第141話 同級生からの評価

 翌々日。


 六日ぶりに学校に登校した俺は、敷地内を歩いている中で、いつもと違う違和感を感じていた。


 しかし、周りの反応からして大体の想像はつく。




「ねぇ、聞いた? リクスくんが《選抜魔剣術大会》で優勝したって話」「聞いた聞いた。一年生なのに凄いよね」「副騎士団長エレンも参加してたのに、それを差し置いて優勝しちゃうって……凄すぎない?」「少なくともエレン先輩よりは強いことが確定してるわけだもんね」「いやぁ~ん。お嫁に貰ってくれないかしらぁん」「妾めかけでもいいから、なんとかして玉の輿を……じゅるり」




 ――なんか、後半変な単語が聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう、うん。


 肉食獣のような目を向けてくる一部の女子生徒から逃れるように、俺は早足で教室へと向かった。




「おはよう――」




 ドアを開け、教室に入った瞬間。




「お、来た! 我等が期待の星の凱旋がいせんだぞ!」「きゃー! こっち向いてリクスく~ん!」「昨日聞いたぞ! 大会で優勝したんだってな!」「流石、勇者より強いとか言われてるリクスくんですね!」「賞金何に使うの?」「フェザー勲章貰ったんでしょ? 見せてよ!」




 もの凄い勢いで、クラスメイト達が寄ってきた。


 なるほど。やはり、昨日のうちに俺が優勝したという情報が入っていたようである。


 祝われるというのは、嬉しいな。嬉しいが、しかし――




「あの……ちょっとみんな。押さないで……!」




 詰め寄ってくる同級生達に、壁際へと追いやられる俺。


 なおも同級生達の追求は留まらず、同級生と壁の間に挟まれ、プレスされていく。




「ちょ、ストップストップ! ぐえっ!」




 まずい。このままでは押し潰される。


 戦々恐々としつつ、この状況から逃れる術を探していると――




 パーンと頭上で光と音が咲いた。


 あれは……主に味方への指示だしや、撤退時の信号で使う非殺傷系の火属性魔法――“ファイア・ワークス”だ。


 桃色の炎が頭上で花開いたことで、意識がそちらに集約され、半ば暴動と化していた同級生達の動きが止まる。


 


「はいはい、そこまでですわ」




 かつんと靴音を鳴らし、1人の少女が同級生達の塊の中に足を踏み入れた。


 自然と道を空けた同級生達の間を縫って俺の前へと現れたのは、サリィだった。


 彼女は軽く俺に目配せすると、生徒達の方を振り返り、




「まったく。リクスさんが困っているでしょう? 何か話したいことがあるなら、後で順番に来てくださいまし」




 そう言って、サリィは俺の前に、バリケードのように立ち塞がった。




「確かにな、すまん」「少しばかり興奮しすぎていましたわ」「ごめんねリクスくん、悪気はなかったんだ」「また後で、大会の様子を聞かせてくれよ」




 サリィの発言で我に返ったのか、生徒の波が引いていく。




「助かったよサリィ、ありがとう」


「礼なんて要りませんわ。ワタクシは今まで、リクスさんに散々助けられてきましたもの」




 照れ隠しをするかのように小さく鼻を鳴らすサリィ。


 俺は思わず口元をほころばせ――




「ちっ。ちょっと強いからって調子に乗りやがって」




 不意に、そんな台詞が耳に届いた。


 見やれば、窓際にいる数人の男女が俺に敵意を向けていた。


 今呟いたのは、ポケットに手を突っ込んでいる、鼻にピアスをつけた不良じみた見た目の少年だ。




「それな。アイツ、絶対自分のこと主役だと思ってるだろ」




 それに同調するのは、ボサボサの白髪で制服を着崩した少女だ。


 いや、そりゃまあ俺はこの物語の主人公だし――っと、これはメタ発言だからやめておこう。




「勇者の弟なんだから強いに決まってるよ。いいよねぇ、才能のある人は。ほんとムカつく」




 そう吐き捨てたのは、ボーイッシュな見た目をした小柄の女子生徒だ。




「ちょっと。あんまりそんなこと言うべきじゃないって」




 あたふたと彼等をなだめるのは、そばかすに丸めがねで、見るからに地味な見た目の少年。


 全員が全員、Sクラスの生徒である。


 まあ、彼等の言い分もわからなくはない。


 強すぎる光には、憧れと同時に嫉妬も抱く。


 俺のであるシエンがそうであったように、打算抜きで隣にいてくれる人というのは、それだけで貴重なのだ。




 だから俺も、サリィやサルム、フラン、シエン、マクラ。それに姉さんなど、一緒にいて楽しい人は大切にしなきゃいけない。


 俺はそんなことを思い、頬を綻ばせるのだった。




 ――しかし、このときの俺はまだ知らない。


 この平穏な日常が、とある人物達の暴走によってかき乱されるということを。

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