姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~
第103話 セカンドラウンド part.a
第103話 セカンドラウンド part.a
《三人称視点》
「さて! 本日二戦目、Bブロックの最終戦です。この戦いに勝利した者が、午後に行われる決勝戦へと進みます! まず入場しますは前対戦にてジャイアントキリングを成し遂げた疾風怒濤のお嬢さま、サリィ=ルーグレット選手!」
高らかに実況する女性の声と共に、開けたステージに立つサリィ。
「続いて入場しますは、現王国騎士団副団長を務める若き騎士、エレン=ミルーズ選手!」
歓声と共に、エレンはステージに上がった。
構図としては、円形のステージを三等分したそれぞれの頂点に立つイメージだ。
怒号にも似た歓声の中、しかし2人は浮き足立つ気持ちではいなかった。
2人の意識は、残りの一つの入場口に向けられていたからだ。
「最後に入場しますは、本大会のダークホース! 魔剣の使い手、シエン=マスカーク選手!」
喝采の中、まるでカラクリ仕掛けの人形のように、不自然に自然な動作で入場してくるシエン。
なまじ幼さが残る整った顔立ちをしているが故に、その無表情と、ハイライトの消えた目が精神に根ざす恐怖をかき立てる。
そして何より、シエンは2人を見ていない。
興味がない、端から眼中にないとでも言うように、ぼんやりとした目を蒼皿へ向けている。
それでも、舐め腐りやがって。などと逆上することはエレン達にはできなかった。
それが意図して舐められているのではなく、根本的に格が違うことを思い知らされたからだ。
(シエン=マスカーク、ね。学校のデータベースにも名前はないし、聞いたこともない。こんなバケモノが今までよく無名でいられたものだ)
エレンは、額から出る冷や汗を拭いつつ、心の中でそう呟く。
シエンの周りの弛緩しきった空気とは対照的に、エレンとサリィの周囲の空気はジリジリと焦がすように張り詰めていく。
その温度差が、まるで蜃気楼のように三射の間の空間をぐにゃりと歪める――そして。
「――それでは、セカンドラウンド、スタートです!」
戦いの火ぶたが切られた。
極限まで張り詰めた空気が、ここに来て爆発する。
まず相手の動きを観察する、なんて方法をエレン達はとらなかった。
それが、“常に剣を喉元に突きつけられた状態で待機する”ような極限の状況に耐えかね、反射的にとった行動だと、本人達が気付いていたかは定かではないが。
「はぁあああああああああああ!」
「やぁあああああああああああ!」
身体強化魔法でブーストした脚力で駆け抜ける。
その速度は迅速。
二方向から疾風のように迫る2人は、同時に刃を抜く。
ギラリと輝く、剣とレイピアの切っ先。
対してシエンは、あくまでただ突っ立ったまま、右手を無造作に掲げた。
その手に――一本の剣が現れる。
オレンジ色の禍々しいオーラを放つ、漆黒の剣が。
リクスのものとはオーラの色も違うし、剣の形も違う。
こちらの方がやや細身で刀身が長く、柄の先端に球体の意匠が施されているが、その漆黒の輝きを、見紛うはずがない。
(魔剣……!)
エレンは駆ける速度を緩めず、唇を噛む。
あの魔剣が放つ重圧は、紛れもなく本物であるということだ。
(くっ、少し偽物であることに期待していたんだけど……流石にそうは問屋が卸さないか!)
エレンは整った顔を歪めて歯噛みする。
たまにいるのだ。虎の威を借りるかのように、偽物の魔剣を作ってその場を凌ごうとする愚か者が。
だが、エレンにそんな小細工は通用しない。
明らかに存在値の違う最上位天使や悪魔の力を内包する本物の聖剣・魔剣は、一目見ただけで格の違いがわかるものだ。
そして、目の前にもその本物があった。
が、今更止まることなど出来ない。
エレンとサリィは、全力で引きしぼった腕を抜き放つ。
残像すら生み出す速度の一撃。その切っ先を肉眼で捉えたときには、既に本物の切っ先が胸に刺さっている。
そして――シエンは、その剣の動きに目線が追いついていない。
これで勝ったとは思わないが、少なくとも一撃は確実に入った。
そう2人が確信した瞬間。
何の前触れもなく、それこそ魔剣を振るうことすらせず、気付けばその場からシエンが消えていた。
いや、数十メートル横に立ち退いていた。
「……は」
思わずエレンの口から、マヌケな言葉が漏れた。
サリィも、事態がのみ込めていないのか、目を見開いて固まっている。
(今、この子は何をしたんだ?)
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