第14話 つかさちゃんの悩み
今回の中間テストは金曜から始まり、日曜を挟んで火曜まで、1日2科目ずつ計8科目行われる。
そして本日は火曜日。試験勉強は昨日から始めたばかり。
…………あれ? 結構状況的にやばい?
「暗記モノはある程度諦めよう」
そう言った晶の方針で、試験日の近いものから中心にやっていくことになった。
放課後までお昼休みも含めた休み時間毎に、あたしの机に3人集まっては勉強を進めていく。
正直授業と授業の間の休み時間までやることはないんだけどね、5分しかないんだし。
ただ、あたしたちが集まっていると時折好奇な視線を投げかけられてるのがわかったから、人避けの意味はあったんだと思う。
「うぅ、客寄せパンダになった気分だわ」
そうぼやくのは、あたし達の前でだけヅカモードを解除するようになったつかさちゃん。
気を抜くとちょっとした動作もオネエっぽくなってしまうのだとか。
晶はというと、どこか納得行かないと言った顔でお弁当をつついてたりしてた。
だがしかし、客寄せパンダというけれど、あたし的にはパンダよりオカピの方が見てみたい。
足だけ縞々とか、絶対シマウマとの合いの子だと思ってたのに実は全然そんなことなくて、しかもウマじゃなくてキリンの仲間っていうか、生きた化石で実はキリンの祖先の種だなんてどれだけ属性積み上げればいいの!? これは是非とも生で会いたい(使命感)。
放課後、下校時刻になって門が閉まるまでの間は図書室に移動してやることになった。
さすがにテスト前なのか、あたし達と同じように考えて勉強をしている人は多く、席は満席状態。
それでも話し声などほとんど聞こえないので、ここならあきらとつかさちゃんにわざわざ話しかけてくるような人はいないはず。
こうして下校時刻になるまでのおよそ2時間、がっつりと勉強したのであった。
「あ゛~づがれ゛だ~」
勉強漬けからの開放感からか、思わず声が漏れる。気分は出涸らしのお茶っ葉。
出涸らしになったからお役ごめんというわけでなく、消臭剤や洗剤としての第二の茶葉生があるところが、この後帰ってからも勉強しなきゃいけないところが余計にそう思わせる。
そんな陰鬱な気分のまま、下駄箱で靴を履き替えた。
「テスト前くらい頑張らないと。今日は結構はかどったんじゃない?」
くたくたになっているあたしとは対照的に、つかさちゃんはまだまだ元気が余ってる感じだ。
晶はあたしと同じような表情をしているけれど、あれはきっと家に帰ったらおばさんに何着せられるか憂鬱になってる顔に違いない。
「そういえばつかさちゃん、何か困ったこととかなかった? オネエ以外で」
「そうだね………服とか食べる量とか変わったけど、そこまで困ったことじゃないし」
「ボクはそこが一大事だったけど」
何か考え込むようなしぐさをして、あたしと晶をじっと見つめる。
「特に無いかな、これはこれで面白いし」
「そうなの?」
「そうだね。いや、むしろ男でしか出来ないこととかやってみたいし、逆に楽しみかな」
「あはは、前向きだね」
そういえば男の子じゃないと出来ないことってなんだろう? 立ちショ………いやいやいや、中身つかさちゃんがそんなことしちゃダメだ! ていうかつかさちゃんじゃなくてもダメ、絶対!
昨日晶が言っていたけれど、やっぱりつかさちゃんは逞しいな、なんて思ったりする。
「あぁ、一つだけ困った事があった」
「え、なになに? あたしでよかったら力になるよ」
そう言って鞄を持っていないほうのあたしの手を、いつものように芝居がかった優雅な動作で取ったと思うと、もう片方の手は頬に添えて息がかかるくらいの距離まで近付けてくる。
流れるような一連の動作で、思わず自分のことながら他人事のように目に映り、思わず感心すらしてしまう。
「可愛い女の子を見ると、ドキドキが止まらなくなってしまうんだ」
一体どこの貴公子かよと突っ込みたくなるような歯の浮く台詞を言いながら見つめてくる。
だがそんな仕草や言葉も、今の王子様然としたつかさちゃんがやると見事な様になっていて、なるほど、これが演劇部女子の心を鷲掴みにしたヅカモードかぁ、などと感心してしまう。
ふと。つかさちゃんの目を見ていると。
どこかで感じたような、言い様の無い暗いものが胸を過ぎる。
…………え、なにこれ?
「近過ぎ。離れて」
「おっと」
「あきら」
晶がまるであたしを庇うかの様に強引に間に割って入ってきて、拒絶するかのようにつかさちゃんを押し退ける。
今までしたことのない、こんな攻撃的とも言える行動に面食らってしまった。
「どうしたの?」
「今の2人、何も知らない人が見たらどう思うか考えて」
「…………あー、なるほど?」
つかさちゃんの中身が女の子だとしても、傍から見ればイケメンがガサツ喪女に迫ってる図だ。うん、自分でガサツ喪女とかいってちょっとダメージくる。
「私としては勘違いされてもいいんだけどね」
「江崎さんだけの問題じゃない」
「じゃあ、学校でならいい?」
「それも控えた方が」
「今までは似たようなことしても文句言わなかったのに?」
「前は女だったでしょ」
どこか剣呑な空気で言い合う晶とつかさちゃん。
その様子は傍から見てみれば、咎めるかのように詰め寄る小柄な美少女に、それを飄々と柳に風と受け流すイケメンの図という修羅場。
何も知らない人が見れば、まるで浮気が見つかって開き直る彼氏を追及する彼女といった風に見えるかもしれない。
なるほど、これはパッと見の風聞がよろしくない。
例えば甘味処の席について、それはもう美味しそうな抹茶パフェが出されたとする。
メインは目にも柔らかいイメージを与える鮮やかな黄緑をした抹茶色のアイスクリームにホイップ。
その抹茶独特の苦味も優しく包み込む上品な甘さの大納言小豆の粒餡。
そしてもっちりとした食感が楽しい白玉が、箸休めに食べてねと主張している。
見るからに美味を約束されている甘味を口に運んだら、実は抹茶じゃなくてわさびだったとしたら?
口の中に広がる天にも昇れそうなまでの甘さを期待したら、鼻の奥底にまで突き抜ける辛味が暴力的に駆け抜けていくんだから、そりゃあ色んな意味を込めて滂沱の涙を流してしまう。
うん、あれだ。
「体裁は大事だよね」
思わずわさびを連想して鼻の奥がツンとなって、喋った言葉は鼻声になってしまった。
急にそんな声を出すものだから、2人とも何事かと驚いてあたしの方を向く。
うん、なんだか真剣に話していたところに、抹茶を食べようとしてわさび味だったときの事を想像していたとか言えない。
やがて晶はふぅ、と一つため息をついて肩の力を抜き、つかさちゃんはやれやれって感じで肩を竦めてる。
なんだよぅ、もぅ。
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