第116話 人智を越えた権能の衝突

 白黒に色褪せた世界では、時間の理が俺に味方する。


 後の反動が怖いが、逆に言えばそれだけだ。




 時間に干渉する魔法は、基本全て超級以上。


 加えて、時間を僅かに遅らせるなど、些末な変化が精一杯だ。


 制限時間や、それ相応の反動がついて回ることは自明の理。




 固有魔法であっても、おそらく時間を止めることや巻き戻すことは不可能だ。


 それが、人間という枠組みの限界。


 だから、その人間の枠組みの中で起動した“時間加速タイム・アクセル”で慢心するのは、愚かだったのかもしれない。




 モノトーンで統一された世界で、シエンの唇が言葉を紡ぐ。




「――時、我に味方せよ“――」




 刹那、ブゥンと音がして、シエンを中心に世界の色が塗り替えられた。


 モノクロから凍えるような紫色へ。


 そして、俺の身体の動きが鈍った。


 


 鈍った? ……いや、違う。これは。




「俺の時間が、遅くなった!?」




 “時間加速タイム・アクセル”の時間加速はまだきっていない。


 なのに、まるで権能をきったあとの反動で、俺の時間だけがゆっくりと流れるように、おれの身体が重くなったのだ。




「まさか……俺の支配する時間ルールを、上書きした!?」




 流石に、時間に特化した《魔剣》というわけではないため、時間を自由自在に操れるということはないのだろう。


 けれど、相手が使っているのは人智を越えた力だ。




 人間如きが操る時間干渉魔法よりも遙かに性能が上なのである。


 


 そして――時間がシエンだけに味方するようになった世界では、俺の放った四つの極大魔法のスピードは落ちる。




「ちっ!」




 分が悪いと悟った俺は、即座に“時間加速タイム・アクセル”をやめた。


 その瞬間、時間を加速させていた反動がのしかかる。


 ただでさえ鈍い身体の動きが、更に鈍くなる。




 けれど、これ以上“時間加速タイム・アクセル”を使い続けるのは、後々の反動の時間も長くなり、自分の首を絞めるだけだと直感で判断したから、正しい選択のはずだ。




 自分以外の世界がコマ送りのように速く動く。


 シエンは、俺の放ったスローモーションの上級魔法四連発をあっさりと避け、俺めがけて迫り来る。




 早く……ッ! 




 俺は久々に感じる焦燥の中、奥歯を噛みしめる。


 凄まじい速度で迫るシエンを見据えながら、反動から回復する瞬間を渇望する。




 早く……ッ!




 紫色に揺らめく世界で、接近してきたシエンが、その手に携えた《聖剣》を振り抜き――眩い光が目の前を埋め尽くす。


 そして――




 ギッ、ギィイイイイイインッ!


 鋭い音が、ステージ中に木霊した。




 ――シエンは、僅かに目を細める。


 その瞳は、焦れったそうに俺を見据えていたが、そんなことに一々気を配る余裕は今の俺になった。




「っぶね! もう少しで上半身消し飛ぶとこだった!!」




 俺は冷や汗を流しつつそう呟いた。


 俺の周囲には、割れ砕けた魔力障壁の残骸があり。俺の手には、一振りの漆黒の剣が握られていて、シエンの《聖剣》を受け止めている。




 白と黒の光が、鍔迫り合いを起こし、余波がステージを舐めるように席巻する。




 マジで危なかった。


 “俺之世界オンリー・ワールド”で時間を稼ぎ、《聖剣》が俺を焼く時間をコンマ数秒遅らせていなければ、“時間加速タイム・アクセル”の回復と同時の《魔剣》での防御が間に合わなかっただろう。




 ただでさえ相手の《魔剣》の権能で、時間が相手に有利に働いているのだ。


 こちらの《怠惰魔剣ベルフェゴール》での防御も完璧とは言わず、防ぎきれなかった余波が身体に傷を刻む。


 が、致命傷ではない。




 改めて、相手がバケモノだと自覚するが……それがどうした。


 俺は、何があっても負けるわけにはいかないのだ。


 


 そう、俺には使命がある。


 賞金2000万エーンをゲットし、大量の貯金を切り崩して生活をするという使命が!!




 だから、負けるわけにはいかないのだ。



「さあ……まだまだやるぞ」



 俺は、普段なら絶対に言わない台詞で、継続の意思を示した。




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