第95話 大会二日目

 ――午前十時。


 開会式がついに幕を開けた。


 今日の試合はわずか三試合しか行われないため、必然的に開会式の時間は遅くなる。




 けれど、熱狂は段違いだった。


 昨日消化不良的な試合が続いた分、今日に期待を寄せている人が多いのだろう。


 そうでなくても、実力者中の実力者が集う(らしい)大会二日目は、例年大盛況とのことだった。




「さぁーて始まりました! 本日はAブロックとBブロックの最終試合、昼休憩を挟んで決勝戦が行われまぁーす!!」




 司会と思われるそばかすのある小柄の女性が、声を張り上げる。


 


「今年は異例中の異例! ラマンダルス王立英雄学校から出場の生徒が大半を占めますが、本校は昨年度、勇者であるエルザ=サーマル選手が優勝を飾っています! そういった意味でも、否応なく期待が高まるというもの! そして、唯一ワードワイド公立英雄学園から出場し、生き残ったシエン=マスカーク選手はどんな試合を見せてくれるのでしょうか! ファーストラウンドは開会式の後すぐでぇす!」




 軽いノリで開会式が進行していく。


 やがて、10分間の休憩に突入した。


 と言っても、それはトイレ休憩などをするためのものではない。




 開会式が終わってすぐにファーストラウンドが行われると言っていた通り、そのための準備期間だ。




 まず最初に試合が行われるのは、Aブロックの最終試合。


 つまり、俺も出なければいけないということである。




 一度控え室に戻り、剣の調子を軽く確かめてから通路を通ってステージへと向かった。


 通路の先に見える、ステージへの入り口がゆっくりと近づく。


 四角く切り取った入り口は、外からの光で満たされ、神々しくも見える雰囲気を演出していた。




――。




「おっ待たせしましたぁ! 本日最初の試合、Aブロック最終戦は三つ巴の決戦となります! 歴代最年少で『ロータス勲章』を受賞した神童、リクス=サーマル選手!」




 なんかめっちゃ恥ずかしい紹介と共に、俺はステージへ一歩踏み出す。


 俺の姿がステージ上に現れた瞬間、洪水のような歓声が沸いた。


 不本意ながら今まで衆目に曝されることは何度かあったわけだが、今回は別格に注目されているような気がする。




「そして次は、水魔法のスペシャリスト、《水龍》の異名を持つアダムス=アサルト選手!」




 左斜め前の入場口から、青いジャケットを身に纏ったアダムス先輩が出てくる。


 そのタカのように鋭い眼光は、“戦う者の目”であり、昨日女子達に振り回されてぶっ倒れていた人と同一人物とは思えない。




 確か、学内序列は9位だったか?


 ここでなんとなく察したかもしれないが、この大会、学内序列が高い者順に出場しているわけではない。




 上級生の中で下克上はしょっちゅうあるし、こういう大会に興味が無い者は棄権していたりもする。


 それは、17位のエルナ先輩が出場していて、かつ現時点で序列が更新されていないため、序列下位のサリィが打ち破ったことから、想像は容易いだろう。




 6位~8位が本大会に出場していないのは、興味が無かったり不登校だったりと、様々な理由があるのだ。




「そして最後は、メルファント帝国からの留学生としてラマンダルス王立英雄学校から出場中の第三皇女様、リーシス=ル=メルファントさ……選手!!」




 あ、いま流れで“様”って言おうとしたな?


 なんとなく気持ちはわからないでもない。


 俺からすれば、なんで皇女が大会に出てるんだよって感じだしな。




 昨日司会を担当した男性は、一回だけ「……え、皇女様!?」と実況中素で驚いていたし。




 だが本人は、そんな些末なことはどうでもいいと言っているような雰囲気だった。


 腕を組んで仁王立ちし、男勝りな表情で俺を見ている。


「ずっとこのときを待っていたぞ」と全身で語っていた。




なかなかサマになってるポーズだし、実際彼女もそれを意識しているんだろうが……いかんせん、組んだ腕が大きな胸を押し上げて強調してしまう形になっているため、なんとも目のやり場に困る。




 と、そんなことを考えていると。




「――では、これまでの戦いを勝ち抜いてきた本物の強者達による対決。ファーストラウンド、スタートでぇーす!!」




 拡声魔法に乗った女性の声が、高らかに響き渡る。


 激戦の幕は、切って落とされた。

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