第109話 セカンドラウンドの後で
《リクス視点》
「うわ……マジかよ」
試合結果を見て、俺は思わず呟いていた。
ドン引きもいいところだ。
聖剣と魔剣が両方使えるとか、反則だろそれは。
どう考えても戦力インフレしすぎ。
「これは……全力出しても勝てないんじゃね」
というのが、俺の正直な感想だった。
いやでも、ここまできて賞金2000万エーンをゲットできないのは辛すぎる。
それではせっかく面倒くさい大会で頑張った意味がないではないか。
「正直、痛いのは嫌なんだけどなぁ」
そう。
俺自身、働くことも嫌だが、痛いのも嫌なのである。
ここだけの話、誰にもバラしたことがないが注射も苦手だ。
勇者の弟が聞いて呆れるが、結局は子どもである。
まあ姉さんも苦い薬は苦手で、いちご味とかいうヤツ以外飲まないから、おあいこというものだ。
痛いのは苦手なのに、最近戦いまくってる気がするが、それは俺がそうしたいからしているだけの話である。
だって、ねぇ?
指先をちょっと切っただけで痛いのに、
怒るのも当然というものである。
「まあ、それでも全力でやるけどな」
俺は自分自身にそう言い聞かせる。
たぶんもう、みんな知っていると思うが、俺は我が儘だ。
寝ることと食べることとゲームすることが大好きで、学校も姉さんという天然目覚まし時計(LV.MAX)がいなければ平気で遅刻していく。
友達が理不尽に巻き込まれていたら、理由や因果にかかわらず介入して暴れ回るし、欲望に正直だ。
結局、誰よりも自由で、誰よりも身勝手な人間なんだろう。
けど、今更そんなことはどうだっていい。
俺はバカだから、難しいことはよくわからない。
ただ、自分が思ったことを、やりたいように実行するのみだ。
昨日、温泉で一瞬だけ垣間見たシエンという少女の愁いを含んだ表情。
あの裏に、どんな闇を抱えているのか、それはわからない。
ただ、相手が何を思ってこの大会で優勝しようとしているのだとしても、賞金は譲れない。
すべては、俺の安寧なる生活のために!
と、そんな決意を固めていると、不意に横から声をかけられた。
「貴様、いつまで呆けている?」
見ると、リーシス先輩が立っていた。
さっきまで、隣の座席に座って観戦していたのだが、今はイスから腰を浮かせている。
というか、考え事をしていて気付かなかったが、他の観客達もそれぞれ移動を開始していた。
「――午前の部はこれにて終了です。お昼休憩を挟んだ後、AブロックとBブロックの代表者による決勝戦を行います――」
という司会者のアナウンスが、繰り返し流れている。
「まあ、固まってしまう気持ちはわからなくはないがな。余も、聖剣と魔剣を両方見に宿した事例など、聞いたことがないし」
「その割には、なんだか落ち着いてません?」
「ん? 決まってるだろう。それでも貴様が勝つと信じているからだ」
リーシス先輩は、それが当然とでも言うように、そんなことを言った。
買いかぶりすぎだろう、と思う反面、俺は少し嬉しくもあった。
そんなに、俺の力を信じてくれて――
「というか、余に勝った貴様に優勝して貰わねば、余の面子が立たん。是が非でも優勝しろ」
「あ、はい。(理不尽だ)」
熱くなりかけた心が一瞬で冷めた。
「それはそうと、昼食を食べに行くぞ。昼休憩は二時間。十分に時間があるだろう」
そう言って、リーシス先輩はステージ上を見やる。
釣られて俺もそちらを見ると、未だ呆然とその場に立ち尽くしているエレン先輩とサリィの姿があった。
「彼女たちも、労ってやらねばならんだろう? 悔しい思いをしているだろうからな」
「そうですね」
かくして、俺達は連れだって昼食をとるべく動き出したのだった。
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