第74話 出揃った本戦出場者達

「す、すげぇ……」「あの物量を、1人で制圧しやがった」




 避難をしていた生徒達は途中その足を止め、ずっと戦いを見守っていたが、脅威が去ったことを確認すると次第に騒ぎ出した。




「う~ん。ちょっと目立ちすぎたかな」




 そんなざわめきの中心にいる俺は、苦々しく表情を歪める。


 結局、魔剣まで使って実力を見せてしまった。テキトーに戦って、紙一重で負けるつもりだったのに……周囲に被害が出る前に速攻片付けようとしたため、結局本気を出してしまった。




 まあ、やらかしてしまったものはしょうがない。


 


「とりあえず、そそくさとここから撤収して……」




 そんなことを呟いていた、そのときだった。




「ねぇ」




 不意に後ろから声をかけられ、俺は振り返る。


 そこには、左腕にかすり傷を負ったクレメアが立っていた。


 うわーなんか、眉をひそめて不機嫌そうだし、また何か言われるのかな。




「なんだか、この場でこれを言うのも、丸くなったみたいで嫌なんだけどさ。一応、礼を言っとくわ。ありがと」


「は、はぁ……」




 まさか、この舌打ちお姉さんから素直にお礼を言われるとは思わなかった。


 俺は拍子抜けしてしまい、曖昧な返事をすることしかできない。


 と、そんな俺の心境に気付いたのか否か、クレメアは更に不機嫌そうな顔で「何よ」と言ってきた。




「いや……まさか先輩の口から舌打ちとは真逆の言葉が飛び出すとは、思わなかったから」


「な、何よそれ! あんた私のことなんだと思ってんの? チッ、本当に生意気な後輩ね」


「あ、それですそれ」




 指摘したらギロリと睨まれたので、速攻で口を噤んだ。




「はぁ……全く。一応、私だって感謝はするわよ。あんたが庇ってくれなきゃ、私は最悪死んでたかもしれないし。それに、私1人じゃ、このバカを止めることはできなかっただろうから」




 ぷいっとそっぽを向きながら、淡々と事務的に答えるクレメア。


 が、またもや不機嫌顔で俺之法を睨んできた。


 


「ちっ、感謝はしてるけど……余計に腹立たしくなったわ」


「……え」


「だって、要するに私達と戦ってるときは手を抜いてたってことでしょ。反撃の一つもしてこないから、おかしいと思った。チッ、本当に可愛げの無い後輩ね」




 言葉の後ろにまた舌打ちを入れたあと、クレメアは何かを諦めたようにため息をついて言った。




「まあ、いいわ。あの戦いを見ちゃったら、手を抜かれたことに文句なんて言えないし。もし本気のあんたと戦ったら、私なんて十秒も持たないでしょ。世の中には喧嘩を売っちゃ行けない相手がいる、それがわかっただけでも収穫だった」


「あの……参考までに、その喧嘩を売っちゃ行けない相手というのは……」


「は? あんたのことに決まってんでしょ?」




 あ、やっぱり?


 


「カッコ悪いけど、あんたと今後事を構えるなんてバカはしない。それに……あんたの活躍を面白くないと思ってる連中も、この勝負を見て同じ事を思うでしょ。おめでとう。あんたは、今後上級生に絡まれることはほぼなくなると思うわ」


「そ、それは何よりで……」




 俺は頬を引きつらせつつ答えた。


 なんだろう。このもやもやは。




 確かに、全校生徒の前でエキシビション・マッチをさせられると言われる前は、今後絡まれないようにボコボコにする気でいたが。


 その目的だけは果たせたのに、なんか釈然としない。




 「触らぬ神に祟り無し」的な考え方の、「神」とか思われてそうだ、俺。


 「世の中には決して触れてはいけない逆鱗がある。例えば、あのリクスとか……」みたいな感じで、今後ずっと先輩や同級生に噂されるんだろうか。


 そう考えると、嫌になった。




「……なんか疲れたんで、俺はこの辺で退場します」


「そりゃそうでしょ。あんな大それたことやって、疲れない方が――」


「いや、その後のことで疲れたんで」


「?」




 クエスチョンマークを頭に浮かべるクレメアへ、「とりあえずヨウって人の目が覚めたら、破壊したステージとかの後始末をやらせといてください。あ、あと昼飯代とクリーニング代! あとで徴収しますからね!!」と発言を残し、俺はそそくさとその場を去った。




――。




 その後。


 大破壊された第二円形闘技場は修理されるまで封鎖され、二年生の決勝大会は第四円形闘技場で行われることとなった。




 二日目、三日目の全日程を無事に終え、サリィは手堅く六戦全勝を収め、俺と同じく決勝大会への切符を手に入れた。




 いろいろ波乱も起こりつつ、今年本戦の《選抜魔剣術大会》へ進むメンバーは以下の通りとなった。




 一年部門 Sクラス(元Cクラス):サリィ=ルーグレット、Sクラス:アリオス=トロール


 二年部門 Sクラス:リーシス=ル=メルファント、Bクラス:エルナ=ラナッツ


 三年部門 Sクラス:クレメア=サテライト、Aクラス:アダムス=アサルト


 特別選抜枠 一年Sクラス(元Cクラス):リクス=サーマル、三年:エレン=ミルーズ




 以上8人が、一ヶ月後の本大会に出場することとなった。


 このうち、二年Bクラスのエルナ=ラナッツと三年Aクラスのアダムス=アサルト以外は、面識がある。




 クレメアとヨウに関しては、元々選抜枠の候補者として名を連ねていたため、普通のクラス内選抜は見送っていた。


 しかし、選抜枠の席が横から奪われてしまったこともあり、学校側は特例をヨウとクレメアに出した。


 それは、三年の代表者が学内決勝大会で決まったら、その者達に勝負を挑み、勝利した場合は席を奪うことができるというものだったようで。




 この学校、編入試験のときから思っていたが、割と容赦ない。


 英雄になるには理不尽と戦う実力が必要とか、そういう校訓でもあるんだろうか。




 とにかく、クレメアの方は手堅く勝利を収め、本選出場権を獲得。


 しかしヨウは、自分が暴走したことの落とし前をつけるために、この特例そのものを蹴って、辞退したらしい。




 割と知っている人だらけになってしまったが、これで8人が出そろったわけだが――




――。




「マジで……大会本番もトラブルとか、ごめんだからな俺は」


「……フラグ?」




 学内決勝が終わった日の夜。自室の布団の上でくつろいでいた俺に、横で本を読んでいたマクラが声をかけてくる。




「そんなわけあるか」


「ごめんごめん。でも、ご主人様ってなんでもかんでも面倒くさがる割に、いいことするからなぁ~。また、トラブルに巻き込まれて、不本意ながら誰かを助けちゃったりして」


「ははっ、そんな素晴らしい英雄の候補はウチの学校ならごまんといる。他を当たってくれ」




 俺は、「もう眠いから寝る」と言って、枕の中にぼすんと顔を埋めた。




 しかし、俺はまだ知らない。


 あっという間にやってくる一ヶ月後の本番。俺はまた、とんでもない事件に巻き込まれ――1人の少女の人生に大きく関わっていくことを。

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