姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~
第104話 セカンドラウンド part.b
第104話 セカンドラウンド part.b
《三人称視点》
攻防が止まる。
エレンとサリィの攻撃は、確かにシエンを捕らえたはずだった。
しかし、切っ先は虚空を穿っただけ。
当の本人は、いつの間にか間合いの遙か外へ外れている。
(瞬間移動……いや、違う。座標の移動が行われたとしたら、次元に僅かな湾曲が発生するはず)
自身の脳裏に湧いた疑問を、エレンは即座に否定する。
そもそも、瞬間移動の魔法など上級の転移魔法を凌ぐ超級クラスの代物だ。普通、予測に組み込む方がおかしい。
それを平然と思い浮かべてしまうくらい、目の前の相手は異質だった。
「くっ……得体がしれないな!」
エレンはすぐに硬直から抜け出し、シエンを攻める。
種はわからないが、とにかく戦いの中で見極めるしかない。
迅速で駆け抜け、瞬く間に両者の距離が詰まる。
微動だにしないシエンの胴体を薙ぐように、エレンは剣を振るう。
普通に考えれば、確実に入った攻撃。
今から回避行動をとっても、間に合わない。
なのに。
直後、エレンはシエンの口元が小さく動くのを目撃した。
「――“我、彼者より速く”――」
直後、ブンと音を立ててシエンの姿が霞む。
その半瞬後にエレンの剣がシエンの胴体を薙ぐ……が。
すかっと、刃が彼女の胴体をすり抜けた。
「! 残像か! なら、ヤツは一体何処に?」
剣を振り抜いた格好のまま、エレンは目を見開く。
そのとき、ぞくりと。
彼女の背筋を怖気が駆け上った。
「っ、まさか」
シエンは、エレンの背後にいた。
その手に持った禍々しい剣を無造作に振り上げ、紫炎色の凍える瞳をこちらへ向けている。
(ま、ず……!)
その瞬間。
「風を統べる天魔の王よ、我が声に応えよ、一陣の風となりて彼者を打ち据えよ――“ペネトレイト・テンペスト”!」
矢継ぎ早に呪文が紡がれる。
遅れて空白の時間から立ち直ったサリィが先読みで唱えていた上級の風属性魔法が完成したのだ。
見た目は”ウィンド・ブラスト”に似ているが、その威力は上級と言うだけあって桁違い。
直撃すればドラゴンすら地面に叩き落とすだろう渾身の一撃。
が。
シエンはちらりとその方角を一瞥し、指先を迫り来る突風へと向ける。
そして、指先から火の粉を発した。
“ファイア・ボール”などの初級魔法ですらない、魔力で生成したただの火の粉を。
当然、そんなものはろうそくに火を付けるくらいにしか役立たない。攻撃用の魔法ですらないのだ。
突風と激突する以前に、余波で掻き消されて終わり。
そうなるはずだ。それなのに。
「――“炎、風より高らかに”――」
シエンが、無表情で唄う。
瞬間、猛烈な風の戦鎚と、吹けば消えるような火の粉が衝突し――ドンッ! と音が鳴った。
そして、大爆発と共にステージが抉れ、容赦なく魔法が掻き消される。
火の粉がではなく、ステージ上を席巻していた暴風の方が。
「なんっ――!」
「そんな!?」
驚愕に見開くエレン達。
当然だ。周りにリクスやエルザなどといったバケモノがいるから忘れがちになるが、本来上級魔法は詠唱できるだけで学生としては一流。
それが、王国最難関と言われるラマンダルス王立英雄学校の卒業条件に組み込まれるくらいには対したことのある技なのだ。
それを、魔法ですらないただの火遊びで一蹴された。
一瞬エレンの思考が空白に染まる。
あまりにもバケモノすぎる。だが――
(落ち着け……)
途切れかけた思考を強引につなぎ止め、サリィが作ってくれたわずかな隙を利用して飛び下がる。
(一見無茶苦茶だけど、何か法則があるんだよね)
そう。
彼女が消える瞬間と、上級魔法を打ち消す瞬間。
シエンは何か呪文のようなものを唱えていた。
おそらくあれが。
(あの魔剣の権能……だとすれば、あの魔剣の能力は)
確信に至りつつあるエレンの視界から、シエンの姿が不意に消える。
「!?」
息を飲んだときには、既に彼女はエレンの目前にいた。
その手に漆黒の剣を携えて。
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