」
『わ、我か?! あー、えーとその、親父っ』
『お、おい。誰か話し上手いやつ! お前でいい、説明してやれ!』
ウカパパさんに指名されたのは、出っ歯が特徴的なでっぷりした方だった。
なんとなく猪を連想してしまう。
その猪さんが、おっかなびっくりたどたどしく説明してくれる。
……
…………
……………………………………
その都度ミカの方からも抗議にも近い突っ込みも聞きつつ話をまとめると、どうもミカには配慮とか心馳せといったものが欠けているみたいだ。
例えば。
かつて水が無くて死に掛けている人の願いを叶えた?
泥水だろうか墨汁だろうが汚水だろうが、口の中に入れば真水になる奇跡だって?
それは良い事じゃないの?
え?
果汁も酒もスープも、水気があるものは口に入れたら全部真水に?
食事のソースやら調味料も?
…………
い、いやぁ、それはもう奇跡というより祟りだよね……
他にも?
美人になりたいと願った人がいた?
ああ、うん。あたしもなれるものならなりたいよ。
で、美人に変えたの?
……
どういう美人かわからないから彼女の意識を変えた?
超絶ナルシスト爆誕になったと。
へ、へぇ……
うん、これって傍から見れば、ただの天邪鬼だよね。
ちなみにあたし達の場合だと、思春期のあれやこれやで拗れた関係を元に戻したいと願った結果、あたしは異性を意識できなくなり、ダメ押しで晶が女の子になったという。
困ったことに、ミカ本人は割りと真面目に願いを叶えようとしてこれなのだ。
しかし注意をしようとしても、なまじ強大な力を持っているし、本人の性格もあって聞き入れてくれない。
それだけでなく、ちょっとでも非友好的な態度を取った相手にそういった
…………
なるほど。
「これはミカが悪い」
『む、キミまでそんな事を言うか』
しかめっ面をするミカ。
まるで大人はわかってくれないと言いたげな中学生みたいな顔だ。
「よし、じゃああたしがミカの服をコーディネートしてあげよう。大丈夫、昨日のあきら以上に仕上げてあげるから!」
『ま、ままま待て待て待て! いいから! しなくていいから!』
「どうして? 遠慮しなくていいのよ?」
『そ、そうじゃない! 聞いて! ミカの話聞いて! ひぃぃぃっ!!』
手をわきわきとさせながらミカに近付くと、正座を崩して後ろに後ずさる。
むぅ、そこまで本気で嫌がる事なのか?
そんなやり取りを見ている周囲のはっぴ軍団は、あたしを信じられないものを見る目で見ていた。
中には怯えてる人もいる。
あ、あはは。
仲直りを、って言い出したあたしがミカを苛めちゃダメだよね。
反省、反省。
「ミカ、皆に謝って」
『…………』
「コーデ変えたい?」
『ご、ごめんなさい』
「ほら、頭も下げて!」
『う、うぅ~、ごめんなさい』
ミカの頭を押さえつけながらだったけれど、なんとか形にはなったかな?
ミカがごめんなさいした事が意外だったのか、皆も驚いた顔をしている。
あれ? だけど視線が全部あたしに向いているぞぅ?
…………
あ!
もしかしたら頭を押さえるってのは何かのマナー違反だったりしたのかな?
だとしたら悪いことしちゃったかも。
でもそれはそれ、これはこれ。
「さて、あなた達もミカがこうだからって、暴力に訴えるのはいけない事だってわかってるよね?」
『あ、ああ、だがそれは……』
『しかし相手は天津神唯一の邪神ぞ……』
『それよりもあの
『知らないのか?
『ならばこれも納得なのか?』
なんか躊躇っているというか、切っ掛けが無い感じなのかな?
「ウカちゃんウカちゃん、はい、こっち来てミカと握手」
『え、我?!』
「いいからいいから」
『あ、あぁ……』
恐る恐るウカちゃんがこっちにやってくる。
ウカパパさんも娘が心配なのか一緒にやってくる。
ウカちゃんとミカ、互いにぎこちなく握手をする。
「ミカももう一度頭を下げて! ウカちゃんもこないだの事を謝って! ほら、笑顔笑顔!」
表情が硬いままじゃ気持ちも通じないだろうと思い、あたしはミカのほっぺをぐにぃっと引っ張る。
あれ?
ウカちゃんの顔が余計に引き攣ったような……あたしが強引に手を出すのはダメなのかな?
『す、スサの娘よ、この娘は一体何なのだ?』
『あ、ああ、我の初めての友達だ』
『友達?!』
『そうだ、世界樹顕現の切っ掛けも作ってくれた』
『……えぇぇえぇ』
今度はミカの顔を驚きの色に染まり、ウカちゃんの顔が柔らかくなる。
うんうん、よくわからないけど良い傾向じゃないの?
あたしも思わずドヤ顔になる。
「ほら、ついでだし次はウカパパさんも」
『お、俺もか?!』
「当然! 全員とやってもらいますからね!」
『そ、そうか』
どこか狐につままれたような顔をしてミカのところへ行くウカパパさん。
『その、なんだ、色々悪かったな、香香背男』
『それは可愛くない。ミカと呼んだら許す』
『ああ、わかったミカ』
『あの娘、都子に免じて許す』
『そいつは大変だ、あの娘に足を向けて寝れねぇや』
『だね』
そういってクスクス互いに笑いあう。
照れているのかミカの顔が真っ赤だ。
『おい、タケ、フツ! お前ら散々ミカを追い回しただろう、こっち来てワビ入れとけや!』
『スサの旦那……』
『親分がそういうなら……』
ウカパパさんがそう言って、ウカちゃんが特に武闘派と言っていた熊みたいなレスラーと細マッチョのボクサーみたいな2人がミカの所にやってくる。
2人はいくつかミカと言葉を交わした後、照れくさそうにしながら何か言っている。
あ、タケさんとフツさんと目が合った。
手でも振り返しておこう。
むぅ、でもなんか2人の顔が引き攣っているような?
とにかく、これが良い切っ掛けとなったのか、ミカの前に長蛇の列が出来た。
ミカは一人一人と言葉を交わし、握手をしていく。
出会ったときは死人のように青褪めたみたいだった顔色は、まるで生気を取り戻したかのよう赤みが差している。
うんうん。
今はまだぎこちないかもしれないけれど、これで何かいい方向に転べばいいな。
そしてミカと仲直りした人は、必ずあたしを拝むように見ていく。
何でだろう? ちょっと背中がこそばゆい。
晶はといえば何か呆れたような、それでいて慈しむかのような目であたしを見ていた。
そして、ウカパパさんと何かを話しているみたいだ。
男同士の話ってやつかな?
手だけ振っておこう。
…………
『よぉ、娘っこ……いや本来は坊主か?』
「ウカ様の……お父様?」
『お父様って柄じゃねぇな、ワハハ!
「……え?」
『ウカの友達、あれは良い女だな。妻に迎えたいくらいだ』
「み、みやこちゃんだけは渡せません。例え神様にだって譲れない」
『……ほぅ、可愛らしいが、良い男の顔だ』
「褒めてます?」
『最高にな』
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