第9話 母親

☆(長住隼人)サイド☆


呆れた。

何がといえば桜の浮気相手だ。

なんだアイツは。

ストーカーじみて気持ちが悪い。

考えながら俺は桜を見る。

桜は俺を見ながら自嘲した。


「馬鹿だね。私も大概。あんな人だって思わなかった。本当に馬鹿だった」

「大概はこういう奴はクソ野郎ばかりだろうな。俺はそう思うが」

「そうだね。リスクがありすぎたかな。反省.....すべきなんだろうね」

「まあそうだな。仕方がない話だ」


桜の部屋。

俺は桜のベッドに座りながら両肘を抱えて丸まる桜を見る。

桜は「本当に.....どうかしてるよ。私は」と涙を浮かべる。

そんな言葉に俺は目線だけ向けてから「今から変われば良いさ」と返事した。


「隼人はお気楽だね。私がまた裏切ったらどうするの」

「逆に聞くがお前はそんな優作みたいにカスいのか?無いだろ?」

「確かにそうだけど.....」

「俺はお前を信じる。多分大丈夫だろ」


そんな言葉を発しながら俺は笑みを浮かべる。

それから俺は桜の頭をゆっくり撫でる。

桜は項垂れた顔を上げる。

そして俺を見ながら苦笑する。

俺はその顔を柔和に見ながら桜の頭から手を離す。


「世界はまだまだ広いから。お前は大丈夫だ」

「うん。.....だけど私は.....」

「私は無理な人間とか言いたいのか?」

「そうだよ。私は.....最低な真似ばかりしているから。馬鹿だからまた.....裏切るかもよ」

「それはまあお前次第だよ。頑張れ」


そして俺は桜の頭をまた撫でた。

桜はその手を掴んだ。

それから頬に手を添える。

(え?)とふと思いながら俺は真っ赤になる。

そして汗をかいた。


「隼人の手。暖かいよ」

「お、お前。恥ずかしいよ」

「あはは。そうだね。まあ私にはそんな気とかは無いけど」


桜は手を離した。

それから俺を見てくる。

「ねえ。隼人。私は貴方に春に向いてほしいって思う」と向いてきた。

俺は桜を「?」を浮かべて見る。

そして笑顔を見せる桜。


「春を愛してあげて」

「桜.....」

「私は春となら隼人は幸せになれるって思う」

「お前.....」


桜は微笑む。

俺はその姿に「?」を浮かべる。

それから俺は桜をもう一度見てみる。

桜は「もう一度言うけど私はアホだからね」と言いながらまた眉を顰めてから立ち上がる。


「それに私は」

「?」

「.....過去が色々あったしね」

「確かにな。学習塾教師から冷遇されてたしな」

「冷遇ってか人間が歪んだね。私が全部悪いんだけどね」

「そんな訳あるか。お前は頑張った。頑張って無いのは塾の講師だ」


その言葉に沈黙する桜。

それから唇を噛んで俺をそのまま見てくる桜。

そして「そうだね」と返事をした。

俺はその姿を見ながら「悔しいかもしれない。恨むべき事が沢山あるかもしれない。だけどきっと何かを掴めるよ。この先な」と返事した。

桜はその言葉に「隼人.....」と反応する。


「お前が悪の化身にならなければ勝ちだ」

「.....そうだね。悪魔にならなければ勝ちだね。気を.....つけるよ」

「だな。頑張れ」


それから俺を桜は見てくる。

そしてハッとした感じで反応する。

今更だが俺をどこに入れているか分かった様だ。

俺はその様子に俺自身もハッとして「すまん。お前の自室でずっと話してたな」と話す。

すると桜は「ううん」と笑顔になった。


「ありがとう。色々と配慮してくれて」

「気にするな。すまない」

「私は問題ない。隼人がこんな汚らしい部屋にどう思ったかだよ」

「別にどうも思わない。綺麗だよこの部屋は。本当にな」

「.....うん。そう言ってもらえると嬉しい。掃除した甲斐があったね」


そう話しながら桜は笑みを浮かべる。

それから「隼人」と言葉を発する。

そしてこう言ってきた。

「貴方は優しい。だからこそ」

その言葉は昔、俺の母親が話していた言葉と同じものだった。

俺はそんな言葉に驚きながら唾を飲みこみ笑みを浮かべ「お前は母親みたいだな」と告げる。


「母親.....あ。もしかして隼人のお母さん.....」

「そうだな。母親に似てる」

「そっか。有難う。似てるって言われたのが嬉しいかも」

「そうか?良いのかな」

「私は隼人を救いたい思いが.....あったから」


俺はその言葉に見開きながら元の顔に戻る。

それから黒目を横にする。

そして「そうか」と回答した。

桜は大きく頷く。


「もう過去は忘れようって言ったのは隼人だよ。だから隼人も忘れよう。それから未来を見ようよ」

「.....そうだな。分かった」

「私だけはずるいよ。隼人」

「.....」


それから桜を見る俺。

桜は俺を真っ直ぐに折れない心で見つめていた。

俺はその様子に急にむず痒くなる。

そして「見つめるなよ」と恥じらう。


「隼人。私は今日から決意を見せたい」

「決意って何だ?」

「私は隼人と呼ばない。お兄ちゃんに戻すよ。だって私達は恋人じゃないから。良いよね?」

「あ、ああ。構わないが.....」

「じゃあお兄ちゃんで。.....有難う。付き合ってくれて」


そして俺は桜の決意を見てからその場を後にした。

頑張ってる。

もがいている。

そんな事が伺い知れた。


「頑張るか。俺も」 


そんな言葉を発しながら俺は自室に戻る。

それからアルバムを手に取った。

母親との思い出か。

そんな事を考えながらだ。

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