第5話 買い物に行こう!

 本日は快晴、お買い物日和である。

 学校をわざわざ休んでたりするので、ちょっぴり罪悪感があったりもする。

 しかし平日の朝寝坊は大変よろしゅうございました。えっへっへ。


 あたしの格好はスキニージーンズに七部袖の大き目のシャツ、それとスニーカー。動きやすさ重視です。

 一方晶は随分可愛らしいデザインのニットに、これまた可愛らしいフリルのスカートを穿かされてた。しかもミニ。

 うん、穿かされてた。あたしの母の手によって。


 ていうかそれあたしのお古? そんなの持ってたっけ?

 中学上がる前後で急に背が伸びたから、一度しか袖を通してないとかそういうのかも知れない。


 ちなみに相当恥ずかしいみたいで、膝を合わせてもじもじしてる。その仕草はとても女の子っぽい。

 うん。

 可愛いと思うよ? でもあれだ。小学生のお嬢ちゃんかあいいでちゅねーおばちゃん飴ちゃん持ってるの食べる? な方向性。まぁそもそも、そういう年代に買ったものだしね。

 あたしも着ろと言われたら抵抗する。というか当時抵抗したから着なかったのかもしれない。

 ……心の中で合掌しとこう。尊い。


「うぅ、これ今にもパンツ見えそうなんだけど」

「まぁ実際気をつけないと、落し物拾おうとしゃがんだりすると後ろから見えちゃうねー」

「そういうものなのか……」

「女の子っぽい所作心がけたら案外大丈夫だよ。まぁ練習だと思って頑張ればいいんじゃない」


 と、母の言葉をそのまま言ってみる。

 実際、短いスカートとか女子力育成ギプス的なものだと思ってる。

 その母はスカートを抵抗する晶に対し、学校の制服はスカートだよ練習だよと、洗脳もとい言い含めていた。あれは半分面白がっていたに違いない。

 だってわかる。あたし娘だもん。


 そうしてやってきたのは地方都市ならよくある駅前のショッピングモールである。

 目指すはそこにある下着専門店だ。いわゆるフィッターさんとか専門に図ってくれる人がいるところ。

 実はあたしもそういうこと行くのは初めてだったりする。普段大型スーパーの下着売り場の適当な奴で済ませてるからね。

 …………それもこれも、小学生の頃からまったくサイズ変わらないから………おのれ………


「え……ほんとにここ入るの……?」

「入るよ。ほら、やっぱそういうデリケートな事は専門家に聞いたほうがいいじゃん?」

「それは……そうだけど」

「ほらほら、あたしも一緒に行くし。入った入った。」


 これはネットとかでもよく聞く話である。


 『量販店とかで適当な安物を着けていたけれど、実際ちゃんとしたところで測ったらカップサイズが2上がりました!』


 密かに期待するの致し方ないものだろう。

 晶は顔を真っ赤にしながらおねーさまに翻弄されているのが見える。

 きっと晶も今、色々なものと戦っているに違いない。

 あたしだって戦いなのだ。


 さぁ、いざ!!



 ……



 …………



 ……………あ、そうですか



 ………………え、あたしに合うのはこれ?



 ……………………



 …………………いやいやいや、これって



 ……………………



 ……………………まじ?


 

 ………………………………………



 …………………………………………………………



 AAっしたーっ!!!!! くそがーーーーっ!!!!!


 今までAだと思ってたよ……下がってるよ……

 一足先に店を出て項垂れる。

 スマホで『育乳』と打ち込み検索かけるかどうか葛藤する。

 小さくてもいいんじゃないか? このサイズはむしろ逆にいいんじゃないか? いややっぱり小さすぎないか?

 頭の中で乳という単語と共に牛がダンスを踊りながらぐるぐるする。

 ……ミルクプリン食べたくなってきた。


「終わったよ……」


 げっそりと焦燥した晶が戻ってきた。精神的にかなり削られたのだろう。

 激戦を終え真っ白に燃え尽きそうなボクサーのオーラを出している。


「買えた?」

「うん、なんとかね。3セットあれば大丈夫だと思う」

「ちなみにサイズどんなだった?」

「……D65」


 Dカップですかそうですか……


「…………そっか」

「え、なに、みやこちゃん、その悟り開けそうな慈愛の目は……」



  ◇  ◇  ◇  ◇



 次にやってきたのは上のフロアにある某百均店。

 ちょっとお洒落なものが多く取り揃えてると(主婦の間で)有名なところだ。

 もちろん情報源は母上様である。


「細々したものはここで揃えましょ」

「何がいるのか思い浮かばないんだけど……現状、雑貨類は事足りてるし」

「何言ってるの。手鏡とかブラシとか髪留めとか持ってる? あと昨日とかお風呂上りにケアとかしてた?」

「それは……そうだけど……要るかなぁ?」

「いるよー。せっかく可愛いんだから、そのへんもしっかりしなきゃもったいないよ」

「……っ!」


 一気に顔を赤くする。そういうところ可愛いよ晶むふふ。

 にやにやしながら目で愛でてあげよう。視姦ともいう。


「ここだと細々したものも一気に買えちゃうし……あと結構安上りだし」


 大型薬局とか行ったらもっと安くていいものもあるかもしれないけれど、色んなもの一気に買えるから百均だ。

 お店をはしごとかめんどくさひ。


「化粧品もあるしねー。いくつか試しに揃えてみる?」

「……みやこちゃんも、お化粧とかしたりするの?」


 ……なんて答えたものか。

 乾燥肌なところがあるから、精々お母さんに勧められてお風呂上りに保湿してる程度だ。

 色々と細かいことを聞かれて答えられるほど女子力は高くない。ていうか多分晶のほうが高い。


 だが! しかし!


 今のあたしは女の子の先輩なのである!


「た、たまぁに……ね?」


 そう、見栄をはってしまった。


「普段学校行った時とか、休日どこか出掛ける時とか化粧してるの見たことないんだけど?」

「……そ、それは、そのあれだ。あきらの知らないところで!」

「…………ふぅん」

「お、乙女には秘密があるものなのだよ、うん」

「…………」

「…………」

「…………誰に見せたの?」

「……っ!」


 ……怖っ!

 え、なにこの視線。こんな目の晶とか初めて見たんだけど!

 うう……なんかすごく背筋がぞくぞくする……っ。


「……見せるような相手いたの?」

「……いや、その」

「…………」

「すんません、見栄はってました…………」

「そっか」


 ええー……なにその打って変わっていい笑顔……

 あたしのなけなしのプライドはズタズタだよぅ……


「ね、みやこちゃん?」

「……はい、なんでせう……?」

「いまこんなボクだけど、可愛い方が嬉しい?」


 んー?

 もしかして可愛い恰好とかするのに抵抗あるのかな?

 似合うと思うんだけどなー?

 元が男の子だからかなー?

 あたしは背も高いし、可愛いってのは縁が無くて憧れたりするんだよね。


「そうだね、可愛いってのは憧れがあるね」

「……そっか」


 あれです。

 可愛いは正義です。

 雑貨類は可愛いものを推しまくろう。

 あ、今の晶の表情可愛いよ?



  ◇  ◇  ◇  ◇



「さて、次は服だね」

「リユースショップ?」


 やって来たのは衣料品から家具家電おもちゃと幅広く手掛けているリサイクルショップの某チェーン店。郊外にあるから少々歩いたけれど、車とかでやってくることを想定されているのか、売り場面積は大きい。店が大きいってことは、取り扱っている種類も大きいに違いないの精神でやってきた。


「そそ。一から揃えるとなったらねー。生活費貰ってるだろうけれどさ、予期せぬ出費ってやつじゃない?」

「そうだね……今日だけでも結構使ってるから」

「あたしの服貸せたらよかったんだけどねー。以前は背も一緒くらいだったのに、今は20cm近く違うしさー」

「みやこちゃんと同じ格好か……」

「かぶるのもなんかイヤでしょ?」

「別に嫌じゃ……あ、でも……うん……そうだね」


 P102台という広さをアピールする駐車場は、平日だというのに半分近く埋まっていた。

 その駐車場の広さにふさわしい規模の店舗のおよそ4割ほどがアパレルコーナーになる。

 まぁ一部季節感の無いものやカバンや財布、アクセサリーで特設コーナーがあったりするけれど。

 それでも男性向けより女性向けの方が広い。


「なんか混沌としてるね……みやこちゃんはよく来るの?」

「んー、つかさちゃんとたまぁにね」

「……へぇ」


 ちなみに中学の頃に2~3回来ただけである。

 あの頃は、そう……服に興味があるというより、奇抜な物とか珍しいものとかないかというそんな笑いをとれるかどうかを重要視して来ていた。

 ふふ、先輩だからね! 見栄張っちゃうのさ! 薄っぺらいメッキだけどね!


「ま、とにかく探そうよ。シャツとか上着とかパンツやらスカートやら種類別で置いてくれてるけど、デザイン的なとこは年齢考慮されてないからね」

「う……なんかそのへん探すのってセンスが問われるというかハードル高くない?」

「まぁその分安いからね。そこからおたからを発掘するのも、またオツなもんだよ」

「なんかみやこちゃんが女子っぽい」

「はっはっは」


 ※なお、つかさ女史の受け売りの模様。てへ。


 さてさて、あたしも一応覗いてみるのだが……うん。

 玉石混同。

 この言葉がぴったりだね!

 どこの創作マダムが着るの? なものから、これどこのコスプレ用品? まで幅が広い。もちろん誰もが一度は耳にしたようなちゃんとしたブランド品のあったりする。高いけど。

 これなら、根気よく探せばいいものが見つかるかもしれない。


 なのだけれども……


「Sサイズのものって案外ないものね」

「……どうせボクは男でも女でもチビですよ」

「べ、別に……そのね? ジュニアコーナーでもね……?」

「…………」

「……あはは」


 そう、いい感じのものがあったとしても自分に合うサイズかどうかは別なのである。

 世間からリサイクルに売られるもの、それすなわち平均的なサイズことMが最も多い。

 あたしはその平均より少し高い位だから、丈とか多少目をつぶればMでもいけるんだけど、余裕で150cm切ってそうな晶はそうはいかない。


「ね、みやこちゃん、これ」

「いいのあった?」

「うん。きっと似合うと思う」

「どれどれ」


 ほほぅ……

 ノースリーブやキャミの色気がある大人っぽい感じのワンピースとか、可愛らしいけどシックな落ち着いた色のレースやティアードのスカートか。

 なるほど。こういう……あたしからしたらちょっと背伸びした感じなのが好みなのか。


「…………」 

「…………」


 この期待する瞳。まさか。


「なるほど。あたしに似合うと?」

「うん。みやこちゃんスレンダーで大人っぽいから、そういうの似合うと思って」

「……ほうほう」

「………………」


 いやいやいやいや、そんな目で見られても!

 なんかその……普段着るのと傾向が違うというかね? 

 ……うん、ちょっと恥ずい……


「そのね? 今日はあきらの買い物だからね?」

「…………」

「あたしは別にいいかなーって?」

「…………」

「くっ……この近年稀に見ぬいい笑顔っ」


 結局、晶とお互いの服を選びあうなんて事になってしまった。

 うん、なんていうかね……自分が着るんじゃないんだって思うと大胆なもの選べるよね!

 テンションが上がってね、もうね、うっは、これ可愛いけどぜってー自分じゃ着ねー!

 なんてのとか色々発掘しちゃってね!

 まぁそれは相手にも言えたんだけどね!!

 お互い不毛なタンスの肥やしを作った気がしないでもない。


 それと。


「安物買いの銭失い、か……」

「……ボクも調子乗りすぎたと反省してる」


 そのことわざの意味がよくわかりました!

 きっとノリに任せて買っちゃったものの、同じように後悔した人が売ったに違いない。

 もしかしたらあたしも、ほとんど袖を通さずに売りに来るかもしれない。

 そんな少し悲しいサイクル。循環して儲かるのはリサイクルショップ。

 おのれ、かしこいな!!


 そんな益体もない事を考えながら無駄に大きな荷物を持ってお店を出ると、一人の男性とぶつかった。


「あぃたっ!」

「えっ?」


 やたら驚く男性は、多分あたしたちと同世代。

 身長はあたしより明らかに目線が高い。180cm近いんじゃないかな?

 その瞳は涼し気で切れ長で、鼻筋はくっきり通ってる。サラサラの赤茶けた髪はココアみたい。多分すっごくモテそう。

 ちなみにあたしにゃ見覚えがない。


「……みやこちゃん、知り合い?」


 胡乱げな目で彼を見ながら、晶があたしに聞いてきた。


「さ、さあ?」


 それよりあたしはミルクプリンとココアが食べたくなってきたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る