第154話 邪魔者対策会議
「――ということなんだが」
徹頭徹尾話し終えるまで、フランは真剣な眼差しで俺の話を聞いていた。
「なるほど。リクスくんと私達を退学に追い込む計画を、誰かが立てていて、その果たし状が届いたと。そういうわけですね?」
「うん」
「えーと、それのどの辺りが、私達に関係の無い事案だと思ったんですか?」
「うぐっ……それを掘り返すのは勘弁してくれ」
「冗談ですよ、すいません」
意趣返しだろうか? クスクスと笑うフランに、俺は頭が上がらないでいた。
「それにしても、なかなか過激なことを考える方々ですね。これは、全員と意見を交える必要がありそうです」
フランは真面目な表情になって、そう言った。
かくして、座学勉強会後半の予定は、邪魔者対策会議の時間へと洒落込んだのである。
――。
「――以上が、リクスくんに届いた果たし状の詳細です」
休憩から戻ったあと、詳細を知っているフランを中心に会議が始まった。
まずは情報共有。
フランが一通り説明を終え、全員が置かれている状況を理解したわけだ。まあ、そこまではいいのだが――
「なに、この状況」
長机をぐるりと取り囲むように全員が座り、俯き加減に肘を突いている。
大きな窓から差し込む陽光を遮るようにカーテンが閉められ、室内全体は燭台に置かれたろうそくの怪しげな明かりだけで照らされていた。
「リクス。物事を進めるにおいて、もっとも大事なことは何かわかるかい?」
戸惑う俺に、サルムが厳かな調子で問いかけてくる。
「え? なに?」
「雰囲気作りだよ」
「……悪い。それ今、一番いらないやつじゃね?」
「そんなことはないさ。まず形から入るということは、その物事に打ち込む姿勢を作るということ。そして、外堀から隙間なく埋めていくことと同義。だから、大事なことなのさ」
「……うん。言ってることは無駄に説得力あるのに、状況の説得力がまったくないな」
もうどうにでもなれと、俺はそう思った。
「しかし、由々しき事態ですわね」
フランの話した事の詳細を頭の中で整理していたらしいサリィが、不意に呟いた。
「ん。我々への宣戦布告と捉えていい」
シエンもノリノリらしく、声のトーンを低くして頷いた。
「ワタクシ達を退学させようとする勢力。その数は未知数で、やり方も陰湿。正直厄介ですわね」
「僕達に退学作戦を仕掛けて来るのは、期末試験。そこで何かしらの小細工を撃ってくると見て良いのかな」
「兄さんの見立て通りでしょうね。実力でリクスくんやサリィさんを排除するなど愚の骨頂。であれば、所詮小心者で小者な彼等は、学校のシステムを逆手に取ると見て然るべきです。例えば、わざとカンニングさせて退学させるとか」
「フランさんの考えに賛同しますわ。所詮その程度のことしかできない、モブ以下のミジンコ達ですから」
うーわ、めちゃめちゃ貶すじゃんこの人達。
まあ、先に仕掛けてきたのは向こうだから、同情はしないけど。
「となると、テスト中の妨害で何をされるか、それを中心に考えて対策を取るべきですわね」
「「「異議無し」」」
会議参加者達の声がハモる。
そして、それに置いていかれる俺。
「はい、サリィ議長!」
「? どうしたんですのマクラ書記」
え。いつの間に役職決まってたの? もしかしてアドリブ? え?
戸惑う俺をよそに書記マクラは意見を述べ始めた。
「相手が仕掛けて来るタイミングと、試験妨害の内容に予測を立てることはできるけど、誰が仕掛けて来るのかわからないことにはどうしようもないのでは?」
「それは――」
「それについては僕がなんとかしよう」
ニヤリと、暗闇に映える白い歯を僅かに見せ、シエンが割って入った。
「し、シエン特別審査長官殿!」
「あなたに任せて、本当によろしくて?」
「ふっ、仔細ない。彼等の標的であるこのメンバーの中で、マクラ書記を除き僕だけが学生じゃない。つまり、そもそも試験を受けない。その状況を逆手に取る」
シエンの言葉に、会議室が「おぉ……!」という感嘆のどよめきで包まれる。
「流石は特別審査長官。頼りにしていますね!」
「それは僕の台詞。あくまでメインの標的はリクス。いつなんとき、何が起きても対応できるよう目を光らせるのは、リクス親衛隊親衛隊長である君の仕事だよ。フラン」
「もちろん! リクスさんには指一本、口から吐き出した二酸化炭素分子一つ、触れさせません!」
いや怖いよ、親衛隊長! 過剰防衛だよ!!
「それでは、我等が王であるリクスさんとワタクシ達が退学の危機を乗り切り、身の程を知らぬ愚者共を返り討ちにするにはどうすればいいか、その具体的なプランの考案に移りますわ。進行は報復法研究所所長、サルム研究長にお任せします」
「どうも」
どこから取り出したのか、分厚いレンズの入った伊達メガネをかけたサルムが礼をした。
かくして、状況についていけない俺を置き去りにしたまま、会議はつつがなく進行し――一時間ほどで終了したのだった。
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