第151話 休日だろうと安定で寝坊します

 翌々日の日曜日。


 午前九時半。俺は、友人と学校で待ち合わせて、サリィの家へ向かって歩き始めていた――なんてことはなく。




「うわぁあああああああああああああああああ!! 寝坊したぁああああああああああああああああ!!」




 休日で混雑している王都の繁華街を全力疾走で駆け抜けながら、俺はギャアギャアと叫んでいた。


 


「あら? あの子って」「ああ、いつも朝方叫びながら全力疾走していく子だな」「でも今日は休日だし……もしかして、デートにでも遅刻しそうなのかしら」「ふふっ、青春ねぇ」




 なんか周りの反応聞いてる感じ、俺は遅刻魔として王都の人間の印象に定着しているらしい。




「解せぬ! 最近は一週間に2、3回しか寝坊しないのに!」


『十分多いって』


「じゃかあしい!! 布団が俺を温もりの時間から解放してくれないのが悪いんだ!!」


『はぁ……その怠け癖はまだ治りそうもないね』




 いつものように、胸元で揺れるペンダントの中にいるマクラと言い争いをしながら、俺は学校へ向かった。




――。




「あ、来た」


「10分遅れですよ、リクスさん」


「ん。リクス遅い。待ちくたびれた」




 正門前には、もうサルム達3人と。




「お待ちしておりましたわ、リクスさん」




 サリィが、すぐ側に留まっているコーチ馬車の客席から顔を出した。


 貴族のわりには主張控えめの、平服といった感じのドレスだが、それでも一際目立つドレスを着ている。




 貴族というのは大変だ。


 プライベートでも体面を保つ必要があるのだから。そんな風に、装飾たっぷりの豪華な馬車を見て思った。




 ここからは、ルーグレット伯爵家の馬車に乗り込んで伯爵邸へ向かうのだ。




「ごめんみんな。遅刻しちゃって」


「いいですよ。なんというか、もう慣れっこですから」


「ウチの学校随一の遅刻魔だしね」


 


 苦笑しつつ言うフランに、サルムが首肯する。




「リクスって遅刻魔なんだ。なんかすぐ想像つく」


「お、おい。お前まで……まあいいけど」




 シエンにまでボロクソ言われたことで、俺は思わず肩を落とした。


 だが、こればっかりは俺が悪いので反論などできるはずもない。


 そのとき、俺の顔をじっと見ていたサリィが、に気付いて問いかけてきた。




「リクスさん。目元に隈ができてますわよ。もしかして、昨日の夜そんなに寝てないんじゃ……」


「え? ああ、まあね。テスト勉強で」




 あははと笑って、俺は誤魔化した。


 確かにテスト勉強をしていたが、それだけじゃない。


 どうせゲームでもしていたんだろと思われそうだが、たぶん人生初だ。24時間の間で一秒もゲームに触れていない一日を送ったのは。




 昨日、俺は対策を練っていた。


 あの果たし状から、大切な人達を守る方法を。




「そうですの。流石ですわね」




 そう言って微笑んだサリィは、「そろそろ出発しましょう。皆さん乗ってくださいまし」と俺達に馬車への搭乗を促した。




『……ほんとに、言わなくて良いの。昨日の手紙のこと』


「ああ」




 ペンダントの中から念話で話しかけてくるマクラに、小声で答える。


 彼女にだけは手紙の内容を伝えて、打開策を練ることに付き合って貰っているのだ。




「これは俺の問題だ。俺がフラン達を巻き込んだ。なら、こいつらに責任はない。俺がなんとかすべきことだ」




 そう。これは、俺が買った喧嘩だ。


 フラン達はただの被害者。ただでさえ巻き込んでしまった俺が、これ以上彼女たちの平穏を乱すようなことをしてはいけない。




『ふーん。まあ、筋は通ってるよね』




 マクラは平坦な口調で言ったあと、声のトーンを落として『でもさ』と言葉を切った。




『それって、でしょ?』


「? それってどういう――」




 意味深なマクラの台詞に、俺は問い返したそのとき。




「リクスくん、どうしたんですか? 早く乗ってください」




 いつの間にか、俺以外の全員は既にコーチ馬車に乗り込んでいたらしく、外で立ち尽くしていた俺にフランが声をかけてきた。


 


「ご、ごめん!」




 俺は慌てて思考を打ち切り、コーチ馬車に乗り込むのだった。

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