第135話 騒がしい祝勝会
《リクス視点》
――その後。
落下していったエリスは、メルファント帝国の剣士団にて回収された。
なんでも、人体の構造が変遷していたからか、地中10メートル近くめり込みながらも奇跡的に生きていたんだとか。
ただし、俺とシエンにボッコボコにされていたから、ほぼ死にかけだったという。
帝国が誇る大監獄に収監され、現在は集中治療を受けているとのことだった。
そんなわけで、一件落着。
俺は、皆が待つ《メルファント・ベース》へと帰還したのだが、それからが大変だった。
一時的に避難していた観客達が戻ってきており、騒がしいウィニングロードができあがっていたのだ。
ゴタゴタですっかり忘れていたが、俺は今大会の優勝者。
しかも、突如として現れたエリスまで倒したわけで――それはもう、大変な騒ぎで出迎えられたのだった。
俺は既に疲れ切っており、胴上げだの優勝コメントだのうざったらしくて仕方が無かったのだが、甘んじて受け入れていた。
そんなこんなで、メダル授与と大会優勝者用の「フェザー勲章」が授与され、日が沈む頃に大会はお開きとなった。
ああ、これでやっと静かになる。
そう思った俺だったのだが……
「――どうして、こんなことに」
俺は瞼をひくつかせて、辺りを見まわした。
ここは、一際豪華なパーティルームだった。
煌びやかなシャンデリアに、美しいワインレッドの絨毯。王侯貴族御用達といった雰囲気の、あまりにも場違いな場所。
昨日留まったホテルと比べても遜色ないどころか、上回っているほどの絢爛さだ。
「ふ。どうだ、余の別荘は。気に入って貰えたなら、ゆっくりくつろいでいくといい。はっはっは!」
俺の右斜め前に座っているリーシスが、得意げに答え、グラスの酒を一気に呷る。
ここは、第三皇女である彼女のお屋敷らしい。そりゃ、豪華なわけである。
ていうか、豪華すぎて落ち着かねぇ。ゆっくりできねぇ。
ていうかそれ以前に。
「あの……そろそろ寝させてくれませんかね」
俺は、耐えきれずにそう言った。
「ひっく。なぁにしけたこと言ってるんだい弟くん! ウチらの夜はこれからじゃないか!」
「そうですわ~リクス様! リクス様は今宵の主役。まだまだ盛り上がって行きますわよ~! あ、そこのメイド! シャンパンもう一杯くださいまし!」
エレン先輩とサリィが、肩を組んで踊りながら答える。
二人とも顔が真っ赤で足下もおぼつかない。サリィのグラスにシャンパンを注ぎに来たメイドが、あたふたとしている。
今宵は無礼講。
俺の優勝を讃えて、飲めや騒げの大騒ぎ。
俺の願いなどちっとも聞いてくれる雰囲気がなく、周りが勝手に盛り上がってしまっているのだった。
「で。お前はお酒飲まないんだな」
「! ……」
俺の隣で、チビチビとソーダを飲んでいたマクラが、ビクリと肩を振るわせる。
が、まだ怒っているらしく、耳まで真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
俺は思わずため息をついて、数多の後ろを掻く。
酔っ払いが蔓延っている現状、彼女だけが頼りなのだが……これではどうすることもできない。
どうしたものかと悩んでいると、俺の隣にサリィがやって来た。
「あー。マクラさんのことはそっとしといてくださいまし? これは秘密なんですが、二日酔いで潰れた自分を懐抱してくれたことに感謝してるけど、喧嘩の真っ最中だからどう接すればいいかわからなくなって――」
「わぁあああああああ!!」
急にマクラがイスを倒して立ち上がり、サリィの口を塞ぐ。
「な、ななな、なんで秘密をバラすんですかサリィさぁん!」
顔を真っ赤にして、早口でまくし立てるマクラ。
彼女は俺の方をキッと睨むと、
「別にご主人様のことはまだ許してないからね! 私が二日酔いで苦しんでるのを懐抱して、好感度回復させようって魂胆が丸わかりなんだから!!」
「お、おう……? よくわかんないけど、その分ならもう二日酔いは大丈夫そうだな。心配だったから、よかった」
「なっ……!」
元々真っ赤だったマクラの顔が、沸騰する勢いでより赤くなっていく。
「ご……」
「ご?」
「ご主人様のばかぁああああああああああっ!」
「えぇっ!? 心配しただけなのに理不尽! てかグラス投げんな!! 危ないしあと、優勝賞金で弁償とか御免だからなぁあああああああああ!」
ガシャン、バキッ、ドグシャァッ!
手当たり次第に食器やらグラスやらを投げてくる(王族の私物だから絶対高額)マクラから逃げるように、俺はパーティルームを飛び出した。
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