第23話 神隠し 後半 ―晶―
『と、ところでオメェ誰なんだよ。んで、何見てたんだよ。ここは人間が来ていいとこじゃねーぞ』
コホンと咳払いを一つして、バツが悪そうな顔をして言い直す巨乳(美人)さん。
自分で強引な話題転換だと思っているのか、顔が真っ赤で迫力も何も無い。
「何って……綺麗に踊るのに、なんかつまらなさそうにしているのが勿体無いって」
『そりゃテメェ、つまんないからに決まってんだろ』
「え、どうして?」
『見てみろよ、ここを』
「うわっ」
巨乳さんと一緒に宙に浮く。突然のことにパニックになるが、学校の校舎より高くなってくるとなんだか逆に楽しくなってくる。
「うっひゃあ!」
『オマエ、結構余裕あるな………ま、いいや。見てみろよ』
「おおっ!」
眼下に広がるのは、どこまでも広がる黄金色に染まった大海原。
これら全てが稲や麦とか、おにぎりやパンを作ったらどれくらいの量になるだろう?
「すごい……」
『凄いだろ』
「うん、すごい!」
巨乳さんは(胸を揺らしながら)大きくため息をつき、ああ、つまらないという思いを万感に込めて吐き出す。
『凄く、何も無いだろう?』
「あー………」
腕を組んで、ペッて吐き出すかのように言う巨乳さん(腕で胸が強調されている)。
初めて見るあたしにとっては圧巻な風景であっても、ここに居た彼女にとっては何も無さ過ぎる退屈な風景なのだろう。
そりゃあうら若き乙女にこんな所に閉じこもっていろというのは酷な事に違いない。グレたりもする。
『ここでずぅっと我1人で食い物ばぁっか作らされてんだよ。それも気が遠くなるくらいずっとだぜ? ったく、イヤにもなるさ』
「え、一人で?!」
『親父がやらかしちゃってさ、前任者をどうこうしちまって、まぁ娘として我も断りにくい状況でさ。そうじゃなきゃこんな下らない事なんてやんねーよ』
「下らない……?」
『だってそうだろ? 顔も碌に知らねーやつのために食い物作るとか下らねーよ』
え、下らないってこの巨乳本気で言ってんの?
「下らない事言ってるのはあなたよ!」
『あぁん?!』
「生きるのに必要な事って何?!」
『はぁ? いきなり何言って……そりゃあ寝たり食った……り』
「そう、生きるということは食すということ……ということは」
そう、つまり。
「生殺与奪の権利を握っているのよ!!!」
『なん………だと………ッ!!』
「それでも下らないっていうの?!」
『あっ、あっ、あっ、あっ、あっ』
彼女にとってその事は驚天動地の大事件だったのだろう。
実際天が驚き地が動いているかのようにっていうか実際動いているというか、巨乳さんの制御が動揺で滅茶苦茶になって空中でぐるんぐるんしてるんですが!
「ちょおおお、さすがに厳しいんですがあああっ!!」
『あ、すまぬ』
うう、ちゃんと地面に下ろしてくれたんだけど、世界が回ってぎもぢわるひ。ジェットコースターから降りた時みたいだ。
『しかし、この我がなぁ』
くふ、くふふふ、とちょっとアレな笑い方をしたと思ったら、突然何かポーズを決めはじめた。
左手で顔を隠し、指の間から自分の右手をわなわなと見るような、ちょっと痛々しい感じで。
『それが………世界の選択だったというわけか………フフッ』
案の定痛々しいセリフを言った。
あ、あるぇ?
『フッ、思えばオマエがここに来るのは必然だったということなのか』
「え、まじで」
『オマエはわが魂の半身、ならば惹かれあうは当然……ッ』
どこかアニメとかで見たことがあるような、今度は跪きながら右手を後ろ後方にピンと伸ばすポーズをする。
うん、都子あれ知ってる。中二病って言うんだ。
誰かどうしてこうなったか教えてください(切実)。
『さぁ、魅せようではないか! 我が力を! 我が至高の舞を! 否! これは
大きく手を広げたかと思えば、先ほどまで踊っていた舞いを再び舞い始めた。
物凄いアレンジしながら。
えーっと………なんだか巨乳さんの身体から黄金のオーラのようなものが溢れてるんですが、さっきまであったっけ?
先ほどまでは、何かを育て慈しむかのような舞いだった。
今回もその点では一緒だ。
明らかに違うところは、彼女の背後から小さな芽がでたと思ったらどんどん大きくなって、首が痛くなるほど見上げてもてっぺんが見えないくらい巨大になった。そして、たくさん桃にも似た美味しそうな(重要)果実をつけている。
あたしの知る限り、都会にあるどのビルよりも大きいんですけど。なんかこれ凄い事起こってない?
ゲームとかアニメでよくある世界樹って多分こんな感じなんじゃないかな?
『ケェン………』
「わ、びっくりした」
隣にいきなり見失ったきな子が湧いた。
きな子だけじゃなく、他にも、え? どこにこんなにいたの? って位のたくさんの狐が集まってきており、その全員の目が驚愕に見開いている。
中には、これから何が起こるの? て感じでおびえてる子もいる。
皆感情豊かなのねー。ちなみに朱色のスカーフをしているのはきな子だけの模様。
『なんじゃ、稲生り共も集まって来たのか。いや、我の偉業を称えに来たとなれば当然か』
カッカッカッと高笑いする巨乳さん。
そもそも稲生りって何ぞ? きな子たちのこと?
「それにしても、この木すっごいね。さっきから凄い凄いしかいってないけど、ほんと他になんて言っていいかわかんないや」
『そうであろう。ぶっちゃけ我もびっくり……ってかさっき何か変にはっちゃけちゃってさ、思い返すと恥ずかしいから、その……忘れてくんない?』
「あは、あははははははっ!」
『ちょ、てめぇ笑うんじゃねぇよ!』
あはは、と2人顔を見合わせて笑いあう。
『我はウカだ。オマエの名は?』
「みやこ。宮路都子だよ」
『そっか、ミヤコ。オマエは変わった奴だな』
「そうかな? 普通だと思うけど。よろしくね、ウカちゃん」
『ウカちゃん……ちゃん?』
「ダメ?」
『いや、いい。なんだか新鮮だ』
柔らかな笑みを浮かべて手を伸ばしてくるウカちゃん。
それを取ってあたしも握手。
『で、ミヤコはなんでここに来たんだ?』
「えーっとね」
きな子を追いかけてたら、たまたまここに迷い込んだ事を話す。
『うーん、迷い子ってやつか? おい、稲生り共、ミヤコを送ってやれ』
『ケェーン!』
きな子が一歩前に出て遠吠えのように鳴く。
すると、身体がもやのようになっていく何とも言えない感覚に陥る。
ちょっと待って!
そういやあたしがここに来ようと思ったのって、晶をどうにかしたいって思ったからじゃないっけ!?
まだ何にも出来てないし聞けてないし、なんかここから消えそうな感じだし、あぁぁあぁ、もうぅ!!!!
「ウカちゃん! また会える?!」
『……ッ!?』
ウカちゃんは、心底驚いたといった顔をしたかと思うと、泣きそうな顔になり、今にも零れそうな涙を溜めて返事をしてくれた。
『わ、我は! 宇気比を! 再びミヤコと相見えたら我が権能をっー……』
え~~?! なんか期待してたセリフと違う!!
「あたし達友達になったんじゃなかったのーっ?!」
『え、我は、そんな、ちが、そんなつもりじゃッ!!』
こうして、あたしの意識は暗く沈んでいった。
◇ ◇ ◇ ◇
「はっ! 真っ暗だ!」
気付けば、神社の鳥居の前に居た。いつの間にか日は沈んでおり、月が出ている。
今夜は半月、上弦の月。それが既に西の空にあるってことは……沈むのが日付変わるあたりだとして、すでに夕飯は終えてるような時間じゃないかな?!
これは由々しき事態である。
そう、昼食と夕食を逃した疑いがあるのだ。
たかが1食や2食なんて思うかもしれない。
だが考えても見てほしい。
人生において健康的に食事を出来る機会がどれほどあるのかを。
もっと踏み込んで言おう。
朝もしっかり食べた後、昼に背油チャッチャされたこってりラーメンを食べ、夜には油で揚げたとんかつをソースたっぷりで食べる。
これを健康とか体重とか胃もたれとか気にせず食べられるなんて、いわゆる青春時代だけなんじゃないかな?! やったね青春! 美味しいよ!
なんてアホな事を考えたりしたけれど、まぁ時刻を気にしたらお腹が空いてきちゃったのだ。
早く帰って、それから何かつまむか夕飯の残りでもありつかないと明日に響く。
とはいえ、あたしの体感ではウカちゃんと会ってた時間なんて精々1時間に満たない感じなんだけどね。
むしろ戻ってきたら夜になってて戸惑ってるし、お腹が空いたってのは本当だけれども。
帰ったら何か食べるものがあるかなぁって思いながら家の近くにまでくると、晶にばったりと出会った。
「あ、あきら」
「み、みや……っ?!」
家におばさんがいるにも関わらず、今日の晶の恰好はジャージ姿である。よくおばさんが許したね(意味闇)?
しかもいつもは手入れされてつやさらロングの髪の毛もかなりほつれたりしていてぐちゃぐちゃだ。ジャージもどこか泥だらけになっている。
「み、みやこちゃあああんんんんっ!!!!」
ガシッと、目に涙を浮かべてあたしが尻もち付くほどの勢いでタックルしてきた。お尻痛いんですけど!!
家に近い道端で押し倒されあたしの上でギャン泣きされるとか恥ずかしいを通り越して困惑するんですが!!
一体何がどうなってんの?!
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