第46話 一人途方に暮れる


『このしふぉんけーきとやら? 美味いな。茶葉が入ってんのか? 蜂の蜜ともよく合うし気に入った』

「おいしいでしょ? それもメレンゲから作るやつなんだ。こないだのマシュマロもそう」

『マジか?! すごいな、メレンゲ。ミヤコが推すだけあるわ』


 ちなみにウカちゃんの中二病モードは解除されて、ヤンキーモードだ。忙しい子である。

 その変わり具合に晶はびっくりしていたのだけれど、シフォンケーキを褒められて満更でもなく、細かい事はまぁいいや状態。


 うかちゃんは手掴みのシフォンケーキを最後まで食べ終え、指に少し付いた蜂蜜を舐め取ると、あたし達に向き合った。


『さて、何から話したらいいかな』

「ん? 何かあったの?」

『先日ミヤコからアキラの事を相談されただろ? それでちょいと調べてみてな』

「そ、それって、何か分かったって事ですか?!」


 晶がずずい、と身を乗り出して聞いてくる。

 ウカちゃんもたじたじになるくらいの勢いだ。


『大本の原因はわかんねぇ……だが結論から言えば元に戻せる』

「え、ほんとっ?!」

「ど、ど、どどどどうやって?!」


 いつもは大人しい晶も黙っていられない様子だ。


『変化の原因は何らかのケガレが作用しているな。だからそれを祓ってしまえばいい』

「ケガレ……?」

『穢れ、気枯れ、まぁそれはどちらでも良いか。ともかくケガレを祓う事には我も一家言あってな』

「じゃあウカちゃんなら元に戻せるっていうの?!」

『い、今すぐは無理だぞ! さすがに人体変化ほどのものを祓うには道具やら日取りやらあるし』

「逆に、条件さえ整ったら可能ってことだよね?」

『そういうこと』


 やた! とばかりに晶と手を取り合い喜びを分かち合う。

 あ、今のあたし女子っぽくね?

 これは高女子力ゲットしちゃったかなー、おっぱいおっきくなっちゃうよー。


 それに、晶も随分嬉しそうな顔をしている。

 うんうん、やっぱ美少女は笑顔こそよく似合…………


「あきらの女の子姿見られなくなるのは勿体ないな……」

「み、みやこちゃん?!」

『折角の普乳、なくしてしまうのは惜しいな……』

「ウカさまっ?!」


 いじられてほんのり涙目になる顔も可愛いから困る。




『夏越の祓え』

「なごしのはらえ?」

『茅の輪くぐりとか知らねーか? 水無月……今でいう6月の末に、神社とかで茅の輪をくぐるやつ』

「あーなんか見たことあるような? でもここではやってないよね?」


 この神社、町内会とかで管理してるからお神輿出すときくらいしか用ないんじゃない? と思うくらい人気がない。


『別にここでなくても、我の祀られてるところなら大丈夫。隣町の大きいとこならやってんじゃね?』

「なるほど……でも、ウカなんて名前で祀られてるなんて聞いたことないけど?」

『あー、宇迦之御魂神』

「うかのみたまのかみ? なんか聞いたことある」


 どこかで聞いたような……


「稲荷神のことだよ、みやこちゃん」

「あ、なるほど」

『その言われ方は、我としては微妙だけどな』

「ご、ごめんなさい」


 不機嫌な声で抗議するウカちゃんに、思わず謝ってしまう晶。

 お稲荷さんおいしいのに。 


「ともかく、それをくぐればいいの?」

『うむ、その時に合わせて我も力を貸すからな、効き目も抜群だ』

「うわぁ、特別にってやつ?」

『そ、そうだ。だって、その、我とミヤコはその、と、友達……だし……』


 と、顔を真っ赤にしながら最後消え入りそうな声で言うウカちゃん。

 やだなにこれ反則可愛い。


「って、月末にあるってことは……来週じゃん」

「それまでに、江崎さんの事もなんとかしないとだね」

「は! それもあった!」


 そうそう、あたしはそのことを相談しにきたのだったよね。


『エサキ?』

「ウカちゃんには話してなかったよね、というか相談に乗って!」

『い、いいぞ相談くらい! 何でも言うがいい! と、友達だからな!』


 友達という単語にニヤニヤするウカちゃんに、つかさちゃんの事を話していく。


「……というわけ。取り付く島もないって感じでさ」

『そいつ、なにか色々と拗らせてるっぽいな』

「そーなんだよね。だからどうしたらいいか」

『別に何もせんでもよくね?』

「へ?」


 予想外の返事に意表を突かれる。

 どういう意味だろう?


『言葉が足りんかった。特に奇をてらわずぶつかればいい』

「どゆこと?」

『根っこのとこの問題なんて往々にして単純なもんさ。ミヤコはいつものままで行けばいい』

「むぅ、なんか晶と同じこと言ってる気がする」


 そんな晶とウカちゃんは、お互い顔を見合わせてクククと笑いを噛み殺している。

 むぅ、なんだか疎外感。


『そうだな、具体的な助言としては……今すぐ連絡でも取ってみたらどうだ?』

「え? 今すぐ?」


 促されるがままに、スマホを取り出し電話をかけてみる。

 メールやらメッセージだとスルーされるかもだからね。


 …………

 ……………………

 ………………………………


「出ません!」

『む、むぅ』


 …………

 ……………………

 ………………………………


 再度掛け直してみるも反応無し。

 困った。これは困った。困っただけなく――


「なんか段々腹が立ってきたんだけど!」


 そもそもつかさちゃんの事を心配してるっていうのに、ここまで露骨に無視するのはあんまりじゃない?

 そりゃあ、あたしじゃあんまり頼りになんないかもしれないけどさ。

 よし、こうなったら意地でも連絡つけてやる!


 まずは手始めに履歴をあたしで一面埋め尽くしてやろう。

 普通に掛けるだけじゃ芸がないよね?

 適度に非通知も織り交ぜて……コール数も何か遊びも入れたいところ。とりえず5-7-5-7-7で。


 うん、なんだかちょっと楽しくなってきた。


『な、なぁアキラ。怒ったかと思うと今度はなんかニコニコし出したんだが』

「みやこちゃんの事は深く考えないほうがいいよ?」

『お、おぅ』


 なんだかあたしが酷い言われ方をしている気がする。ま、いいけど。

 …………

 ………………ツー

 よし、次はどうやっ……お?


『はぁ、もう降参、私の負け。都子には負けるよ』

「つかさちゃん!」

『それで? 一体どういう用?』

「え、えーとそれは……」


 どうしよう? 勢いで掛けたはいいけど、何を話すか全然考えてなかった。

 助けを求めるように晶とウカちゃんの方を見れば……なんかよく分からないけど、ゴーサインらしいものを出している。

 え? どういうこと? 好きにやれってこと?


『都子? 何も無いなら切るよ?』

「えーと、あれ、あれだ!」


 どれだ!


 頭の中で何を話していいかわかんなくてぐるんぐるん。

 なんだよぅ、あたしっぽくそのまま行けばいいとか……

 晶もウカちゃんもちょっとテキトーに言い過ぎじゃない?


 ――こういう時は……そう、相手の気持ちになるのだ。

 つかさちゃんなら、ヅカさちゃんならどう思っているのか? 何を言うのか?


「で、デートしようぜ!」

『……デート?』


 デートですって!

 え? マジ? デート? デートって何それおいしいの?


 いやぁ、あたしがそんな事言うなんてビックリだわ。

 うん、晶もウカちゃんもビックリして……いやあの顔はあたしがビックリしてることにビックリしてる顔だな。


「明日、駅前に10時半集合ね!」

『ちょっとまって、私行くとは――』

「それじゃね!」


 言うだけ言って切ってしまう。


 それにしてもデートか。


「ど、どうしよう……」


 心底困惑した表情で晶とウカちゃんに相談をもちかける。


『で、でででデートとかそそそそんなっ! みみミヤコ、そんな急いで大人の階段登らなくてもいいんだぞ?!』


 なんか純情な顔してうろたえていらっしゃる。

 これはダメだな。


「…………知らない」


 なんかご機嫌を損ねてぷいすとそっぽ向かれた。

 こっちもダメっぽい。


 ほんと、どうしよう?

 1人途方にくれる都子であった。

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