姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~
第97話 ファーストラウンド part.b
第97話 ファーストラウンド part.b
「さ、さいですか」
「ああ。最初のはほんの小手調べだからな。どのように対応するのか見せて貰った。初級魔法の連射は、確かに高難易度だがそれまでだ。俺達のような序列上位になれば、誰もが当たり前のようにやっていること。その点……お前は未知数だ」
アダムス先輩は、距離を測りながら言葉を続ける。
「中級魔法を平然と無詠唱でやってのける。一度、お前の姉――生徒会長に手合わせしていただいたことがあるが、そのときも同じようなことをしていた。となれば、上級魔法も無詠唱でやってのけるのだろう?」
「まあ」
「ふっ……隠しておけば、後の戦闘を有利に運べるかもしれないことを、あっさり明かすなんてな。だが、まあいい」
何がいいのかよくわからないが。
それよりも。
「いいんですか? なんかリーシス先輩が蚊帳の外なんですけど」
「ああ、構わない。言っただろ、お前の方が厄介な存在だ、と」
なるほど、そういうことか。
俺は、彼が一見無茶にも思える初撃を行った真意にたどり着いた。
言うなれば、これは俺とリーシス先輩の対応力テストだ。
彼が放った不意打ちに、どんな方法で対処するのか。
自分と同じ初級魔法の連射で対応したリーシス先輩と、自分にできない方法で対処した俺。
危険度で言えば、確かに俺の方を優先するかもしれない。
目を離せば、それが命取りになると踏んだのだろう。
逆に言えば、リーシス先輩は不意打ちにも対応できる可能性が残っている。
俺を優先的に狙う判断は悪くない。
ただ――
瞬間。
猛烈な突風が、横からたたき付けた。
「くっ!」
「っ!」
俺達は反射的に飛び下がり、互いに距離を取る。
その間を、暴風の槍がうねりを上げて通り過ぎていった。
攻撃の主は、当然リーシス先輩だ。
たぶん、密かに小声で魔法の詠唱をしていたのだろう。
彼女は少し離れた場所で、左手を突き出しながら言った。
「なるほど、いい判断だな。確かに余より、リクスの方が強い。それは、悔しいが認めてやる」
まだ勝負もついていないのに、公衆の面前で己のプライドすらかなぐり捨てて、彼女はそう告げた。
だが――
「だが、それが貴様となんの関係がある?」
心底つまらなそうに、彼女は吐き捨てる。
「貴様が余をないがしろにしようが、容赦なくその戦いに割って入るぞ? そして貴様をねじ伏せる」
「なるほど。元より三つ巴の戦いだ。混戦になるのは目に見えていた。が――一つ気になることがある」
アダムス先輩は、一呼吸置いて質問をぶつけた。
「お前は何をそんなにイライラしている?」
――いや、自分が蚊帳の外に置かれたからじゃないの?
天然ボケをかましてるのか、この先輩は。
そんな風に思った俺だったが。
「何を当たり前のことを聞いている」
リーシス先輩はわなわなと震えながら、喉が割れんばかりに叫んだ。
――俺の想像の斜め上を爆走する発言を。
「余とリクスの決戦デートを、邪魔するな!! 目障りなんだ貴様はぁ!!」
「ナッ!?」
「……はぁ?」
俺は思わず絶句し、アダムス先輩は眉根をよせた。
「いいか! 余は今日の日をずっと楽しみにしていたんだ! 今日という日が近づく度に心が疼いて、夜も眠れず、待ち焦がれていたというのに!! なぜ! こんな! 三つ巴の! 決戦に! なるんだ! おのれ……よくも余の愛の巣に土足で踏み込んだな!」
「あー……」
アダムス先輩はバツが悪そうに頭の後ろをかきつつ、俺の方を見てきた。
「もしかして、お前彼女と付き合って――」
「ません!!」
俺は全力で否定した。
ついでに言うと、第三皇女が「デート」だの「愛の巣」だのとんでもないことを叫んだお陰で、半ばパニックに陥っている観客席に向かって、「リーシス先輩の発言は、勝手に言ってるだけですから! 疚しいこととか、なんもありませんからぁあああああ!!」と思いっきり叫ぶ羽目になった。
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