第66話 1年Sクラス

 学校に着いた俺達は、Sクラスへ向かう。


 と、時間的にはかなりギリギリだったんだろう。


 入室した瞬間に、朝のSHRを始める鐘が鳴った。




「お、来たようだな」




 入室したとたん、イケボが出迎えた。


 教壇には、校茶色の髪の毛をボブカットにした、イケメン女教師が立っていた。




 一見美青年に見えるその人がなぜ女性だとわかったかと言うと、切れ長の翡翠ひすい色をした瞳に被るマツゲが長いのと、服の下から押し上げる豊かな双丘があったからだ。




 ふぅ、とその女教師は吐息を一つ漏らす。


 なんというか……吐息を漏らしただけなのに、フェロモンがダダ漏れだ。


 エロ格好いい大人の魅力ってやつだ。




 ふと教室内を見渡せば、男女ともに熱い視線が先生に向けられている。


 うん。ちょっと気持ちはわかる。




「さて。丁度全員、Sクラスの新たなメンバーが揃ったな」




 その先生は、背後を振り返りつつ言う。


 死角になっていて気付かなかったが、先生の背後にはサリィが立っていた。


 サリィは、朝の挨拶とばかりに小さく手を振ってきた。




「それでは各々自己紹介して貰う。まあ、先日の全校集会で知っているとは思うが……ああ、その前に私の名前を言っておかないとな。私はフレイア=ラトーナだ。年齢はトップシークレット。このSクラスの担任を務めている。あとは……そうだな。サルム以外がいたCクラスの担任、エーリンとは同期で、この学校の卒業生だ」




 うぇー。さらっととんでもない情報が出てきた。ん? 待てよ、じゃあ――




「つまり、エーリン先生の年齢を教えて貰えば、先生の年齢も判明するんじゃ――」


「ああそうだな、しかしそれをすればどうなるか……わかっているな?」


「あ、はい。すいません」




 クールな人というのは、睨まれるだけで恐ろしかったりするものだ。


 俺は蛇に睨まれたカエルのように、大人しくなった。




 そんなこんなで、俺達は自己紹介する運びとなった。




――。




 SHR《ショートホームルーム》を終えて、迎えた学内決勝大会までの僅かな休み時間。




「釈然としない」




 俺は、自分に割り当てられた席でムス~っとふて腐れていた。


 


「ど、どうしたんですか?」




 隣に座っていたフランが、心配そうに覗き込んできた。


 どういう偶然か、Sクラスに来ても彼女が隣の席になるようだ。




「いや~だってさ」




 俺は、ちらりとサルムの方を見る。


 サルムは早速Sクラスの面々(主に女子)に囲まれていた。




 あいつ、あんなモテたのか。


 いやまあ、フランがかなりの美人だし、サルムだってかわいい系の美少年だ。性格もいいし、モテない理由はない。つまるところ……欠点がないからムカつく。




 妹の方は妹の方で、当然さっきから男女問わず話しかけられていた。




 サリィの目の前には、銀髪ロングの美少年が跪いていた。


 聞き耳を立てると、「嗚呼ああ、見目麗しきサリィ嬢。僕は、あなたという一輪のバラに出会えたことを、誇りに思います!」




 めちゃくちゃ仰々しいというか、暑苦しい厄介ファンがついていた。


 確か名前はアリオスとか言ったか? この学校の暫定主席だったはずだ。


 一日目の試合でサリィのボロ負けして――そのままサリィに惚れ込んでしまったらしい。




 当のサリィも、「な、なんなんですの!? 鬱陶しいですわよあなた!」とドン引きしている。


 が、アリオスは「そんなつれないことを言うあなたも、やはり魅力的だ」などと、演劇舞台の主人公のように両手を広げて言っている。


 サリィも、なかなか個性的なヤツに好かれたものだ。




 そして――誰よりモテているのは、やはりフレイア先生である。


 男女ともに恋する乙女のような表情になっていた。




 対して俺には、誰も寄りつかない。




「――なんでみんな、そんなモテてるんだよぉ」




 俺は、ガックリと肩を落とす。


 


 いいもん。俺は、ゲームと結婚するんだもん!


 などと普段から言っているものの、やはり異性にはモテたいというのが、思春期の男の性なのだ。




「あ、あはは……リクスくんはそんなに心配する必要ないと思うよ」


「よくそんなことが言えるなフラン」




 俺は半ばべそを搔きつつ、「見ろ」と遠くに視線を向ける。


 そこには、数人の女子がこちらの様子をチラチラと窺っていた。




「ほら。気になるんでしょサラ。話しかけてきなって」「う、うん……でもなんか、私なんかが話しかけるのも烏滸がましいっていうか……頭が高いと思っちゃうし」「そんなことないって。ほら、彼がこっち向いたわよ」「ひゃ、ひゃう!」「こら! 目逸らしてどうすんのよ!」




 うぅ……なんか避けられてるみたいだ。目も逸らされたし。




「ほらね。なんか、俺嫌われてるみたいなんだ」


「う~ん。むしろ逆だと思いますけどねぇ~」




 フランは、なぜだか苦笑いをしている。


 俺が首を傾げたところで、先生から「そろそろ円形闘技場に移動しろ」との号令がかかった。




 間もなく、二日目の日程が始まるのである。




 そして――決勝大会への出場権すら持っていない俺が、不本意ながら得てしまった《選抜魔剣術大会》への切符。


 それを巡って、波乱の展開に巻き込まれてしまうことになるのだが――このときの俺はまだ知るよしもない。


 

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