姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~
第107話 セカンドラウンド part.e
第107話 セカンドラウンド part.e
《三人称視点》
「一年生ズの……サリィだっけ」
「は、はい! なんでしょう」
「決してウチと攻撃の系統が被らないようにしつつ、畳みかけろ。いいね?」
エレンは手短に。
しかし的確にサリィへ指示を飛ばす。
一々理由を告げることはしない。
なぜなら、相手の権能の弱点に気付けていないほど、サリィがマヌケでないことを信頼しているからだ。
それが証拠に、サリィは短く返事をして、レイピアを携えて突撃をした。
「くっ」
苦々しげに表情を歪め、大気を鳴らす速度で飛び下がるシエン。
しかし、逃がさないとばかりにエレンとサリィが追いすがる。
「火魔よ、三方より
エレンの口から朗々と紡がれる呪文。
起動する魔法は、中級火属性魔法“トライアングル・ファイア”。
三つの火球がシエンを取り囲むように出現し、それぞれ標的を焼きつくさんと迫る。
が。
「――“炎、我より温く”――」
シエンが唱えたルールの改変が、ギリギリでこの世界に存在する炎の定義を塗り替える。
中級魔法の時点で摂氏数百度を超える炎の塊が、この瞬間ぬるま湯よりも温い温度まで低下する。
燃焼効果を失った炎は、シエンに届いた瞬間、彼女の全身を焼き尽くすことなく消滅していく。
が、それが通じなくても問題は無い。
(今までは得体の知れない力を前に攻めあぐねていたが、それが一番の悪手だとわかった。《
「サリィ!」
「お任せくださいですわ!」
エレンの意図を汲んで、サリィがレイピアを手に突撃する。
シエンは炎を無効化したばかりで、その対応に間に合わない。
「っ!」
シエンは仕方なく、魔剣でその一撃を受け流す。
権能を使わなくても、流石に魔剣なだけある。
魔力で強化しただけの少し高価なレイピアでは、傷一つ付かない。
――が。
(行ける!)
「土魔よ、大地の呪縛にて束縛せよ――“ガイア・バインド”」
ステージから土の蔦を生やし、シエンを束縛しつつエレンは不敵に笑う。
最も、相手とて“
王国騎士団の副団長の行使する魔法ともなれば、その強度は言わずもがな。
魔法で束縛を破壊せずに力技で束縛を解くことなど、普通は不可能なのだ。
が、束縛した瞬間から土の蔦にヒビが入っている時点で、相手の理不尽さがわかる。
権能も使わず、身体強化魔法と自身の力に物を言わせて、内側から強引に引きちぎっているのだ。
(なんてヤツ!)
エレンは歯噛みする。
が、これも言ってしまえば計画通り。
身動きをとれなくすることが目的ではない。ただ、数秒時間が欲しかっただけ。
「水を統べる海魔の王よ、我が声に応えよ、天を凍り付くす氷塊と化し給え――“アイス・フォール”!」
刹那、サリィの呪文が響き渡った。
そして、空が暗くなる。その原因は、太陽を遮るように巨大な氷の塊が出現したからだ。
上級水属性魔法、“アイス・フォール”。
今は懐かしき噛ませキャラだった、その後音信不通でどこにいるかわからないバルダが王都を消し飛ばすために使った魔法だ。
流石にドーピングして超級レベルに達していたあのときよりも氷塊のサイズは小さいが、あの時なにもできなかった悔しさから、密かにサリィが練習していたとっておきの上級魔法である。
ステージ全域を埋め尽くすほどの氷塊。当然、逃げ場などないし直撃すればただでは済まない。
「喰らいなさいな!」
サリィは氷塊に指示を出し、重力に任せて落下させる。
「くっ! ――“我、氷塊よりも硬く”――!」
シエンはそれに対処する。
いや、対処してしまう。
(かかったな)
エレンは、内心でほくそ笑んだ。
今、彼女の権能は、“アイス・フォール”への対策に使われている。
つまり、一回一回対象を変えなければ発動できない都合上、今、炎のルール改変は機能していないのだ。
わざと威力の弱い火属性魔法を放ち、それに対応させた上で、サリィに別属性魔法を撃って貰う。
それの対処で身動きがとれなくなったシエンへ、極大の火属性魔法をぶち込む腹づもりだったのだ。
「火を統べる陽魔の王よ、我が声に応えよ、
ありったけの魔力を込めて、エレンは上級魔法“フレア・カノン”を放つ。
火属性魔法は、言ってしまえばエレンの憧れ。
彼女の尊敬するエルザが持つ《
彼女の天賦の才も手伝って、その炎の密度は、超級魔法“インフェルノ”に届きそうなほどだった。
そんな、摂氏数千度に達する超高圧の炎が、シエンへと肉薄する。
そして――
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