第62話 表彰式と、勲章授与
「いや……え、は?」
俺はぽかんと口を半開きにしてしまう。
「さっすが勇者の弟だぜ!」「ヒューヒュー!」「おめでとう!!」「キャーリクスく~ん! こっち向いてぇ~!」
その間にも、周りの生徒達から賞賛の声が投げかけられる。
と、その場で固まっていた俺の肩を、とんと叩く者がいた。
「ほら、行きましょうリクスくん!」
叩いた張本人――フランはにっこりと微笑んで、壇上へ向かう。
「あ、ああ……」
俺は、曖昧に頷いてその後を追うしかなかった。
――かくして。
壇上に、俺、サルム、フラン、サリィの4人が並んだ。
4000人近い人の視線が、俺達に向けられる。いつも1人で過ごしている俺からすれば、この現状は非常に落ち着かない。
「おほん。ではこれより、表彰を――」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「……む?」
音声拡張魔法で朗々と声を響かせる校長に、小声でストップを入れる。
突然会話が途切れたことで全員が訝しげな表情をするが、一々構っていられない。
このままではたぶん、本気で英雄にさせられてしまう。
だから俺は、最後の希望にすがるように校長へ告げた。
「テロの阻止がどうとか、それ以前に俺はバルダを校外で魔法を使用して暴行し、退学させられるはずだったと思うのですが。そんな不良生徒に、ここで表彰なんかしちゃいけないと思います」
自分にできる、精一杯の抵抗。
しかし、なぜだろう。やはりそれが裏目に出てしまう。
「ふむ。自らの行いを猛省し、栄誉すらもいらないと謙虚な姿勢を示すか。その年でよく人ができているな、流石だ」
「え……」
音声拡張魔法をきり、俺だけに聞こえるように話しかけてくる校長。
その表情は、「感心した。私は、このような生徒をもって幸せだ」と語っているようで――
違う違う、そうはならないだろぉ!
俺は心の中で、全力で否定する。
「だ、だから俺はこの学校の校則上、退学になるべきなのであって――」
「ああ、それは心配入らない」
「……へ?」
必死に伝えようとした俺だが、出鼻をくじかれてきょとんとする。
「あの不自然に理不尽な校則は、副学校長が制定したものだ。1・学内の試験においては、致命傷にならないレベルの攻撃を行っても構わない。2・どんな事情があれ、学校敷地外において許可無く抜刀、及び攻撃魔法の使用は適正な資格がある場合を除き禁止とする。それは全て、ニムルス副学校長が組織の人間として活動しやすくするために仕組んだルールと見て差し支えないだろう」
「……?」
俺には、何を言っているのかよくわからない。
ただ、組織という言葉には聞き覚えがある。
――「私達の組織を壊滅させる目的で、ここへ来たのでしょう?」――
地下施設で副学校長と対峙したとき、そんなことを言っていた気がする。
しかし、組織とは一体……
そんな疑問に答えるかのように、校長先生は話を続けた。
「要するに。君が捕縛したニムルス副学校長は
「んなっ!」
俺は絶句した。
あの人が、悪い奴だった……だと!?
いや確かに、言われて見れば
いや、しかし。
もし副学校長が悪者だとすれば、考えられる末路は――
「あの、副学校長先生はその後どうなったんですか?」
「む? 君が保健室に運ばれたあと、エルザさんやエレンさんを中心にした部隊が研究所に殴り込みをかけ、残った構成員や幹部を連行していった。だから今頃は、王国騎士団の詰め所の牢屋だろうね」
――やはりか。
肩を落とす俺。そんな俺を見ながら、校長は言う。
「だから、君は何も心配しなくていい。悪者の作った校則は全て撤廃する。むろん、そのルールが有効であったとしても、君はそれを補ってあまりある活躍をした。退学になんてさせないよ」
そんな台詞を、満面の笑みで言いやがった。
「は、はぁ……アリガトウ、ゴザイマス」
俺は、ギクシャクした動きで仏のような校長を見上げ、辛うじて、社交辞令280%のお礼らしきものを告げることに成功した。
「うむ。さて、表彰に戻るけど、構わないね」
「はい」
もう好きにしやがれ。
投げやりな気持ちになった俺の頭に、『ドンマイ』という、苦笑交じりのマクラの念話が流れ込んできた。
「――おほん。少し魔法の調整に手間取ってしまって、いやすまない」
校長先生は、再び音声拡張魔法を使って、俺との会話でできてしまった不自然な時間の空白を誤魔化すように謝罪する。
そして、表彰式が始まった。
「リクス=サーマル。貴殿は、昨日の襲撃事件の折り、敵の放った召喚獣から数名の生徒を救い、その上で敵のアジトに潜入。敵の幹部を捕縛した上で、敵の首魁と目される人物と抗戦していた勇者エルザを援護し、彼女の危機を救った」
……う~ん? ちょっと待て。
俺、姉さんを援護したっけ?
身に覚えがない活躍まで朗々と語られ、俺は首を傾げるしかない。
「以上を加味し、リクス=サーマルと、その行動を補助したサリィ=ルーグレット、サルム=ホーエンス、フランシェスカ=ホーエンスの4名に、表彰状を与えると共に――特進クラスであるSクラスへ昇級とする」
わぁああああ! と、周囲から歓声があがる。
俺も含め、当事者達は、あまりの現実を前に目をぱちくりさせていた。
「さらに、本事件の一番の功労者であるリクス=サーマルには、ロータス勲章を授与する!」
再び沸き上がる歓声。
俺は、その勢いに背中を押されて一歩前に出ると、校長先生が俺の胸元にバッジを付けた。
それは、蓮の花の形を模した、赤い勲章バッジだった。
「これからも励みたまえよ」
「は、はぁい……」
俺は力なく一礼する。
その後、全員で校長へ一礼して、元の居場所へと戻っていく。
しかし、俺はまだ知らなかった。
この「ロータス勲章」というものが、とんでもない代物であるということを。
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