第139話 絶望の宣告
「あれ、フラン。俺の家なんで知ってるの?」
「朝待ち合わせする位置から逆算して、この辺りだろうなって。あとは表の表札とか、お屋敷の大きさとかで」
「なるほど……うわっとと」
少しふらついて、慌ててバランスをとる。
「だ、大丈夫ですか? そういえば汗もすごいですし……もしかして、風邪ですか?」
「いや。昨日の決勝で身体を酷使した反動が来てるだけ。だから気にしなくていいよ。それより、ここで話すのもなんだし、とりあえず入りなよ」
「いや、流石にそれは恐れ多い気が……お、お邪魔していいんですか?」
「もちろん」
「ありがとうごあいます。じゃあ、お言葉に甘えて」
そう言って、フランは恐縮そうにはにかんだ。
身体にしがみついている姉さんも特に文句を言っていないから、入れても問題ないだろう。
フランを自宅のリビングに招き入れ、1人がけ用のソファに座らせると、俺はテーブルを挟んで向かいの少し広いソファに腰掛けた。
相変わらず姉さんがしがみついてるから、広めのソファでないと座れないのである。
「それで。今日は何しに来てくれたの?」
「それはもちろん。リクスさんの優勝祝いをしにきました」
「耳が早いな」
驚いた。
だって、表彰式が終わってまだ一日も経っていない。しかも大会があったのは隣の国だ。
情報が回るのが、あまりにも早すぎる。
「そこはほら。通信用の宝石で。昨日の夜に、サリィさんから連絡がきたので」
「抜け目ないな」
「まあ、言われずともリクスさんの勝利は確信していましたけどね」
「それはちょっと買いかぶりじゃ」
「その通りよぉ。リクスちゃんが優勝するのは、確定事項だものぉ」
今まで黙っていた姉さんが、急に話に割り込んできた。
「姉さん……友人の前で恥ずかしいし、向こうに行っててくれない? あとは紅茶用意するとかさ……」
「嫌だ嫌だ! ここのところ任務ばっかりだったしぃ、リクスちゃんは二日間も遠くに行っちゃうしぃ、リクスちゃんの体調が心配だしぃ! 離れたくない!」
「年甲斐もなくダダこね始めたよこの人」
正味、18歳で弟にしがみついてバタバタ暴れる姉というのも、絵面がキツい気がするのだが……そんなことを言った日には、《
ていうか、俺が正論を言っているこの事態が既に稀なのでは?
「ごめんなフラン。ウチの生徒会長のだらしないとこ見せて」
「ううん、大丈夫です。リクスくんにだけ甘いのは知っていましたし……まあ、普段とのギャップが激しすぎて目眩がしてきますけど」
フランは苦笑いしながらも、受け入れてくれた。
「とにかく、「おめでとう」って言うためだけにこんな場所まで来てくれて、ありがとうな」
「いえ、当然ですよ。といっても、用事はそれだけじゃないんですが」
「それだけじゃない?」
「はい。間もなく行われる、学校行事についての情報を届けに来ました」
「学校行事?」
俺は、少し首を傾げ――そしてある違和感に気付いた。
「うん? そういえば今日って、平日だよね。なんでフランが、この時間にウチにいるの?」
そう。
今日は夕方まで授業があってしかるべきはず。
なのに、昼下がりの今ここにいる理由は、どうしてだろうか?
「今日から二週間、午前授業で終わりなんです」
「……学園祭か何かの準備期間、とか?」
「惜しい!」
惜しいのか。
だとすると、音楽祭とか、運動会とか、そんな感じだろうか――
「二週間後に、期末テストが行われるんです」
「全然惜しくないだろ! てか、掠ってもいないわ!」
俺は思わずそうツッコミを入れてしまった。
期末テスト。聞く限り、学校で習ったことを試され、成績を下される試験のことだ。
これはマズい。非常にマズい。
実技はなんとかなるだろうが、問題は筆記試験のほうだ。
授業のノートはとってないし、教科書は置き勉しているから、自宅で予習復習もやっていない。
授業中はしょっちゅう居眠りをしてしまい、フランに起こされる始末。
つまり――俺は、座学の知識が全く頭に入っていないのである。
あと二週間で、なんとかなるものだろうか。
もういっそ、赤点を覚悟して、勉強を諦めて二週間遊びまくった方が合理的なんじゃなかろうか?
そんなことを考えていた俺に、容赦なく鉄槌が下る。
「ちなみに、赤点をとったら夏休みの宿題3倍+補習らしいです」
「なん……だと!?」
俺は、無慈悲なる死刑宣告に目を剥いた。
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