第130話 聖魔剣を宿す意味
「ハァ、ハァ……クソッ!」
荒い息を吐きながら、満身創痍のエリスは膝を突く。
爆発の威力はゼロで、なおかつ魔力だけを放出してしまった彼女は、中途半端に生き残り、無力化されていた。
「ありがと、シエン。助かった」
「! べ、別に……僕だけ助けられたっていうのも、癪に障るだけ」
ぷいっと、シエンはそっぽを向く。
なぜだかわからないが、耳まで真っ赤にしている。
俺、なんか怒らせることしただろうか?
俺は首を傾げつつ、今はエリスを捕らえるのが先だと思い、エリスの方へ近寄った。
「悪いけど、ここまでだ。散々悪いことやってくれたみたいだし、大人しくお縄について貰うよ」
「くっ……!」
エリスは、憎々しげに表情を歪めて、俺を睨む。
「悪いけどね、坊や。私が命令を聞くのは、あの方だけなのよ」
「あの方って、さっきから言ってるけど誰なんだ?」
「決まっているでしょう。我等が盟主にしてこの世を統べる未来の王。《
瞬間、眩い光が当たりを包んだ。
一瞬、彼女の攻撃かと思ったが、違う。これはただの目眩ましだ。
「ちっ」
俺は思わず舌打ちをする。
光が収まったとき、案の定その場にエリスはいなかった。
全く以て往生際が悪い。
「あいつ……一体どこに」
「り、リクス! あそこ」
不意にシエンが声を上げる。
彼女が指さす方向は、抜けるような青空。
見れば、なけなしの魔力を振り絞って飛んで逃げている。
「どうしよう。せっかくここまで追い詰めたのに……!」
悔しげに歯噛みするシエン。
俺は、そんな彼女の肩にぽんと手を置いた。
「大丈夫。まだ、追いつける」
「え……?」
きょとんと首を傾げるシエンに微笑みかけ、俺は左手に携えた聖魔剣に意識を集中する。
《
それは――この聖魔剣が、紛れもなく“俺の所有物である”という点だ。
本来、聖剣や魔剣の主は、根本的にはその力を担う最上位天使や最上位悪魔に帰属する。
使用者はあくまで、最上位の存在から権能の一部を“借り受けている”と言えるのだ。
だからこそ、権能の出力には上限が存在する。
人の身のまま、人を越えた力を行使できるギリギリのラインを保つためのストッパーが。
しかし。
聖剣と魔剣の力が複雑に混ざり合い、全く新しい一振りに生まれ変わった聖魔剣は、その枷から解き放たれている。
つまり、力の上限がなく、人を越えないようにするためのストッパーが存在しない。
紛れもなく、この聖魔剣の主は俺なのである……みたいだ。(みたいだといのは、あくまで脳内に流れてきた説明を流し読みしているからであり、根本的に理解していないがゆえの反応である)。
言い換えれば、俺はこの聖魔剣を顕現しているときのみ、俺自身が人智を越えた存在となっている……らしい。
つまり――今の俺は、人間の制約から解き放たれている……無論、生殖機能は無くなり、睡眠や食事も必要無い……ってなにぃ!?
却下だそんなもん!
見た感じこの聖魔剣を起動し続けることで、事実上の不老不死になれるみたいだけど、それより食事と睡眠がとれなくなるっていうのはいただけない!
人間の三大欲求なめんじゃねぇぞ!
というわけで、これが終わったらしばし封印だな。
俺は人を越えたいわけじゃない。寝て、食べて、ゲームして。それから、大切な人達と楽しく過ごせればそれでいいのだ。
だから、今だけ。
その大切な日常を守るために、人間の制約から解き放たれるとしよう。
「“
直後、俺の背中からメキメキと音が鳴り響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます