第34話 心の底から望む事


 どこか白くてふわふわしたところを歩いていた。

 目が覚めるとすぐ忘れてしまうというのに、これが最近よく見る夢だという事にすぐ気がついてしまった。

 何故だか知らないけれど、今回は子供の姿ではないらしい。

 そして朧げながらも、何度も同じような夢を見るという事が何を意味するかというのも、薄々感づいてる。



 メレンゲだ。



 ゼラチンと共に作るマシュマロ、小麦粉と共に作るシフォンケーキ、アーモンドと共に作るマカロン。

 最近そういったメレンゲをつかったお菓子を食べていない。


 夢とは潜在意識からのメッセージと言う。


 つまり、あたしは潜在的にメレンゲを求めているのだ!




『ふあーはっはっはっはっ! 我は生を司り、死の運命をも握る黄金の御遣い!』




 突如周囲全てを吹き飛ばすような、暴力的な金色の風を巻き起こし、1人の女性が舞い降りてきた。

 以前見たときとは違う、少し袖口や丈の短い天女っぽいやたら派手な服装で、何故か左腕と右目を隠すかのように包帯でぐるんぐるん。


 ちなみに風はあたしの周囲だけ避けてくれているようだ。芸が細かい。


「ウカちゃん!」

『よく来たな、我が魂の半身よ!』


 左腕と右目を守るように腕を交差させて、ポーズを決める。

 そしてポーズを決めた瞬間、ウカちゃんの身体から爆発するかのような金色のオーラが噴き出した。

 ――かと思えば急にうずくまり、ぷるぷると震えだしたりする。


『くっ、静まれ………我なら制御しきれるはず……』


 などと言っているが、表情を見れば余裕そうだし、なんていうかその、自作自演臭がぷんぷんしている。


「ウカちゃん……」


 あかん、これ中二病再発しとるやんけ。

 話しかけた声色が、思いがけず深刻になってしまった。


『だ、大丈夫だ、ミヤコ、我が魂の半身よ……』

「ほ、本当?」

『そ、そうだ。我を信じよ……』


 そしてウカちゃんはあたしの反応がお気に召してノリノリだった。

 いや、それよりも。


「何であたしまたここにいるの? また迷い子ってやつ?」

『いや、違う。今回は我が呼んだ』

「呼んだ?」

御散供おさごくれただろ? だから干渉できてな。米でなく甘味だったが、我としても甘味の方が好みだ』

「オサゴ……?」

『んー今の世でいうところの賽銭か?』


 なるほど。多分昨日、神社に寄った時お賽銭代わりに飴を供えたことを言っているのだろう。

 む、ちょっと待てよ?


「ど、どういうこと?! あそこで祀られてる神様ってこと?! じゃあきな子は一体何なの?! 神様ならあきらを元に戻せるの?! そもそもここってどこなの?! それから、それから……っ」

『ま、まてまて! 一度に言われても我にも答えられん!』

「あ、そうだよね。ごめん……」

『それとな、制約的なものがあって、なんでも答えられるってわけじゃないんだ。これはミヤコを護るためでもあってな』

「そ、そうなんだ………」


 中二病モードが解除されて、真面目な表情であたしを気遣うよう答えてくれた。

 いつになく真剣な顔で、嘘でないことがわかる。


『□□■□□□■■、□■■■□□□だから□■―■□―――□□って、聞こえるか?』

「え、なに? もっかい言って?」

『□――、■□■□□□■■□―――■■■□□□で、□■―■□!」


 まるで動画のノイズ混じりのような声になり、何を言ってるか全くわからない。


『■■□□□、あーくそ、ダメだ! すまん、ミヤコ』

「ううん、気にしないで。その包帯とか、さっきの気が漏れてたりのとかと違って本当っぽいし」

『えっ……』


 ショックを受けて後ずさるウカちゃん。

 あっ、中二病を指摘されるとか恥ずかしいよね。これはあたしの失言か。反省。


『い、いいか、ちょっと待ってろ!』


 言うや否や、少し距離を取ったかと思うと、胸元からスマホにも似た携帯端末っぽいものを取り出した。

 何あれすごい。あたしも胸の谷間に何か挟みたい(巨乳羨望)。


『あ、親父? ああ、ウカ。うん……うん、だからそれはいいだろう! あと、包帯とかダメだっ……え? 封印の札? つけてねーよ! くそっ、先に言えよな!』


 どうやらお父さんと話し始めたみたいだ。

 うん、包帯のアドバイスってお父さんだったんだね。

 …………どういうお父さんだよ、一体!?


『うん? 宇気比うけい? した。……うん、……うん、人間。……うん、でも………だって、その………友達だもん』


 どんどん声が小さくなっていって、最後の言葉尻は蚊の鳴くような声で、友達だもんって聞こえた。

 顔をものすごく真っ赤にしてあたしの事を友達だもんって言うウカちゃんはとても可愛くて、嬉しくて、やっぱ巨乳凄いなぁ、尊い。合掌。


『あー、親父に聞いたらさ、教える方法あるっていうか……あ、ちょっとまって』

「うん?」


 バッ、と包帯の巻かれた左手を包帯の巻かれた右目にかざし、痛々しいポーズをキメながらあたしに右腕を突き付ける。

 もちろん、金色のオーラを纏わせることも忘れていません。

 あ、はい。やり直したかったのね?


『我は生を司り、死の運命をも握る黄金の御遣い! 我が愛しき人間の娘よ! 捧げられた代価と共に、我が英知の一端を一つだけ授けようぞ!』

「つまりお供えした飴の代わりに、質問に一つだけ答えてくれるってこと?」

『然り!』

「む、ちょっと待って、考えさせて」

『あ、我にこたえられる範囲でね。その、無理なのもあるから』


 そう恥ずかし気に付け加えるウカちゃん。

 いや、その最後の無かったら決まってたのに。

 でもそんな残念なところもアホ可愛いからよしとする。


 しかし一つだけかぁ。

 気になることはいっぱいある。

 これって、質問の仕方次第で聞きたいことをたくさん聞けるとかってやつじゃない?


 ほら、よく漫画やアニメとかで

 『ほぅ、それを聞いてくるか(ニヤ』

 『で、教えてくれるのか?(フッ』

 なんて感じで、主人公スゲー! てなる展開の奴。


 …………

 ……………………


 無理っす!!!!!

 あたしなんて、その辺によくいる何の取り柄も無い女子高校生っすよ?!

 取り柄どころかおっぱいも無いんすよ?!

 ちっくしょう、ウカちゃん相変わらずおっきいなぁ!


 ええっと、とりあえず落ち着こう。

 目を瞑り、手を胸に当てて、深呼吸。


 晶やきな子、この場所とかウカちゃんとか気になることはいっぱいある。

 シンプルに考えよう。

 多分、難しいことは何もない。


 一つ大きく息を吸う。 

 うん、あたしの思ったまま、本能のままの言葉をぶつけよう―……











「おっぱいを大きくする方法教えてくださいっ!!!」




『なんでやねんっ!!!!!!!!!』







 本能に任せた結果、口から出たものはそんな言葉だった。

 ウカちゃんには全力で突っ込まれている。


『何で胸なんだよ! 他にも色々あるだろう?! 第一こんなの邪魔だし、肩こるし、そんないいモノじゃないぞ!』

「わかってない、わかってない、無乳については前に語ったよね? だからこそ、この言葉を送りたい」

『な、なんだよ』

「大は小を兼ねる!!!!」

『んなっ!!』


 ズビシィッ! とばかりに、あたしもポーズをキメて指をさす。

 そんなあたしに気押されたのか、ウカちゃんはたじろぐ。


『馬鹿な……わかってない、わかってないのはミヤコの方だ!』

「な、なにさ」

『過ぎたるは及ばざるが如し!!』

「んなっ!!!」


 ウカちゃんの裂帛れっぱくの主張に、今度はあたしがたじろぐ番だった。

 そうだ、極端なものはよくない。

 極端に無いあたしは、極端に有るウカちゃんの悩みをわかってあげられるはずなのだ。


 あたしとウカちゃん、互いが神妙な顔つきに変わる。


「ウカちゃん、ほどほどがいいよね……」

『ミヤコ……、適量がいいよな……』

「『普通になりたいっ!』」


 互いに手を取り合い、2人の心は一つになった。

 おっぱいの話だけに胸いっぱいだ。



  ◇  ◇  ◇  ◇



『で、結局何教えるよ?』

「ん、どーしよう?」


 何故かおっぱいの話で何故だか絆が深まった気がするウカちゃんは、腰を下ろして完全リラックスモードで聞いてくる。

 あたしもそれに倣って腰を下ろす。砕けた言い方が、近くなった距離感が感じられて、非常にこそばゆい。


「何を聞いていいかわからないかねー……そだ、逆に聞くけど、何なら教えられんのさ?」

『ほぅ、ミヤコおまえ……』

「ん?」

『あはっ! あっはははははははっ!!!!!』


 獰猛な笑み、ていうのだろうか? 心底愉快っという顔で笑い声をあげる。

 あたし変な事言ったっけ??


『教えられること教えろか、くふふ、いい質問だなぁ、それ!』

「えっ?」


 ん? どういうこと? よくわかんないけど、色々教えてくれるってこと?

 まず何を聞くかは決まってる。

 頭によぎるのは、昨日不安そうな顔をしていた幼馴染の目。


「あきらを元に戻せる?」

『アキラって誰さ?』

「あー、そこからなのか」

『わ、我とて万能ではないし……』


 というわけで、晶とのあらましをザっと説明する。


『むぅ……我らの誰かが関与していそうな気がするな、それ』

「ウカちゃん、どうにかできない?」

『わ、我はその、豊穣専門ていうか、えっと………』

「そっか…………って、あれ? えっ?!」


 なんだか自分の身体がぼやけてきている。

 突然の事でなんだか慌てふためいてしまう。


『お、落ち着け、夢から覚めようとしているだけだ!』

「あ、なるほど。前回はきな子に案内されてもどったような? てかきな子って何?」

稲生いねなりか。あいつは我の眷属みたいなもので、田畑の守護獣さ』


 なるほど、ウカちゃんもきな子も専門はそこなのか。


「あ、そだ!!」

『な、何だ?!』

「また会える?」


 あたしの言葉が意外だったのか、一瞬キョトンとした顔をしたかと思えば目に大粒の涙を浮かべて笑顔になる。


『うん!!』


 そして、意識が遠のいていくあたしに向かって声をかけてくる。


『そーいやメレンゲって何さー?』


 そうか、そっちにはメレンゲないのか。

 今度御供えしてあげよう。

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