第50話 決心


「おい、大丈夫か?」

「あ、ああ…………」


 あたしがその場所に駆け付けた時は、既に全て終わった後だった。


 以前晶が連れていかれたのと同じ場所には、つかさちゃんと沢村君がいた。

 そして以前と同じように、2人とも争ったかのようにボロボロになっている。


 その組み合わせは、完全に予想外だった。

 思わず顔を出すのを躊躇われ、こっそり覗く形になっている。

 こんなところまで以前と一緒だ。


「どうして私を助けてくれたんだい?」

「別に助けたわけじゃない。お前の事は話に聞いている。とても褒められたことをしていたとは言えねぇ」

「じゃあ何で?」

「女を寄ってたかって嬲るのを許せなかっただけだ」

「……っ!」


 ……こないだの晶の時といい、イケメン過ぎませんかね沢村君?!

 まるで物語の主人公のようですよ!

 そんな人に思われる人って…………あー…………

 そこにいるつかさちゃんの事もあって、なんとも言えない気持ちになる。


 そもそもあたしって、そこまで思われるような人間なのだろうか?

 愛嬌も女子力も無ければ胸も無い。あるのは無駄に高い身長だけ。

 正直、あまり自分に自信が無い。

 まぁ若干開き直ってるところはあるけれど。


「みやこちゃ……っ」

「(静かに!)」


 息を切らせてこっちにやってきた晶の口を塞ぐ。

 なんとなく、覗いている2人のやり取りに水を差されたくなかったのだ。


 う~ん。

 女の子っぽいと言えば、腕の中で顔を赤くしながら身動ぎしている晶の方が断然可愛い。

 小柄で可愛くておっぱい大きくて家事万能、あたしの思う女の子の理想形かもしれない。

 だから、ついつい自分と比べてしまう。


 腕の中の晶は『みやこちゃん?』なんて言いそうな表情で、あたしの顔を覗いてきた。

 うん、多分あたし動揺しているんだと思う。


「へぇ、こんな私を女だっていうんだ?」

「江崎は、その在り方が女だろう? 女々しいところとかさ」

「……痛い所を言ってくれるね」

「気を悪くしたなら謝るよ」

「……そうかい」


 つかさちゃんは女の子、か。

 沢村君にはそうなのか。


 ココアやショコラを連想する色のサラサラな髪。

 スラリとした長い手足と高い身長、品のある仕草に甘いマスク。

 まるで王子様然としたイケメン――それが今のつかさちゃん。

 だけど、あたしとしてはつかさちゃんはつかさちゃんだし、よくわかんない。


 腕の中の晶を見てみる。

 腰まで伸びた艶のある長い黒髪。

 小さな身体に不釣合いな胸、可愛らしい所作にあどけない小顔。

 まるで嫁のように世話を焼いてくれる可愛い女の子。

 どんな姿だろうとやっぱり晶は晶だし、嫁にしたい。


「童貞野郎」

「な、おまっ!」

「沢村君、童貞なんだって?」

「わ、わるいかよ!」


 んぅ? これも前回の焼き直しというか、流行ってるの?

 晶は……なんか思い出して赤くなっていますね。


「沢村君、モテるよね? 女の子のつまみ食いとかしないのかい?」

「は? 何言ってんだ? 好きでもない奴とそんな事出来ないだろ?」

「え? いやでも男子って……」

「他は知らねぇよ。ただ俺はそうだってだけだし」

「……はは、あははっ!」

「な、なんだよ、急に笑い出して」


「沢村君は、可愛い女の子と後腐れなくエッチ出来るとしてもしないんだ?」

「それに何の意味があるんだよ? 俺は嫌だぞ、そんなの」

「そ、そうかそうか。……ク、ウククク」

「な、なんだよ、変な奴だな」

「はは、あはははははははははははっ!」



 心底愉快。

 つかさちゃんは、そんな笑い声をあげた。


 つかさちゃんが、なんで笑っているかはわからない。

 だけど、その顔はどこか憑き物が落ちたような顔をしていた。


「みやこちゃん……?」


 晶があたしの腕を引いた。

 その表情は、どこか縋るような顔をしていた。


「大丈夫だよ」


 どちらかと言えば、自分に言い聞かせる為に笑顔を作り、晶に手を振ってつかさちゃんの前に躍り出る。

 なんだか泣きそうな笑顔を作った晶の顔が、少し胸に引っかかった。


「つかさちゃん」

「……都子」

「宮路……」


 何も考えずつかさちゃんの前に出てしまった。

 考え無しなのはいつものことだ。

 ただ、今を逃すと次の機会はないって感じたんだ。


「ちょっと2人っきりで話せないかな?」

「うん、わかった」


 どこか、覚悟を決めたような声でつかさちゃんが答える。


「みやこちゃん、江崎さん……」


 遅れて晶がやってきた。

 どこか不安そうにあたしとつかさちゃんを交互に見やる。


「大丈夫だよ、あきら」


 だから心配しないで、という思いを込めてにっこりとして言う。


 それじゃ行こうとつかさちゃんを促して歩き始めた時、沢村君がつかさちゃんの背中に言葉を投げた。


「おい、江崎」

「なんだい?」

「あーなんだ。骨は拾ってやる?」

「……ぷ、くふふ、なんだよそれ」

「うっせ!」


 沢村君はきっと事情をよく知らないはず。

 それでも知らないなりに、エールを送ったんだと思う。


 あたしも、覚悟決めなきゃ。

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