第111話 シエンの目的は?
「はぁ……腹いっぱい。(いろんな意味で)」
食事を終えた俺は、一足早く《メルファンと・ベース》に戻っていた。
食事を終えると眠くなるのはご愛敬。
怠惰を司る俺としては、そのまま眠りたいところなのだが、そういうわけにもいかない。
俺は、TPOを弁えて行動できる男なのだ(どやっ)。
それはそうと、エレン先輩達は、3人でショッピングをしている。
決勝が始まるまでまだ時間があるというのも理由のひとつだろうが、それ以上に八つ当たりのヤケ食いの勢いのままに買い物に移った感じだ。
マクラはたぶんまだホテルで寝ている。
自分だけズルいぞこの野郎、と言ってやりたいが、そうなったのは俺のせいだとわからないほど俺も鈍くはない。
まあ、ヤケ酒で二日酔いになった原因が俺にあるとして、なんでご立腹なのかは未だによくわかっていないのだが。
ちなみに、マクラがチェックアウトの時間を無視して大会終了時刻まで籠もっていたことで、延長料金が発生し、俺は絶叫することになるのだが――それはまた別の話だ。
「はぁ、女子って怖い」
総じてそんな感想を抱きつつ、通路を進んでいたそのときだった。
「あら、あなたは……」
ふと、どこかで耳にした声を聞いて、俺は振り返る。
そこには、胸の大きいお姉さんが立っていた。
「あなたは……えっと」
「エリスよ。昨日ぶり、かしらね」
そうそう、我等がエリスお姉さんだ。
美人でメガネで巨乳で、お医者さん属性のエリスさんだ。
「決勝進出おめでとう。さっきの試合、格好良かったわよ」
「え? そうですかぁ~? あはは~」
そう言われると照れちゃいますね。
マクラがいないのをいいことに、デレデレしまくる俺の図。
「それはそうと、どう? 私の予想通りの展開になった形だけど、あの子に勝てそ?」
あの子、というとやはりシエンのことか。
エリスとシエンの関係がどういうものなのかよくわからないが、知り合いであることは明白だ。
「う~ん、よくわかんないですね。勝てるかもしれないし、負けるかもしれません。まあ、なるようにしかならないかな。それでも勝つのは俺ですけどね」
「あら。言うじゃない。貪欲な男の子は好きよ」
甘い声が耳をくすぐる。
思わず昇天しそうになるが、ここは我慢だ。
女性の「好き」は信用ならない、と親友のサルムから言われている。
ましてこのお姉さんとは、ほとんど会っていない。ここは調子に乗らず、冗談ということで流すのが、余裕のある男というものだろう。
「まあ、昨日シエンと話す機会があって、なんか本人は戦うのが嫌みたいなので……そこに勝機があるのかな? と」
この際、俺も戦うのが嫌だということは棚上げである。
「確かに、あの子はあれだけの才能を持ちながら、自分の力に否定的な面があるから……本当に、もったいない」
「じゃあ、なんで出場してるんですかね……」
「優勝して、お金を得る必要があるから、かしらねぇ」
ほう?
つまりそれは、俺と同じ理由ということか。
確かに、賞金2000万エーンというのは魅力的だ。
戦うのが嫌でも、ついつい引きよせられていく。その気持ちはわからなくはない。
少し気になることがあるとすれば、どうにもあの子はお金を欲しそうにしているとは思えなかった点だが……まあ、貪欲な子だと思われたくなかったんだろう。
俺は紳士だから、そういう機微な乙女心には触れないのだ。
「そういうことなら、俺も負けられないですね」
「ふふ。期待しているわ。英雄さん」
英雄、か。
面倒くさいことこの上ない称号だが、美女に言われると悪い気はしないな。
そんな現金なことを考えつつ、俺はエリスと別れる。
だから、気付かなかった。
「せいぜい、データ採集のコマになってちょうだい」と、彼女が嗜虐的な目で俺を見ていたことに。
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